IKEAに行くとコーディネートのセンスの良さにいつも感心する。家具を実際の部屋っぽい感じに配置したショールームみたいなスペースのことだ。服などの売り物ではないアイテムまで配置してあり「こんな人が住んでいそう」といった感じに架空の住人の人物像を想像できるほど作り込まれている。
本棚にも高確率で本が配置されていて隙が無い。ところでその本なのだが、一度だけ店員さんに聞いて表紙をめくってみたところ、スウェーデン語で書かれたちゃんとした本なことが発覚。それ以来、何が書かれている本なのか気になってしかたがない。
・都内の3店舗
ということで、IKEAの本棚の本を調べてみるのが今回の記事の趣旨。全国全てのIKEAを回ることはできないので、今回は新宿、渋谷、原宿の3店舗をチェックすることに。撮っていいか店員さんに聞いて、背表紙だけをメモ代わりにスマホで撮影してきた。それをもとにタイトルや著者名でググるという作戦だ。
ちなみに、中にはあえて表紙を厚紙で覆って無地のように見せているものもあったが、そのケースはスルーした。括弧内がタイトルで、隣に著者名。判明した限りで簡単に本の内容にも触れていくこととする。
また、スウェーデン語から日本語への翻訳には、機械翻訳を使用した。ただ、日本語への直接の翻訳が意味不明な時もあったので、その時は割とまともに訳されていそうな英語に機械翻訳したものを、筆者がフィーリングで日本語に訳した。
そのため、全くデタラメな可能性があることを了承していただきたい。全ネットニュース史上、最も精度の低い記事を見ているくらいの心づもりでプリーズ。それではいってみよう。
IKEA新宿の本棚の本
・「Halva liv」 Qaisar Mahmood
背表紙は白地に赤い文字。Wikipediaによると、Qaisar Mahmood氏はパキスタン生まれのスウェーデンの作家。
電子版が楽天で買える。楽天すげぇな。タイトルは恐らく「半生」的な意味。
・「Pedagogik och politik」 Plutarchos
プルタコスの「モラリア」の一部な気がする。タイトルの単語が英語と似ているので、スウェーデン語が分からなくても想像できるのが面白い。Pedagogik は Pedagogy(教育学)で、Politik は Politics(政治学)だ。
英語のPedagogyとPoliticsはどちらもルーツがギリシャ語だったと思うが、スウェーデン語もきっとそうなのだろう。漢字が似ていて中国語がなんとなくわかるのと同じヤツだ。「モラリア」から政治と子供の教育に関する記述をまとめたものじゃないかなぁと。たぶん。
・「Löftet」 Audrey Magee
背表紙は白地にエンジ色の文字。出版社のHPがヒットしたがやはりスウェーデンのものだった。どうやら第二次世界大戦を舞台にした小説っぽい。タイトルは「約束」という意味か。
・「Göra män」 Mats Söderlund
背表紙は白地に光沢のある小豆色の文字。男を男たらしめるものについて書かれた本な気がする。タイトルの英訳は「Making men」とか「Make men」らしいので、きっとそういう感じ。正直よくわからない。
・「Förbjudet att visa ohämmade känslor i pensionatets entré」 Mamen Sanchez
背表紙は白地に赤い文字。電子版が楽天ブックスにあった。夫に捨てられたセシリアがゲストハウスを運営するのだが、そこで何やら色々起きるらしい。やはりスウェーデン語だが、著者はマドリード生まれとのこと。
タイトルの英訳は「It is forbidden to show uninhibited feelings in the guest house’s entrance」。日本語だと「玄関で感情を表に出すの禁止」みたいな感じか。
・「Livet som sådant」 Tomas Lappalainen
背表紙は白地に黒文字。イギリスのAmazonにあった。内容はよくわからないが、タイトルは「そのような生き方」みたいな感じ。人生観についての啓蒙書か哲学書の類だろうか? 意識高そう。
・「Den trettonde funktionenn」 Ola Wikander
背表紙は黒字に銀色の文字。楽天Booksにあった。ファンタジー小説なのだろう。偉大なるドムウェルド王国は荒廃し、神のごとき支配者アンブロガエルのもとで神聖セラフィムは勝利に勝利を重ねていた……というのが概要の書き出し。壮大だ。
スウェーデンで人気の作家なようで、いくつかの権威ある賞をとっているそうだ。タイトルの英訳は「The thirteenth functionn」。日本語だと「13番目の機能」とか、「13番目の権限」とか、なんかそんな感じだと思う。
・「Den åttonde dödssynden」 Rebecka Edgren Aldén
背表紙は黒字に銀色の文字。楽天Booksにあった。こちらは恐らくサスペンス小説。概要によると、ノラという成功したライターが主人公。
ある日ノラの家の向かいにクララという人物が引っ越してきたことをきっかけに、色々と起こり始める的な感じっぽい。日本語だと「第八の大罪」みたいな感じだろうか。
