光中心の生活が、本能として正解なのかも。
皆さん、最近ぐっすり眠れていますか? かの水木しげる大先生は、睡眠力が何より大事だと述べていました。疲れ、病気、ストレスなどなど。あらゆるデバフを予防する最大の特効薬は、僕らが毎日やっている睡眠なのです。
さすがに徹夜作業で睡眠不足、なんてのがもてはやされることもなくなった昨今とはいえ、果たしてどれだけの人がしっかり眠れているのか。逆にいえば、どうすれば現代の暮らしにおいて、ぐっすり眠ることができるのか。
その答えの一つが、光。むかしの暮らしでは、だいたいの生き物は太陽の光とともに目覚め、暗くなると眠りについていました。ディスプレイやLEDライトに照らされ続ける日々は、僕らの本能に背く行為なのかもしれない。
そんな光を睡眠ルーティンに活用したのが、ムーンムーン社の睡眠リズム照明「トトノエライト」。これは赤い光で睡眠導入を、白い光で朝の目覚めを促す、ちょっと変わった照明器具なんです。果たして光で本当に睡眠クオリティは変化するのか。ギズモード・ジャパン編集長の尾田和実が、実際に試してみました。結論としては…光って、大事なんだなぁって。
昔から感じていた、眠りへの課題意識
──そもそも、尾田さんはよく眠れる方ですか?
尾田:昔から生粋のショートスリーパー気質で、しっかり眠るタイプじゃなかったですね。むかし、渋谷の道玄坂っていうすごくうるさい場所に住んでたんですけど、深夜でもビルの明かりが入ってくるし、人の声や工事の音もガンガン聞こえてくるし。で、その頃は眠れてる感覚もなければ、眠れてない感覚もない。本当に起きてるか寝てるかわからない生活。だから仕事に遅刻することもなかったですよ、ほとんど(笑)。
でも、ある日遮光カーテンを買って、寝る時に完全に真っ暗にするようにしてみたらすごく遅刻するようになった(笑)。今まで、ちゃんと眠れてなかったってことなんだよね。
──遮光カーテンきっかけで、「熟睡」を知ったのですね。
尾田:自覚がなかったんですよ。でも、僕は完全に真っ暗で寝るのが苦手なタイプでもあったから、それはそれで落ち着かなかった。なかには、少しでも光があると眠れない、クーラーや空気清浄機のLEDも気になるって人もいるけど、僕はその逆。真っ暗だとなんか落ち着かない。
──眠るときの明るさ問題、旅行とかだとすごく気になるやつです。
尾田:和室のライトの豆電球(常夜灯)ってあるじゃない。僕は子供の頃、あれがないと眠れないタイプだったんだよね。なんせ子供の頃って真っ暗が怖いよね、潜在的に。暗闇から怪物が出てくるイメージというか、いつ眠ったかわからなくなるのが怖いというか。和室だったし(笑)。常夜灯があるとそこをぼーっと見てられるし、何かが存在しているってのを確認できる安心感があったと思うんだ。
あと、やたら眠くなる音楽とか映画とかない? 僕はスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』と、アンドレイ・タルコフスキーの『惑星ソラリス』が、好きというかよく眠れる二大映画なんだよね。眠くなる映画って、現実と虚構が曖昧になるというか、本質的にいい映画だと思ってる。
──宇宙系の映画って、画面の薄暗さがまた眠気を誘いますよね。
尾田:そうそう。音楽だとMobyとかを聴きながら寝ることはよくあったかな。彼は自分がリラックスするためにアンビエント・ミュージック(環境音楽)を作っていて、「Long Ambients 2」ってアルバムは、瞑想アプリの「Calm」で発売されたりもしてる。
──睡眠導入BGMなんてのもあったりしますね。波の音とか焚き火の音とか、1/fのゆらぎ的な。
尾田:睡眠って総合的な要素が絡み合うから、どこを対処すればよく眠れるようになるって、簡単に見つからないよね。今はもう郊外で家族と暮らしてるけど、眠りの質が変わったのも年齢によるものかもしれないし。でも今思えば、道玄坂で暮らしてた頃は明らかに睡眠にメリハリがなかった。寝てるのか寝てないのかそれすらも自覚がなくて、それがショートスリーパーにつながったのかも。
ちょうど良い明るさが、眠気をいざなう
──実際に「トトノエライト」を使ってみて、いかがでしたか?
尾田:良い意味で、意外によく眠れた感じがする。このライトは赤い光を出して眠るモードに導いてくれるんだけど、さっき話した『2001年宇宙の旅』に出てくるHAL 9000っていうコンピューターに似てるんだよね。
──HAL 9000のカメラは真っ赤ですもんね。確かに似てる!
尾田:僕個人としてそこのリンクもあって、HAL 9000の抑揚のない声とか無機質なセリフとか、その印象が睡眠を想起させたのかも。でも、光の明るさもちょうど良いぼんやり具合で落ち着くし、僕はLEDライトが好きだからいろいろ試してるんだけど、その中でもこれくらいのちょうど良い明るさってそんなになかったと思う。しかも、美顔器に使われている赤色LEDを採用していて、寝ながら美容という一石二鳥にもなる。
──明るすぎず、暗すぎず?
尾田:うん。白じゃなくて赤い光ってのが、なんか落ち着く。枕元に置いて使ってるんだけど、感覚としては羊を数えてるようなふわふわしたイメージが近いかも。LEDにぼんやり照らされながら赤い天井を見てるだけなんだけど、何も対象がない真っ暗な中で眠るよりも、眠りへの暗示がかけやすい気がする。
──さきほどの豆電球のイメージに近い?
