今こそ、ワークスペースをクリエイティブに創造すべきときだ。
ハイブリッドワークモデルという言葉の定義は実にさまざまだ。企業によっては、オフィスに行く日と自宅で働く日を社員が決められるようにするだけでも、十分に大きな変化といえるだろう。だが、それではまったく足りないと考える企業は、さらに一歩進んで、これまでのオフィスモデルを根底から覆そうとしている。
そうした企業のひとつが、セールスフォース(Salesforce)のコンサルティングパートナーで、アプリ開発を手がけるトラクション・オン・デマンド(Traction on Demand)だ。同社は今、米国各地のローカル企業(自転車ショップ、カフェ、レストラン、地酒醸造所、コミュニティホールなど)と提携し、彼らの店舗やホールをいかに社員のニーズや所在地に適したワークスペースとして提供できるかについて、話を進めている。
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オフィスでも自宅でもないワークスペースを
米国、カナダ、インドに合わせて1000人以上の社員を抱えるトラクション・オン・デマンドは、かつて8つのオフィスを構えていた。しかし、新型コロナウイルスのパンデミック後に2つの小規模なオフィスを閉鎖し、約1万平方フィート(約929平方メートル)の広さがある残り6つのオフィス(バンクーバー、ネルソン、モントリオール、トロント、シアトル、ジャイプル)を、社員がコラボレーションするための中心地にしようとしている(同社サイトによれば、オフィスの数はシドニーも入れて計7つ。ただし、シドニーの項目には地図がリンクされていない)。
さらに秋からは、社員が多く住む地域に小規模な「ショップ」を設置する予定だ。このショップは、より柔軟な勤務形態や勤務時間を希望する社員にワークスペースを提供すると同時に、1年あまりの休業を経て新たな事業を必要としているローカル企業を支援するという2つの役割を果たす。ハイブリッドワークモデルがニューノーマルとなったいま、飲食店や小売店への人の流れがパンデミック以前のパターンに近づくことはないだろう。
「このような場所が、毎日顧客であふれることはない」と、トラクション・オン・デマンドのCEO、グレッグ・マルパス氏はいう。「地域の小売店やコーヒーショップの経営者、それに人々が集う施設の運営者と提携して、インターネットへのアクセスを確保し、社員が必要な仕事を簡単にこなせるように、ノートパソコンや強力なWi-Fi、電源コンセントなどを用意したい。そうすれば、社員が自分の好きなときに出入りできるようになる」と、マルパス氏は語った。また、小規模企業が、自社で所有しながら平日に活用できていないスペースを安定的な収入源にできるよう支援する狙いもあるという。
この1年で、人々のワークライフバランスのとり方は完全に変化した。柔軟な勤務形態は、もはやあるに越したことがない制度ではなく、多くの人から職にとどまる必須条件とみなされている。米国では、この夏に退職者が続出すると予想され、「大離職時代」とも呼ばれるトレンドによって、新しいニーズを満たす魅力的な職場文化の構築が企業の義務となったのだ。
トラクション・オン・デマンドとって、この義務はオフィス勤務も一人きりの在宅勤務も望まない社員が集まることのできるローカルワークスペースの構築を意味する。同社は、社員が徒歩や自転車で通える場所にショップを設置する予定だ。「我々は、自分が住みたい街、希望するライフスタイルや必要なライフスタイル、環境的にも経済的にも持続可能なやり方、各地域のチーム構成などを考慮しながら、より良い働き方を自分たちで見つけられるようにしている」と、マルパス氏は語った。
「ハブ・アンド・スポーク・モデル」
社員が多く住む地域で小規模なワークスペースを提供しているのは、トラクション・オン・デマンドだけではない。この1年でほとんどのオフィスが完全にリモート化された結果、街の中心地はかつての姿を失ってしまった。また、オフィス出勤再開計画が進められるなか、ほとんどの企業はこれまでのようにオフィスのキャパシティを100%にしない新たなモデルを模索している。
多くの企業が検討し始めたのはハブ・アンド・スポーク・モデルだ。なかでも、社員の多くが住んでいる地域を特定し、その近くに小規模なワークスペースを設置するというやり方に人気が集まっている。
世界全体で13万人の社員を擁するグローバルITコンサルティング企業のNTTデータも、「ハブ・シティ」と名付けたモデルを米国のオフィスで実験している。具体的には、優秀な人材を惹きつけることができる都市部で、顧客にとっても社員にとっても近い場所を選定し、ハブとなる小規模なワークスペースを設置する計画だと、同社でインテグレーション・ディレクターを務めるシェイマー・アルサハール氏は話す。
最初のハブは秋にオープンされる予定だ。ハブを利用する社員は、システムにログインして自分のデスクや会議室を予約する際に、同僚がどのデスクを予約したのか確認できる。また、バーチャル受付システムのような新しいテクノロジーの活用も検討しているという。
「パンデミックによって、あらゆる人がこの時期を過ごすことになった。いずれ誰もが、パンデミックの最中に働いていた会社のことを、特異な時期として記憶することになるだろう。そして、企業が社員に働く場を与えて(自社にとって)重要な存在と感じてもらうために、どのように適応して方向転換を果たすのかが、(私たちを)未来へ導く原動力になると思う」と、アルサハール氏は語った。
JESSICA DAVIES(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:小玉明依)