総裁選を巡る混迷 堕落した自民 – 舛添要一

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 自民党総裁選は、17日の告示を待たずに、岸田文雄、高市早苗、河野太郎がすでに立候補を表明し、12日現在で石破茂、野田聖子は検討中だ。

 事実上の次期首相の座を巡る争いであり、メディアは候補者の実像を探るのに懸命だが、実は、そのウラで自民党の劣化が進んでいることを忘れてはならない。

 第1は、安倍勢力による1強政治の弊害である。自民党はもともとは複数の派閥の連合体であった。中選挙区時代には、たとえば三角大福中の五大派閥による連立政権という様相を呈した。主流派と反主流派の激しい戦いがあり、大平正芳元首相が言うように、派閥間の切磋琢磨が政策能力を向上させたのである。

 ところが、小選挙区制になってからは、首相に権力が集中してしまい、とくに自民党が権力に復帰した第二次安倍政権以降は、極論すれば反主流派がいなくなってしまった。選挙の候補者選定、つまり公認権と、党役員・閣僚人事を総理総裁が一手に握ることになったのである。そうなると、総裁派閥が肥大化し、反主流派は先細っていく。

 第2は、官邸主導が自民党の人事に貫徹されるのみならず、霞ヶ関の官僚機構にも適用されるようになったことである。2014年5月30日に内閣人事局が設置されて以来、この傾向は一層強まっていった。加計・森友事件のときに有名になった「忖度官僚」が、その鬼子である。本来は、縦割り行政を打破し、国家全体のことを考える幹部官僚を養成するための制度であった、安倍政権に胡麻をする官僚を大量に生み出してしまった。

 自分の出世しか考えない役人たち、そして彼らの言いなりになる大臣たち。官僚機構を大きな目的に向かって動かす能力の無い政治家が閣僚になり、国の舵取りを誤っている。その典型がコロナ対策であり、悲惨な失敗を繰り返していることは周知の通りである。

 首相や大臣は、人事権を振り回せば官僚機構を動かせると思うのは間違いであり、政策レベルで役人を論破できるだけの勉強が必要である。端的に言って、その能力を欠き、知的努力もおこなわないような政治家を閣僚にすべきではない。

 第3は、政策ではなく、マスコミ対策など小手先の世論操作で国民を動かせると思っていることである。この手法が間違いであることを証明したのが菅内閣の支持率低下である。

 安倍政権下で官房長官を務めた管は、世論調査の結果を重視し、多くの専門家を動員して、支持率を上げるために様々な対策を講じてきた。たとえば、政権に批判的な論者を排除し、御用学者や御用評論家を使うようにテレビ局に圧力をかける。国営放送のNHKは当然であるが、民放もスポンサーである大企業に示唆すれば目的を達することができる。

 また、SNS対策も怠りなく、批判的論調には反論の炎上をしかける。ネトウヨと呼ばれるような便利な存在もいる。このような世論操作は平時には一定の効果があるが、コロナのような緊急事態では全く意味を持たなくなる。

 次期総裁の任務は、このように活力を失い、堕落した自民党の立て直しである。

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