現役医師がコロナ専門家に憤る訳 – PRESIDENT Online

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コロナ禍はいつまで続くのか。医師の大和田潔さんは「自粛と人流抑制、ワクチンに頼る今の対策ではコロナは終わらない。感染症法上の分類を季節性インフルエンザ並みに引き下げ、『コロナにかかっても大丈夫』という環境を整えるべきだ」という――。

※写真はイメージです。 – 写真=iStock.com/shih-wei

自宅療養で深刻化する「治療ネグレクト(放置)」

メディアでは新型コロナの陽性者数の激増や在宅死、妊婦さんの死産が伝えられ、連日「陽性者数増大」「自宅療養者数増大」「医療崩壊」の大合唱が続いています。

出口のない緊急事態宣言が何回も出され、全国知事会はロックダウンまで言い出しています。子どもたちは修学旅行すらキャンセルを強いられ、私たちのイライラや経済的損害、社会や教育の破壊も広がっています。

なぜこのようなことになってしまったのか。私は、現在の”自粛一辺倒”の政策は、社会と臨床を理解しないまま政府に助言を与える“コロナ専門家”たち(政府分科会やアドバイザリーボードの専門家)によるマネジメント(注1)に問題があると思っています。

コロナ患者さんは医療機関ではない保健所に管轄させ、入院すらできず自宅療養を強いられています。8月27日の厚生労働省の発表によると、新型コロナに感染し自宅療養中の患者は25日時点で過去最多の11万8035人に上り、初めて10万人を超えました。

しかし初期治療を施さず、患者に重症化するまで自宅にとどまらせる現状は、まさに「治療ネグレクト
(放置)」と呼んでいいと思います。

これまでコロナ専門家やメディアは、新型コロナが感染症の一つにすぎないにもかかわらず恐怖と不安だけを強調してきました。私は、過剰な自粛や人流抑制に偏ったコロナ対策の結果生じた私たちの損害について繰り返しお伝えしてきました。方向性を見誤った結果、現状のような「治療ネグレクト」が深刻化していると考えています。

コロナの唯一の出口戦略は、治療体制を整備することです。初期治療から一貫した治療を患者さんに提供することです。治療の間口を広げ重症化を防ぎ、万が一重症化してもしっかり治療できる体制の構築が何よりも必要です。こうしたマネジメントは、起きている出来事を観察して未来の方針を立てることが基本です。

「医療逼迫」を招いた受け皿の偏在

メディアが報じない衝撃的な事実を東京慈恵会医科大学の大木隆生先生が指摘されているので引用したいと思います。

「都にある病院は約650,病床約10万床、ICU/HCUは2,500。その内コロナを受入れているのは75(11%)病院で確保ベッド6千(6%)、コロナ重症者は39(6%)病院で確保ICU390(15%)ベッド。この様に元々受皿が小さく集中しているのですぐにひっ迫する。

メディアは過去1年間,バカみたいにこうした一部のコロナ病院にしか取材に行っていないから「医療崩壊!」の声しか聞かれないのは当然だし、分かり切った事。今、取材すべきは600近い非コロナ病院と多くがコロナ治療に参画していない都内12,700の開業医。ここに医療オールジャパン体制を構築しウィズコロナを実現する鍵がある」(8月16日twitter)

「過去1年間の全国75私立医大/分院でのコロナ入院数で慈恵がトップ。でも通常医療はほぼ維持、コロナに直接関与しているごく一部の医師/看護師以外に疲弊感もない。(中略)日本では受け皿が小さい上に、自宅療養/放置か、保健所判断の入院かの2択なので無理がある。感染者数が数倍多い欧米でもコロナ入院率は5%程度だが、町医者/外来診療を含め医療挙国体制がとれているのでパニックになっていない。2類相当のままで自宅放置か、5類でタイムリーかつ適切な医療か、明白。」(8月18日twitter)

インフラ自体は日本に存在しすでに成功例も観察されてきたのに、専門家は、社会不安を取り除くポジティブなことをほとんどしてきませんでした。東京大付属病院の瀬戸泰之病院長も菅義偉首相に「コロナ以外の医療も重要」と苦言を呈しました(注2)。

地域医療の最前線で患者と向き合った長尾医師

コロナ発生当初から発熱外来を立ち上げ、地域医療の最前線に立ち続けた兵庫県尼崎市の長尾クリニック院長・長尾和宏先生の取り組みにも注目すべきでしょう。プレジデントオンラインが、「『在宅放置でコロナ死する人をもう増やしたくない』長尾医師が“5類引き下げ”を訴える本当の理由」(注3)という記事にまとめています。