・「Gyllene sonen」Pierce Brown
背表紙は黒字に金色の文字。これはアメリカの小説のスウェーデン語版だ。原題は「Golden Son」でレッド・ライジング3部作の2作目とのこと。恐らく日本のAmazonにもある「レッド・ライジング2 黄金の後継者」が日本語版なのではないか。違うかもしれないけど。
IKEA新宿で見かけたのは以上の9冊。IKEA新宿のショールームの住人は、割と難しそうな本からSFやサスペンスといった娯楽小説まで、幅広いジャンルを嗜んでいるようだ。
IKEA渋谷の本棚の本
・「Mitt medvetande」 Hugo Lagercrantz
背表紙は白地に黒い文字。ドイツのAmazonで発見。著者は小児科医とのこと。概要的に、自らの意識がどのように形成されてきたかについて記した本なのだと思う。タイトルを訳すと「私の意識」みたいな感じ。
・「Allt som blir kvar」 Sandra Beijer
背表紙は白地に青い文字。ボーイフレンドに振られたマチルダが主人公。傷心をいやすために親友のミロンと付き合い始めるのだそう。なんかそういう内容らしいが、ぶっちゃけよくわからない。タイトルの英訳は「All that remains」なので、日本語にすると「あとに残ったもの」みたいな。
・「I andras skönhet」 Adam Zagajewski
背表紙は灰地に金の文字。英ブックメーカー Ladbrokes主催のノーベル文学賞を誰がとるかを予想する賭けで高オッズが付いたこともある、有名なポーランドの詩人の本。
内容は著者自身の人生の回想録とのこと。詩ではなく散文の作品だそう。英訳版は日本のAmazonでも売られている。タイトルを日本語にするなら「もうひとつの美」って感じ。
・「TRALALA-LA!」 Thomas Tidholm
背表紙は白地に青文字。著者はスウェーデンの児童向け図書の作家だと思う。この本には5つの作品が収録されているようだ。内容はよくわからない。
・「En bror för en syster」 Lena Matthijs
背表紙は白地に黒文字。たぶん犯罪小説かと。Wikipediaによると、著者自身も警察署長なのだとか。犯罪者の兄弟が乗る車が、これまた兄弟の警察官が運転するパトカーに追われた果てに事故を起こして犯罪者側の兄が死に、弟が警察に復讐していく……的な感じ。
タイトルの英訳は「A brother for a sister」。概要的に、たぶんこれはハンムラビ法典の「目には目を(英語だとEye for an eye)」的な意味での「A brother for a sister」な気がする。
・「Banbrytande mode : från korsett och kuvertväska till kortkort」 Karina Ericsson Wärn
背表紙は白地に金の文字。タイトルの日本語訳は、恐らく「ファッションの先駆者たち:コルセット、封筒型バッグからミニスカートまで」といった感じ。なんとなくどんな本か分かる。
そして新宿にもあった本が以下の通り。
・「Pedagogik och politik」 Plutarchos
・「Förbjudet att visa ohämmade känslor i pensionatets entré」 Mamen Sanchez
・「Den trettonde funktionenn」 Ola Wikander
・「Livet som sådant」 Tomas Lappalainen
以上がIKEA渋谷で見かけた本たちだ。新宿よりもバリエーションが豊富な気がする。
IKEA原宿の本棚の本
・「Mörk vind」 Gordon Chaplin
背表紙は黒地に銀色の文字。アメリカの作家の本の、スウェーデン語版のようだ。原題は「Dark Wind」で、日本のAmazonでも買える。
内容はノンフィクションとのこと。著者自身がパートナーのスーザンと共にボートで太平洋を横断中、台風に巻き込まれてスーザンが亡くなってしまった出来事について綴ったものとのこと。いきなり重い。
・「Livsdagen lång 」 Eyvind Johnson
青っぽいマーブル模様みたいな感じのカバー。Wikipediaによると恋愛小説らしい。著者のエイヴィンド・ユーンソンは、1974年のノーベル文学賞受賞者でもある。
・「Tobaksvejen」 Erskine Caldwell
「Livsdagen lång 」と同じ、青っぽいマーブル模様みたいな感じのカバー。アメリカの作家アースキン・コールドウェルの「タバコ・ロード」をスウェーデン語に訳したもの。映画にもなっているため、知ってる人も多いのでは。学生時代にアメリカ文学の授業で部分的に読んだ気がする。
・「Och var hör du hemma?」 Anne Tyler
背表紙は白地に赤い文字。アメリカの作家、アン・タイラーの小説「Digging to America」のスウェーデン語版。英語版は日本のAmazonでも買える。
