DASUNGの「Paperlike 253」は、E Ink電子ペーパーを採用した、25.3型のディスプレイだ。一般的なデスクトップ用のディスプレイとほぼ同じ外観、同等の画面サイズでありながら、E Ink電子ペーパーを採用していることが大きな特徴だ。
一般的にE Inkと言えば、目に優しく、コントラストがはっきりしていることに加え、低消費電力、視野角の広さといった特徴がある。直射日光下での見やすさも、液晶と比べた場合の利点だ。一方で表示はモノクロで、かつ書き換え時に残像が発生するため、動画や画面のスクロールにはあまり向かないという特徴がある。
今回の製品は屋内における据置利用を前提としているため、低消費電力や屋外の視認性の高さなど、モバイルユース向けの特徴が役に立たないわけだが、こうした中でどれだけの実用性があるかは気になるところだ。
クラウドファンディングでの資金調達に成功し、まもなく出荷が始まろうとしている本製品は、年内には国内代理店であるSKTを通じての一般販売も予定されている。このたび評価機を借用したので、その実用性をチェックしていく。
3つの表示モードと9段階のコントラスト調整、5段階の速度調整が可能
さて一般的に、こうしたE Inkのディスプレイの評価ポイントは、大きく2つに分けられる。
1つは画面のクオリティだ。そもそもE Inkのディスプレイを導入するのは、目への負担を軽減するのが大きな目的のはずだ。それゆえ画像にせよテキストにせよ表示が見づらく、目に負担がかかるようであれば、わざわざ導入する意味がない。
本製品は複数の表示モードを備えており、表示する内容に合わせた快適な表示を可能にしている。具体的には「グラフィックモード」、「テキストモード」、「ビデオモード」という3つのモードを、画面の左下にあるボタンで切り替える。
これが「BOOX」シリーズのようなE Inkタブレットの場合、アプリごとに適切な表示モードに自動的に切り替えることも可能だが、本製品は単なる外部ディスプレイなので、切替はあくまでも手動となる。ここは致し方ないだろう。
そんなわけで表示する内容が変わるたび、ボタンをカチカチと押しつつ、画面を見ながら意図通りに表示できるモードを探すわけだが、ボタンの操作性は悪くないため、そうストレスではない。ボタンがやや硬いのと、ボタンに手を伸ばすのが多少億劫というだけだ。
さらにこれらのモードを選択したあと、「+」、「-」のボタンを使い、コントラストを9段階から調整する。実際にはそれほどコントラストに差がなく、実質4~5段階程度では? と思わなくもないのだが、特に画像のグレー部分はここの調整次第で見た目ががらりと変わるので、出番はかなり多い。
また「+」、「-」それぞれのボタンと「M」ボタンの同時押しで、リフレッシュレートを5段階で調整できる。書き換えのスピードを重視するか、それとも残像の少なさを重視するかという、E Inkではおなじみの設定項目だ。最大値の「Fast++++」にした場合のスクロールの滑らかさについては、のちほど動画で紹介する。
さらに左端の「C」ボタンを押すと、手動で画面のリフレッシュを実行できる。こちらもE Inkではおなじみの機能で、しばらく使っていると、描画が汚いと感じた瞬間に「C」を押す習慣がついてくる。
なお本稿執筆時点では未リリースのため試用していないが、専用のWindows用ユーティリティを使うことで、ソフトウェア上でこれらの操作がボタンを使わずに行なえるようになるとのこと。ディスプレイとの間に距離がある場合などは重宝するだろう。
高速なレスポンス。タイピングはもちろんスクロールにも追従
さて、E Inkディスプレイでもう1つ重要なのはレスポンスだ。E Inkの性質上、スクロールなどでワンテンポ遅れるのは仕方ないとしても、テキスト入力を行なうにあたり、タイピングの速度に画面の書き換えが追従しないレベルでは、使う価値がない。
結論から言うと、本製品はこの点においても優秀で、漢字変換の候補の表示などでもきっちり追従してくる。筆者のタイピング速度は、一定レベルの速さではあるものの最速レベルではないという意味で「5段階の4」くらいだと思うが、そんな筆者から見て、通常のテキスト入力においてストレスはほぼ感じない。詳細は以下の動画を観てほしい。
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これがタイピング速度が「5段階の5」の人になると、物足りなさを感じるかもしれないが、既存のE Inkデバイス、具体的にはキングジム「ポメラ」の電子ペーパーモデルや、同じDASUNGの従来モデル「Paperlike HD-FT」と比べても、レスポンスは高速だ。「国内で販売されているE Inkデバイスの中では」という但し書きはつくものの、現行の選択肢の中では最速だろう。
こうしたことから、本製品をサブディスプレイとしてPCに接続し、ドキュメントの表示やテキストの入力に利用するのは、極めて実用的だ。特に本製品は、画面を90度回転させて縦向きでの利用にも対応するので、A4サイズのドキュメントを画面いっぱいに表示させられるほか、テキストエディタもそれだけ多くの行を表示できる。
また本製品はスクロールについても、驚くほどヌルヌルと動く。特にWebページは、ビデオモードで速度優先のモード(Fast++++)に設定すると、一般的な液晶のディスプレイと大差ないレベルで動く。テキストの視認性は多少落ちるので、じっくり読むためには速度を若干落とす必要はあるが、従来はあきらめざるを得なかったウェブページの閲覧にも対応できるのは大きな利点だ。
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歴代最高峰のE Inkディスプレイ。価格は今後の課題か
以上のように、E Inkのディスプレイとしては歴代でも最高峰と言っていい本製品だが、今回試用してみて唯一気になったのは、フロントライトを搭載していないことだ。
最近のE Inkデバイスでは、フロントライトを搭載し、薄暗い場所でも使うことができるのがトレンドとなっている。しかし本製品は、これだけの筐体サイズでありながら、バックライトはもちろんフロントライトも搭載しないので、ディスプレイが影になってしまう場所に設置すると、視認性が大幅に低下してしまう。
そうなると画面を顔を近づけ、覗き込むような姿勢で作業せざるを得ず、目に優しい特徴が意味をなさなくなる。そのため本製品の設置にあたっては、壁を背にして、天井の照明がきちんと正面上から画面に当たるように置くことが重要だ。これがどうしても難しいようであれば、ディスプレイの上に取り付ける市販のLEDライトの追加も検討したい。
もう1つは価格だろう。A4サイズのE Inkタブレットが数万円はすることを考えると、幅56×高さ31.5cm、3,200×1,800ドットという特注のE Inkパネルを使った本製品が20万円台(Indiegogoでの一般販売価格は2,000ドル)というのは、むしろ安価な気もするが、個人で手を出すには勇気がいる価格であることに変わりはない。当初は文教向けが主なターゲットになるのはやむを得ないだろう。
とはいえ今から四半世紀前、コンシューマ向けの液晶ディスプレイが登場し始めた頃は、20型クラスが10万円を切ることすら難しかったことを考えると、今後出荷ボリュームが増えることにより、価格が下がってくることは十分に期待できる。ここまで見てきたように実用性は十分なので、まずは一般販売の開始を待ちたいところだ。
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