今週はガンプラの転売屋をめぐる騒動がありましたが、驚いたのは「定価で売らないのはけしからん」という声が多いことでした。オタクのみなさんはまだ社会常識を身につけてないのかもしれませんが、大人にもよくある誤解なので、簡単に説明しておきましょう。
Q1. 定価って何ですか?
日本では「定価」という表示は認められていません。普通は「希望小売価格」と表示され、小売価格の目安で、メーカーはそれを強制できません。先進国ではどこでも、価格はお店が自由につけるのが原則です。
Q2. 定価販売は違法なんですか?
定価で売ることは違法ではありませんが、それを強制する再販売価格維持行為(再販)は違法です。公正取引委員会のQ&Aにも「再販売価格維持行為は、競争手段の重要な要素である価格を拘束するため、原則として禁止されています」と書いてあります。
Q3. 「原則として」ということは、例外もあるんですか?
著作物(書籍、雑誌、新聞、音楽)については、例外として再販が認められています。これは新聞協会が抵抗するため最後まで残っていますが、海外では著作物の価格も自由なのが普通です。
Q4. なぜ再販は禁止なんですか?
メーカーが安売りを禁止して、安く売る転売業者を締め出したり、高値で転売するのを禁止したりすると、競争が阻害され、消費者が損害をこうむるからです。
Q5. メーカーはなぜ定価を強制するんでしょうか?
小売店が安く売っても高く売っても、メーカーの利益は変わりません。それなのにメーカーが定価販売に固執するのは、ブランドを守るためです。安売りされると「あのメーカーは安物だ」というイメージができるからです。
Q6. それでは高く転売するのは問題ないですね?
転売屋が高く売ってもメーカーの利益は変わらないのですが、ユーザーが文句をいうので、先着順や抽選などで定価を守っています。これではいそがしい人は買えないので、転売屋が行列に並んで高値で転売するわけです。それを買う人は、行列に並ぶコストを上乗せして買っているわけですから、他人が文句をいってもしょうがない。
Q7. それでは本当にほしい人が買えなんじゃありませんか?
「本当にほしい人」とはどういう人でしょうか。それを自己申告させると、全員が「本当にほしい」と答え、だれに売っていいかわかりません。そういうときは、いちばん高い値段で買う人が本当にほしい人と考え、その人に売るのです。これが市場経済のルールです。
Q8. お金持ちが買い占めたらどうするんですか?
買い占めは転売とは別です。マスクやトイレットペーパーのような生活必需品を大量に買い占めると規制対象になりますが、一時的な現象です。高値で売れるのは増産するともうかるというシグナルなので、生産が増えます。
Q9. チケットのように増産できない商品もありますね?
いわゆるダフ屋については「チケット不正転売禁止法」という法律がありますが、これは暴力団の資金源を断つことが目的で、ほとんど発動されたことがありません。これもコンサートを開く業者が、高い価格でチケットを売ればいいのです。
Q10. 転売には古物営業の免許が必要ではありませんか?
すべての転売に免許が必要だったら、ヤフオクやメルカリは成り立ちません。古物営業免許は盗品故買を防ぐための制度で、実際にはほとんどの中古品はネットで自由に転売されています。
Q11. なぜ転売屋はきらわれるんでしょうか?
だれでも安く買いたいのは当たり前ですが、需要が供給を上回るときは価格が上がり、生産が増えるのが市場経済の基本原則です。このメカニズムを壊すと、必要な人が買えなくなります。高値で売れるのは、その値段でもほしい人がいるからで、転売屋もそれ以上の値段はつけられません。転売で市場の流動性が高まり、生産が増えると、消費者の利益にもなるのです。