従業員たち全員がお互いに良好な関係を持てていれば、企業の生産性は高まり、従業員も社に長く留まってくれるようになるだろう。では、仲の良い友人が出社するかどうかに基づいて、従業員たちがオフィスに来る日を選ぶようになったらどうだろうか。果たして良い慣行といえるだろうか。
これは、リモート勤務とオフィス勤務を組み合わせたハイブリッド就業を実装し、デスクスペースを削減しようとしている上司たちにとって、ある種のジレンマとなっている。
上司たちは、もし人々が友人と同じオフィスの日を選んで出社するようになると、思考やアイデアの多様性が薄れ、最終的には組織の文化が損なわれるのではないかと考えている。
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派閥化が生む弊害
アトランタに拠点を置く独立系総合サービス・エージェンシーであるフィッツコ(Fitzco)の最高経営責任者のデイブ・フィッツジェラルド氏は、まさにこうした懸念を抱いている。
「エージェンシーの文化は広告ビジネスの成功に欠かせないものだ。友人がいる日にだけ出社することを許可すれば、派閥が生まれ、その文化が壊れてしまう可能性がある」とフィッツジェラルド氏。「そうした環境は、ビジネス、やコラボレーション、新たな文化などの創出に適していない。そこで我々は、火曜日と木曜日のオフィス出勤を義務付けている」。
ロンドン、ニューヨーク、ドバイにオフィスを持つタイガー・リクルートメント(Tiger Recruitment)のCEOであるデーヴィッド・モレル氏も、フィッツジェラルド氏の意見に賛同する。従業員が純粋に個人的な好みに基づいて勤務日を選択できるようにすることは、ビジネスを推進するうえで好ましくないとモレル氏は述べる。
「従業員と経営サイドの要求、そのバランスを取ることが重要だ」と同氏は述べる。「出勤に関して、従業員に完全な自由裁量は与えられない。コラボレーションと創造的なブレーンストーミングは、従業員が直接顔を合わせるときにもっとも効果的であり、それを促進するために、オフィスワークの日を慎重に計画する必要がある。チームの条件や、プロジェクトとビジネスの要件に基づいて判断しなければならない」。
モレル氏は具体的な措置の例として、全員が同時にオフィスにいる「アンカーデー(anchor days:[錨を下ろす日]の意)」の設定を挙げる。
異なる見解も
しかし、誰もが同じ考えを持っているわけではない。リスクは理解しているが、従業員が出勤日を選択できるようにすることで士気が高まり、従業員のエンゲージメントが高まると考えているマネージャーたちも多い。
ブライトHR(BrightHR)の最高経営責任者であるアラン・プライス氏は、オフィスワークに回帰するにしても、従業員にはある程度の独立性と自由が与えられるべきだと述べた。「従業員が同じ考えを持つ同僚と一緒に働けるようになれば、質の高いコラボレーションや良好なチームワークが生まれる可能性がある」と彼はいう。
それでも、オフィス出社日に関して完全に自由放任主義を行なってしまうと、内向的な性格の従業員たちは孤立、もしくは仕事から切り離されたと感じてしまうかもしれない、という点もプライス氏は認識している。「スタッフが組織から疎外されていると感じている場合、企業文化にマイナスの影響を与える可能性がある。特に新入社員の場合はその可能性が高くなる」。
それでも拭えない懸念
実際のところ、内向的な従業員は疎外感を感じ、それがチーム全体の士気に影響を与えるかもしれないし、新入社員は自分はいつオフィスに出社すべきなのかについて混乱するかもしれない。
また、マネジメント層の多くは部下よりも頻繁にオフィスにいることが期待されるが、彼らが内向的であるケースももちろんある。英オグルヴィ(Ogilvy UK)のマネージング・ディレクターのヴィクトリア・デイ氏が、まさにそうだ。
「私は内向的な人間なので、リモートワークの広がりは良いことだと感じている。実際、生産性も向上した」とデイ氏。「ただその一方で、ロックダウンを体験することで、多くの同僚と一緒にいることでどれだけの利益を得られるかもはっきりしてきた。いまでは、オフィスに来る日は刺激的で生産的で、実際に対面でコミュニケーションを取ることは、いいことだと考えるようになった」。
いかに具体化するかが鍵
やはり、ハイブリッドモデルを従業員とビジネスの両方にとって有益なものにするためには、上司が従業員に対し、オフィスに戻る日数を指示する必要がありそうだ。
ニュージャージー州ニューアークに拠点を置く、不動産領域の広告プラットフォームを運営するオーディエンス・タウン(Audience Town)の創業者、エド・キャリー氏は、今後はこれをどう具体的に実現するかが課題になるだろうと述べる。
「トップマネジメントたちはおそらく、全員が集まる日を週ごと、月ごとといった具合に『ざっくりと』決めるだろう」とキャリー氏。「しかし、従業員によって反応が異なったり、好む作業環境は異なる。なのでオフィス勤務が再開される際、従業員たちはトップマネジメントに対して、まずは自らの希望を伝え建設的な議論を行うべきだ。そうすれば、内向的な人も外向的な人も、通勤時間を減らし、かつそれぞれの希望を手に入れることができる」。
STEVE HEMSLEY(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)