「結婚したほうがいい神父もいる」

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ドイツのローマ・カトリック教会ミュンヘン大司教区のラインハルト・マルクス枢機卿(68)は南ドイツ新聞(SZ)とのインタビュー(2月3日電子版)の中で、「聖職者の強制的な独身制は廃止すべきだ。セクシュアリティは人間性の一部であり、決して過ぎ去るものではない」と指摘し、「聖職者の中には結婚したほうがいい者もいる。結婚していれば、より良い聖職者になれる人がいる。性的な理由だけでなく、彼らの生活にとってより良いものであり、孤独ではないからだ。若い聖職者にはいつも『一人で暮らすことは楽なことではない』と言い聞かしている」という。

マルクス枢機卿(バチカンニュース2021年6月10日から)

そのうえで、同枢機卿は、「現在のようなやり方(聖職者の独身制義務)はもはや続けられない」と強調する一方、聖職者の独身制の一般的廃止は考えられないと追加している。すなわち、聖職者に婚姻するか独身でいるかの選択権があるべきだというわけだ。

同枢機卿はフランシスコ教皇を支える枢機卿顧問評議会メンバー(現在7人構成)の1人であり、教皇の信頼が厚い側近だ。その枢機卿(ミュンヘン大司教)がはっきりと聖職者の強制的な独身制の廃止を主張したわけで、ドイツ教会だけではなく、世界のカトリック教会に大きな反響を呼んでいる。

バチカンで2019年10月、アマゾン公会議が開催されたが、議題の中に女性聖職者問題、既婚男性の聖職叙階問題などが話し合われた。そこで採択された最終報告書では「遠隔地やアマゾン地域のように聖職者不足で教会の儀式が実施できない教会では、司教たちが(相応しい)既婚男性の聖職叙階を認めることを提言する」と明記されていた。ただし、同提言は聖職者の独身制廃止を目指すものではなく、聖職者不足を解消するための現実的な対策の印象は歪めない。

実際、最終文書では「聖職者の独身制は神の贈物」と改めて強調する一方、「多様な聖職者は教会の統一を削ぐものではない」と説明している。アマゾン公会議の既婚男性の「聖職叙階」提言は聖職者の独身制廃止への第一弾と受け取られ、独身制が近い将来、廃止されるのではないか、といった期待の声が聞かれた(欧米教会では家庭を持っている常任助祭が聖職を代理行使する場合があるが、アマゾン地域の教会では助祭制度が定着していない)。

カトリック教会の独身制に神学的なバックボーンがあるかというと、ない。旧約聖書「創世記」を読めば、神は自身の似姿に人を創造され、アダムとエバを創造された。その後、彼らに「生めよ、ふえよ、地に満ちよ」(第1章28節)と祝福している。独身制は明らかに神の創造計画に反しているわけだ。野生動物学のアンタール・フェステチクス教授は、「カトリック教会の独身制は神の創造を侮辱するものだ」と言い切っている。

キリスト教史を振り返ると、1651年のオスナブリュクの公会議の報告の中で、当時の多くの聖職者たちは特定の女性と内縁関係を結んでいたことが明らかになっている。カトリック教会の現行の独身制は1139年の第2ラテラン公会議に遡る。聖職者に子供が生まれれば、遺産相続問題が生じる。それを回避し、教会の財産を保護する経済的理由があったという。

マルクス枢機卿はアマゾン公会議では既婚の聖職者について、「聖職者が不足している地域での独身制の撤廃は想像できる」と語っていたが、今回のように「婚姻に対する聖職者の選択権」まで踏み込んだ発言は初めてだ。

マルクス枢機卿は聖職者の独身制と未成年者への性的虐待問題との関連については、「関連があると一般的には答えられない。ただ、独身制と男性だけの世界に惹かれる人々がいることは事実だ」と説明している。

同枢機卿はカトリック教会の性モラルには批判的だ。「それは多くの膠着状況を生み出した。我々は今、その責任を背負っている。教会は今、過去何世代の間に積み重ねてきた性の問題でその請求を突き付けられているのだ」と語った。

女性聖職者問題では、「今後とも議論を重ねていくべきだろう。この問題にはコンセンサスが必要だ、さもなければ全ての建物が壊れてしまう。ただ、時間の経過と共に『それは不可能だ』といった声は弱くなってきているのを感じる」という。

ベネディクト16世の過去問題について、マルクス枢機卿は、「メディアを通じて謝罪を要求することは好まない。前教皇はすべての報告書を検証されてから声明を出すといわれている。それを待つ以外にない。その声明が犠牲者への赦しを請うものであれば幸いだ」と述べた。

ちなみに、マルクス枢機卿は昨年5月21日、フランシスコ教皇宛てに大司教辞任申し出の書簡を送ったことがある。その理由は、同枢機卿が2007年11月から担当してきたミュンヘン・フライジング大司教区で過去に発生した聖職者による未成年者への性的虐待事件に対して、「指導者としてその責任を取りたい」というものだった。フランシスコ教皇は同枢機卿の辞任申請を拒否している。教皇の同枢機卿への信頼が厚いことが分かる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年2月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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