Wikipediaによると、ボルチモア空港で全く違うタイプの2つの家族が、同時にそれぞれ韓国人女児を養子として迎え入れる……というのが物語の始まりらしい。
・「Mitt århundre」 Günter Grass
背表紙は赤地に黒い文字。ドイツのノーベル文学賞受賞作家 ギュンター・グラスによる「私の一世紀」のスウェーデン語版。
・「Den amerikanska mardrömmen」 Susan Faludi
背表紙は白地に赤い文字。アメリカ人ジャーナリストのスーザン・ファルディによる本。タイトルの英訳「American Nightmare」と、Wikipediaに書かれている概要的に、「The Terror Dream」のスウェーデン語版じゃないかと。アメリカ同時多発テロ事件を扱う報道に潜む性差別的な問題について扱った内容だそう。
.「Katten Murrs Tankar Om Livet」 E.T.A. Hoffmann
背表紙は黒字に金の文字。E.T.A.ホフマンの「牡猫ムルの人生観」のスウェーデン語版。夏目漱石の「吾輩は猫である」の話をするときに、よく比較されるやつ(漱石の方が後)。
・「Otryggare kan ingen vara」 Bengt-Åke Cras, Agneta Cras
背表紙は黒字に白い文字。久しぶりのスウェーデン人作家の本。概要によると、どうやらスウェーデンで起きた、とある悲劇に基づいた内容だそう。
3人姉弟が、ヤバすぎる母親と、母親が連れてくる複数人のヤバすぎる父親のもとで悲惨な少年時代を送った過程について書かれているらしい。長女の父親は家族を捨てて消え、下の兄弟の父親は家庭内暴力で逮捕。
その後に母親が連れてきた父親のうち、1人はかつて結婚していた妻と2人の子供を殺害した殺人犯。もう1人は装填済みの銃を隠し持ち、母親と姉弟に暴力を振るうタイプ。兄弟のうち長男は脳性麻痺を患っていたが、彼に支給される年金を母親が盗んだために10代の頃に餓死し、弟の方はドラッグ中毒になって25歳で交通事故死したとか。
この本についての情報があまり出てこない上に、私(江川)もスウェーデン語は翻訳頼みなため全く自信が無い。もし本当なら凄まじすぎる。さすがに誤訳じゃないのか? まあ、それすらも判断できないのだが。スウェーデン人の有識者の方がいたら詳しく教えて欲しい。
・「Färgguiden : 27000 färger på tre olika papper」
背表紙は石像の写真の背景に、灰色の文字。タイトルを訳してみると「カラーガイド:3種類の紙に描かれた27000色のカラーバリエーション」という感じだった。なるほどね。
・「Framstegets orkan」 Nathan Shachar
背表紙は黒地に銀色の文字。出版社のHPによると、ブエノスアイレスやメキシコシティでの生活など、スウェーデンから遠い国での生活について綴ったエッセイとのこと。
・「Din heder」 Martin Svensson
背表紙は赤地に黒い文字。Wikipediaによると、スウェーデン人のミュージシャン兼作家による小説らしい。タイトルの英訳は「Your Honor」。
・「Hej! Mitt namn var Elton Persson」 Martin Svensson
背表紙は黒地に灰色の文字。上の「Din heder」と同じ著者の本。タイトルの日本語訳は「Hi! 私の名前はエルトン・パーション」とのこと。出版社のHPによると、女の子の間で人気な若いポップアーティストのエルトンを中心に描かれる、笑いと感動のストーリー。
・「Lär dig tolka dina drömmar」 Anna-Britta Ståhl
背表紙は紫地に金色の文字。タイトルの英訳は「Learn to interpret your dreams」なので、日本語にすると「夢の解釈の仕方を学ぼう」みたいな。出版社のHPの概要には、ユングがどうとか書いてある。心理学系の本だろうか?
以上がIKEA原宿で見かけた本だ。新宿や渋谷と被っている本は見当たらなかったと思う。それにしても、明らかに原宿だけ傾向が違うのが面白い。全部スウェーデン語なのは共通だが、割と世界的に有名な作家の作品も読まれているようだ。
ということで、いかがだっただろう。全部きっちりとスウェーデン語だったのは実にIKEAらしい。恐らく日本のIKEAを利用する人の中にスウェーデン語話者は多くない。ほとんどの方にとっては十把一絡げで「なんかそれっぽい本」程度の意味しかなかったと思うのだが、いざ調べてみると実に多様ではないか。
ガチにスウェーデン語でしか出版されていないと思われる本から、実は世界的に有名で日本語版も出ているような本まで、どのような基準で選んでいるのか気になってきてしまった。
原宿の例からも、店舗ごとに全く違う本が置かれている可能性はわりとあると思う。皆さんもIKEAに行った際には、家具だけでなく本棚の本にも注目してみてはいかがだろう。意外な発見があるかもしれないぞ!
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.