1住所に13店 テイクアウトの裏側 – 中川寛子

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日本で「ゴーストレストラン」という言葉が使われ始めたのは2019年の秋くらいから。コロナ禍で急成長するフードデリバリー(以下、出前)のバックヤードといえば分かりやすいだろう。一般的には客席がなく、宅配専門で調理、販売だけをする飲食店のことである。

難あり立地に複数キッチン・複数業態が基本

現場を見せていただこうと渋谷駅近くのJR山手線高架下にある「ゴーストレストラン 渋谷」を訪ねた。駅直結の「渋谷ストリーム」内となっているが、本体のビルとは少し離れたところにある37坪(122平方メートル)のスペースで、2020年12月まではメキシカンレストランが入っていた。

中川寛子

視認性はそれほど高くはないが、渋谷駅の、人の集まる再開発エリアに近い立地で、退店があったら次もレストランを入れれば良い気がするが、できない理由があった。渋谷区の開発計画に引っかかっており、店舗部分は何年か後に取り壊されるかもしれないというのだ。

ゴーストレストラン渋谷を運営するフードビジネスニュースサイト「フードスタジアム」の代表取締役社長・大山正氏は話す。

「飲食店は内装や設備に費用がかかりコスト回収のため2~3年といった短期での契約はしません。最低でも5~6年。それを考えるといつ取り壊されるか分からない物件を一般の飲食店が借りる選択はありません。かといって不動産オーナーとしては高架下の店舗を閉めたままで暗くしておくと落書きをされたり、外飲みの場になったり治安に影響が出かねないという懸念もある。そこで私たちは新しい使い方として半年、1年の契約でも可能なゴーストレストランを提案し、居抜きで借りることにしました」。

ゴーストレストランの場合、立地に客がつくわけではないので、短期で移転しても店は困らない。そのため不動産オーナーはこの物件のように契約期間が明確に定められない場合や取り壊し前の不動産などでも貸せるわけである。

調理するだけなら実店舗に求められる立地や視認性の良さは必要ないため、客に足を運んでもらうには難のある立地もゴーストレストランなら可能。貸す側にしてみれば難あり立地を借りてもらえることになり、借りる側からすると難がある分、安く借りられる。双方にとってウィンウィンなのである。

さて、ゴーストレストラン渋谷は、以前は100席程度の広い店舗だった。奥には向かい合う2つのキッチンがあり、現在は2店がそれぞれ使っている。1店は個人で唐揚げ、冷麺の2業種で営業、もう1店は大山氏らがうどん、肉すい、お茶漬け、スープ、ホットサンド、リゾットなどの13業種を提供している。

中川寛子

「食べに行く店を探す時もそうですが、出前でも料理のジャンルで探す人が多いため、それに合わせて複数の業種を用意しています。ラインナップは材料を共有できるメニューで、幅広い人に選んでもらえるように考えた結果です」。

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同じ食材でうどん、お茶漬け…食材の無駄を省いて多様なメニュー

複数業種の展開はフードデリバリーというビジネスの特徴を踏まえたもの。フードデリバリーは飲食店と違い、飲み物で利益を上げることができないため、確実に収益は上がるとはいえ、利幅は良くて10%ほどだ。ある意味、ハイリターンは望めない「化けない業種」なのである。そこで経営に当たっては難あり立地で家賃を抑えるのはもちろん、その他の固定費をいかに効率的に使うかが肝になる。

そのための方法のひとつが材料を共有できる、メニューの複数業種展開で、食材の無駄を省くというやり方だ。たとえば「肉すい」は元々肉うどんのうどん抜きというメニューである。そのため、うどんと肉すいなら同じ出汁を使い、うどんを入れるか入れないかで作り分けられるし、お茶漬けも同じ出汁が使える。スープに米と野菜を入れればリゾットになり、ホットサンドの店にスープがあっても不思議はない。

使う材料のうちの9割が冷凍あるいはドライの加工食材というのも固定費削減に大きな意味を持つ。食材の無駄を出さずに済むのだ。

中川寛子

「雨の日にはデリバリーのドライバーが減るため、売り上げが落ちるなど波があり、それによって食材を廃棄せずに済むように考えると加工食材あるいはどこででもすぐ手に入る食材を中心にしたメニューのほうがロスがないのです」。

例えばハンバーガーにするとバンズが必要になるが、ホットサンドなら普通の食パンを利用するので万が一材料が足りなくなったら近所のコンビニに買いに走れば良い。実に効率的に固定費を抑えるべく考えられているのである。

材料、メニューの共有は作業の手間を省き、人件費を抑える意味もある。うどんとハンバーガーを同時並行で用意するのは1人では難しいが、うどんと肉すい、お茶漬けなら中に入れるものやトッピングを変えるだけなので1人、しかも料理人でなくアルバイトで対応できる。ゴーストレストラン 渋谷では昼時の11時~13時、晩ご飯時の18時~21時はアルバイト2人、それ以外の時間は1人体制の1日平均1.7人で回しているそうだ。

中川寛子

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