政治力学分析を通して予測する近未来:『儲かる! 米国政治学』

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あなたが米国の通商政策に精通したロビイストであれば、どの党の誰に働きかけるだろうか?著者が本書を実学書と位置付けている通り、これまでの米国関連書籍とは視点が異なる。米国内政の力学を読み取り、次に何をすればよいのか?そのための手段は?本書は答えにたどり着くためのヒントとテクニックを解説する、一風変わった解説本である。

例えば民主党においては、サンダース議員のような左派から、中道と言われているバイデン大統領まで大まかに分類される。しかし本書では、具体的には財政保守派、中道左派的なニューデモクラット連合、左派の議会進歩派連盟の3つの派閥どこに所属するのか確認するべきだと著者は言う。

そして重要なのは、どの委員会ポストに就いているのか、そして予算案に対してどのような態度を示しているのかを見極めることだ。著者はそれを確認するための手段として、誰もが直接アクセスできる各議員の重要法案への投票記録評価を紹介している。

今年秋には中間選挙が予定されているが、下馬評では民主党が不利だ。民主党が負ければバイデン大統領はレイムダック化が必至の情勢だが、その場合には「裏技」を駆使して政権のレガシー作りにバイデン大統領は邁進するのではないかと筆者は予想する。そして米国内の分断はさらに拡大する。

それが、共和党が多数を占める連邦議会を迂回した「行政協定」である。オバマ元大統領が議会を避けて加入したパリ協定が、その代表例であろう。しかし、議会の承認を得ていないため、その決定をひっくり返すことは容易である。後任のトランプ前大統領はパリ協定から離脱し、バイデン現大統領が再加入を果たしたことからも分かる通り、容易に破棄されてもおかしくない不安定な取り決めだ。

このような仕組みを理解しておくと、バイデン大統領が提唱するインド太平洋経済枠組み(IPEF)の位置づけと政権の本気度がよく分かる。これも行政協定であり、バイデン後の大統領次第では失効することも考えられる。このように持続性に疑問符がつく枠組みに、日本政府はどこまで本気で付き合うのだろうか。読者がコンサルタントであれば、少なくとも東京本社にはIPEFの脆弱性を報告出来るはずだ。

タイトルのように、実際に一読した読者が仕事で儲かるかどうかは定かではない。しかし、米国動向とその影響を予測するための手段を身につけることは、ビジネスを有利に進める上で間違いなく役に立つ。

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