突然だが、オオサンショウウオという生物をご存じだろうか。SNSを賑わせた、人の身長ほどもある巨大な ぬいぐるみ をご記憶の方もいるかもしれない。
その ぬいぐるみ を企画・販売し、生体も多数飼育する京都水族館で奇抜なイベントが開催された。オオサンショウウオに添い寝をし……あるいは添い寝をされて、寝落ちできるという企画である。もう、どこからツッコんでいいのかわからない。
・「オオサンショウウオとねむリウム」
「全オオサンショウウオファン待望のイベント」と銘打ったそれは、「オオサンショウウオの日」である9月9日に開催。会場は自宅の「お布団の中」……深夜に水族館から中継されるライブ配信なのである。
正直に告白すると、筆者はオオサンショウウオには特段の思い入れはない。そもそも「オオサンショウウオの日」の存在すら知らなかった。この日を待ち望んでいた「全オオサンショウウオファン」とは少々温度差があることは認めなければならない。
ちなみに記念日の由来は、9月に繁殖期を迎えて活動的になるから……は、まだわかるとして「9の形がどことなくオオサンショウウオに似ているから」だそう。アバウトだな。
ファンでもないのに、なぜイベントに興味をもったのかというと、就寝前に水槽の様子を眺める「ねむリウム」にはリラックス効果があり、寝付きがよくなるという体験者の声があったから。「1時間以内に寝落ちした」という回答が70%も!
・参加当日
参加費の100円をLINE Payで支払って、配信開始を待つ。22時~24時という寝落ちにぴったりの時間帯だが、コロナ禍での活動不足がたたって生活リズムが崩れ、深夜2時就寝が続いている筆者に対抗できるのか。退屈して気絶するという可能性はあるかもしれないが……。
定刻になり、オオサンショウウオ水槽が画面いっぱいに映し出される。この時点で非常~~~に美しい。清流を思わせるきれいな水で、水槽の奥まで見通せる透明感がある。ガラスの存在をまったく感じさせない。
照明が当たっているところは、まるで太陽光が差し込んでいるかのようで、ゆらゆらと水中に揺らぎが生まれる。食べ残しの漂う水や、傷だらけのガラスといった、水族館のイメージが一新される!
そこに、のっそりと動くオオサンショウウオたち。夜行性のため昼よりも活発に動くのだそう。
2時間ものライブ配信なので、定点カメラでずっと写していくのかと思ったら大間違い。カメラが動く動く! 人間の赤ちゃんのような「おてて」をドアップにしたり、息つぎに水面に上がる個体を追いかけたり、“心得てらっしゃる” カメラワークなのである。ちっとも退屈しない。
・飼育員さんのトークが絶妙
そして随所に挟み込まれる飼育スタッフトーク。背後にはヒーリング音楽のような静かなBGMが流れ、寝落ちした人を起こさないよう配慮されている。
それに合わせた、ゆっっったりした独特のリズムで、視聴者からの質問に答えていく。ルールがあるわけでもないのに、少なくない投稿者が「オオサンショウウオさん」と呼んでおり、友愛と敬意しかない。こんな世界があったのか……汚れた心が浄化されていく……。
「前脚と後ろ脚では指の数が違う」「体側面のビラビラには重要な役割がある」「皮膚呼吸する」など、筆者もやたらオオサンショウウオに詳しくなってしまった。画力はともかくとして、資料なしでもイラストに特徴を描き込めるようになった。
スタッフのマツモトさん、カワサキさん、イシカワさんの掛け合いから垣間見える先輩・後輩関係や、水族館の裏側もおもしろい。
とりわけ、隠しきれないオオサンショウウオ愛がモレ出てしまうイシカワさん、ひょうひょうとしながらもボケ・ツッコミ自由自在のカワサキさんは絶妙のコンビである。淡々と会話が進むのに、思わず笑ってしまう場面が満載だった。それらを聞いていると「寝るヒマがない」のである。
・2時間オオサンショウウオを見続けると…
結果として、2時間が経過してもまっっったく眠くならなかった。トークとトークのあいま、静かなBGMでボーッと水槽を眺めているとウトウトしかけることもあったが、いざQ&Aが再開すると食いついてしまう。
この一夜で筆者が手に入れたものは……オオサンショウウオをそらで描けるスキル、オオサンショウウオの生態に関する豆知識、そしてオオサンショウウオ愛である。
じーっと見ているうちに、もう他人とは思えない間柄に。ホレた……。京都水族館に行きたい……!!
「しまった見逃したぁぁぁ」という方もご安心いただきたい。今回は#1ということで、次回の開催が決定している。参加型ライブ水族館「まいにち水族館」を共同で運営している「すみだ水族館」が次の舞台だ。どの生物の水槽になるかはこうご期待である。