ワタミ社員「原則ワクチン接種」へ…11月から段階的に導入(読売新聞)
外食チェーン「ワタミ」が、新型コロナウイルスのワクチンを原則として接種するよう社員に働きかけることがわかった。望まない場合、代わりに定期的に検査を受けてもらう。接種した社員を増やすことで、利用者に安心を提供する狙いがある。
対象は国内社員の約1500人で、約7000人のアルバイトについても検討する。接種を終えた社員や検査で陰性が確認された社員は何らかの表示をつけ、利用者の目に留まるようにする。まずは11月から新たに出店を始める新業態の飲食店で導入し、段階的にグループ全店に広げる考えだ。
ワクチン接種の義務化の動きはグーグルやウォルト・ディズニーといった米企業で幅広く広がる。感染力の強いインド由来の変異ウイルス「デルタ株」の広がりで感染者数が再拡大する一方で、接種が頭打ちになりつつあるためだ。
国内企業は、本人の意思を尊重するという考え方が根強く、従業員に接種を強く求めることは難しいとみられている。政府の新型コロナ対策の基本的対処方針も、「最終的には個人の判断で接種されるもの」とする。ワタミの接種働きかけは、他企業に影響を及ぼす可能性がある。
さてワタミがワクチン接種を原則として社員に働きかけるのだそうです。これ自体は良いことで、社員を守る、顧客を守る、ひいては公衆衛生の改善に繋がるものと言えます。ただ「望まない場合、代わりに定期的に検査を受けてもらう」などという逃げ道を用意してしまうのはいただけません。医師が不適格と判断しない限り全員接種ぐらいはやってもらえないと、安心はともかく安全は確保できないでしょう。
曰く「国内企業は、本人の意思を尊重するという考え方が根強く、従業員に接種を強く求めることは難しい」、そう伝えられるていますが、例によって私の勤務先も似たようなところです。ワクチン接種はあくまで任意であり、それを上長が把握しようとしてはならない、ワクチン接種の有無によって業務の割り当てを変えてはならないと、親会社から通達まで飛んでくる有様ですから。
なんともワクチン忌避者への配慮が行き届いた話ですが、いかがなものでしょうか。こうした個人の我儘を許せば、感染症の封じ込めは遠ざかり、社会全体がリスクを抱え込むことになります。すなわち公共の福祉が侵されるわけですけれど、まぁヘイトスピーチに言論の自由を適用してしまうような社会では、当たり前の結果なのかも知れません。他人を脅かすような振る舞いよりも、個人の自由の方が我々の社会では重んじられるわけです。
とはいえ、ワクチン接種以外でも同様に任意であることが当然視されてきたかと言えば、そんなことはないはずです。例えば私の会社でも部署によっては飲み会への参加が強制であり、「(給与は出ないが)業務の一環」「評価にも関わる」と上司から説明を受けていましたし、組合からも「コミュニケーションを深めるために大切なこと」との回答をもらいました。飲み会への参加が任意などとは聞いたことがないのですが――ワクチン接種に限っては任意だそうです。
ワタミがブラック企業の代名詞として名声をとどろかせていた当時、創業者の著書やビデオレターを読んでの感想文提出が定期的に求められるとか、休日のボランティア活動への参加を強要されるなどと、本来業務と無関係な部分での拘束が多いと取り沙汰されていました。その辺が現在どうなっているかは知りませんが、ワクチン接種よろしく本人が望まなければ拒否しても構わないのなら、少しだけホワイトに近づいたと言えるでしょうか???
なおワクチン接種については小池都知事も呼びかけていましたが、そもそも打ちたくても打てない状況が今なお続いているわけです。私の住んでいる市では予約受付すら開始されていません。ワタミが自社のアルバイトまで含めて職域で接種機会を確保してくれるのであれば賞賛に値することですけれど、接種に関しては個人の努力任せで会社は旗を振るだけに止まるのなら、それはアリバイ作りにしかならない空疎なパフォーマンスと言えます。
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なおワタミでは「接種を終えた社員や検査で陰性が確認された社員は何らかの表示をつけ、利用者の目に留まるようにする」そうです。ではワタミの安心印が付いていない従業員を見かけたら、客はどうしたらいいのでしょうね。むしろ表示の「ない」人の存在に不安を感じさせる代物と思えないでもありません。
工事現場に立ち入るにはヘルメットの着用が、手術室に入るなら清潔な白衣の着用が求められます。そこに「何らかの表示」を云々する余地など当然ないわけです。ワタミでも一部の社員に表示をつけさせるとか不毛なことに労力を費やしていないで、全従業員のワクチン接種の義務化と機会の提供に努めるべきでしょう。