「救急病院に行く人は、いきなり重症化しているんじゃないですよ。どこかで診断されて、1週間か10日放置されるから、ああいう状態で行くわけですよ。(中略)ステロイド注射もずっとやってるんですけど最初の段階でやらないから重症化して運ばれることになっているんです」

マスクをして咳をする女性※写真はイメージです – 写真=iStock.com/west

長尾先生は初期治療の重要性を説きつつ、「コロナ用の感染症法上の分類をつくって簡素化して皆んなで見れば終わる」と訴えています。私も、昨年からこうした現状に気づき、コロナ陽性患者さんが保健所管理になる前にステロイドとマクロライドを処方し電話対応してきました。適切な初期治療と観察で患者さんを守ることができます。

基幹総合病院の大木先生も地域医療の長尾先生も理想論でも精神論でもなんでもなく、自粛の社会破壊だけに偏り専念してきた専門家会議をかわしながら、患者治療のために実務的に戦ってきた「すでに起きたリアルなファクト」の観察報告です。

まとめると以下になります。

1.初期治療を診療所などで行えば軽症で治る人が圧倒的に多い。
2.流行初期に制定された2類継続がまん延期の治療を阻害しつづけている。分類を改定すれば初期治療できて、同時に医療逼迫(ひっぱく)もすぐに氷解する。
3.総合病院には、医療逼迫などしないインフラがすでに存在する。
4.政府のアドバイザーである専門家が治療方法を構築せず「治療ネグレクト」をひきおこし放置している。
5.コロナウイルスは常在化したので通常診療の一つの業務として片付け、他の疾患の治療の邪魔にならないようにする

どの病院にも、インフルなどで院内クラスターが起きないように感染病室があります。土着化したコロナを特別視しないでインフル並みの扱いにすれば、入院しやすくなり他の病気の治療にも影響を与えない状況に生まれ変わるわけです。すぐできることです。

初期治療が重要である理由

コロナは抗ウイルス薬がないのに治療できるの? と思われる方も多いでしょう。何も治療がないとメディアも専門家も喧伝し不安をあおってきました。それはウソです。最重症者である人工呼吸器やECMOの装着者も8割が生還します(注4)。

コロナの抗ウイルス薬はまだ開発中ですが、人間には治癒能力があるので必須ではありません。より軽症の人を含め回復する人がほとんどであることが明確です(注5)。そもそも季節性コロナは弱毒なため、治療薬は開発されてきませんでした。

コロナ肺炎はウイルスそのものの障害だけでなく、必要以上にウイルスの侵入に反応して肺に炎症を起こすことで悪化します。もともと何らかの病気、慢性炎症や喫煙などの原因を持っていたりすると、それが種火になり悪化しやすくなります。肥満者や持病がある方、高齢者でその傾向が著明です。

そこで初期治療としてステロイドで過剰免疫を抑えて免疫調節作用を持つ抗生物質を用います。しばらく過剰な炎症を抑えられれば、ご本人の免疫が上がってきて治癒します。

悪化はCTで判断します。入院時の治療もその延長線上です。弱った呼吸を酸素投与や人工呼吸器、ECMOなどの機械で助けながら、ステロイド点滴と炎症を抑える特殊な薬剤の点滴を行い回復を待つのです。

最近、抗体カクテル療法(注6)という言葉を耳にされた方も多いでしょう。ウイルスに対する人工的に作った抗体のお薬です。併用すると体内のウイルスの増殖を抑えます。こちらも初期の段階で用いる必要があるため、外来で点滴して良いことになりました(注7)。

メディアでは報じられていませんが、治療の方針は初期からICUまで連続しています。ですから地域医療の長尾先生から基幹総合病院の大木先生まで同じ現象が観察されてきたわけです。コロナ陽性の判断後、治療を開始すべき時期を保健所管理にして解熱剤だけで患者さんを自宅に放置し、診療ルールを厳重化しすぎて治療医療機関を減らし過ぎている「治療ネグレクト」が問題なのです。

陽性者抑制より治療に軸足を置くべき理由

次に現在のコロナの性質が観測されています。陽性者数と死亡者数が「リンク切れ」したことが、世界中で観察されています。

国内の感染者数 1日ごとの発表数NHK新型コロナウイルスより作図

国内の死者数 1日ごとの発表数NHK新型コロナウイルスより作図

重ねてみましょう。

図表1と図表2を重ねたもの

死者数は5月中旬をピークに、減少傾向が続いていることが分かります。東京や大阪以外の地方都市、例えば神戸でも「全体の死者数も大幅に減少」と同様の現象が観察されています(注9)。

陽性者数の大部分が無症状や軽症状で、被害とのリンク切れを起こしています。昨年とは局面が完全に変化し、防御よりも発生してくる重症者治療を日本の各地方で行うべきであることが明確です。

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