尾田:そうそう。真っ暗でどこにも対象がない空間だと、頭の中で思考が駆け巡っちゃってアドレナリンが出ちゃう感じがするんですよ。意識が外よりも内に集中するというか。
でも、ある程度明るいと、何か見る対象があるから思考が散漫にならない。僕の体験談にはなってしまうんだけど、結果としては赤い光のおかげで、僕自身が想像してた以上に眠れましたね。
「トトノエライト」ってどんなライト?
──ここで「トトノエライト」のスペックを改めて紹介します。これは夕日のような赤い色で睡眠をサポートし、日の出のような白い光で起床を促すライトです。暖色系の光は白色光に比べて睡眠ホルモンであるメラトニンを阻害しないので、その仕組みを応用したライトですね。
尾田:睡眠グッズたくさんもってますけど、ありそうでなかった製品だとは思いました。
──実際に使ってみて、赤いライトの強さの印象は?
尾田: 明るさ調整ができて、一番明るい調整にすると、寝る前の読書も快適にできる。一番暗い明るさだと、手元を見るには十分だけど長時間本を読むにはやや物足りないくらいの明るさかな。写真を現像する暗室が近いかも。…そういえば、若い頃は暗室で仮眠したことが何度もあるけど、あれも赤い光が心地良かったのかな。
──その可能性、ありますね。
尾田:一応、メラトニンとセロトニンの関係(セロトニンは日の光を浴びると増える「目覚めを促す脳内物質」で、睡眠ホルモンであるメラトニンの原料になる)には気をつけて生活していて、リモートワークな環境でも日中は散歩したり陽の光を浴びたり、オンとオフの意識はしてます。でも、寝る前の照明の色まではあまり考えてなかったかなぁ。白昼色を避けているぐらいで。そこを意図的にコントロールできるのは、ガジェット的に面白い。
──ちなみに、寝る前に行っているナイトルーティンはありますか? ナイトルーティンも、赤い光の中で行うとさらに効果的だそうで。
尾田:ナイトルーティンってほどでもないけど、寝る前はペットの猫と戯れたりしてる。でもペットは寝室に入れないようにしてるから、赤い光のなかでナイトルーティンをするなら持ち運びできる利点を活かしてリビングや私室に持っていくかな。ベッドサイドでのストレッチなんかが効果的かもね。
──持ち運びできるの、何気に良いですよね。大きな間接照明だとそうはいかないので。
尾田:オフィスや事務所に持っていって仮眠室で赤い光を浴びながらシエスタするなんてのも良いかも。カーテンを閉めれば、昼間でも赤い光も十分感じられるし、リビングでも使えそう。
──起床時の白色ライトについてはどうでしたか? 「トトノエライト」の白色ライトは朝日を再現していて、太陽の光で体が目を覚ますような心地良い明るさが設計されています。太陽光に近いとも言えますね。
尾田:ちゃんと光で起きられたよ。遮光カーテンがあったらずっと寝てしまうような体質だし、アラームのような音じゃなくって光による目への刺激で起床するのも意外とアリなんだなって。
──白色ライト時は、最大2万ルクス(20cm距離で3,300ルクス)とかなり明るいスペックになっています。
尾田:枕元から顔に向けて照らすと、かなり明るく感じたから十分なスペックだと思うな。あと、シンプルにライトとして質が良いから、デスクライトやWeb会議時のフェイスライトにも便利。2,500ルクス以上の明るい光を浴びながら仕事をするとセロトニンが放出されて集中力アップになるそうで、仕事の生産性も高まる。演色性(光で照らされたものの色がどう見えるか)についてはわからないけど、朝日をシミュレートしてるならたぶん悪くない。1/4インチネジもあるから、いざってときに撮影用の照明としても使えるね。
──なるほど、LEDのビデオライトにもなる。
尾田:バッテリー駆動する本格的なものじゃないけど、スマホライトよりはよっぽど綺麗に撮れる。最近はゲーム実況用のLEDパネルをフェイスライトに使ってるけど、こっちは朝自動で照らしてくれたりはしないからね。うちは照明やプロジェクターもLED使ってて、わりとLED慣れしてる体質だとは思うんだけど、目が覚める良い白色。
睡眠に大事な安心感を、光がもたらしてくれる
──「トトノエライト」、どういった点でグっと来ましたか?
尾田:僕自身がずっと睡眠に対して思うところはあったんだけど、なんせ音や光をコントロールして睡眠を良くしたいって考え続けてました。で、「トトノエライト」は光に関して上手く人間の遺伝子にアプローチしてるというか、生理現象を利用したガジェットだと思う。実際に眠れたし起きられたからね。
──現代は夜でも明るいですし、僕らの体内も穏やかな光を求めているのかもしれませんね。
尾田:大事なのはメリハリと安心感だよね。大人の僕らは意図的にコントロールできるけど、アメリカの睡眠科学者が、赤色のライトが赤ちゃんの寝かしつけにいいという著書を出版していて、赤ちゃんがいる家庭なら夜遅くまで明るい部屋で過ごさせるより、夜になったら「トトノエライト」の赤い光で眠りに誘ってあげると、正しい概日リズムを教えられるんじゃないかな。
──メリハリと安心感、まさに現代人の忙しない暮らしに足りない2大要素って感じですね。
尾田:結局はベッドに入ってから安心できているかどうか。音も光も、そのための要素ですよね。赤い光で視覚的にも精神的にも安心しつつ、僕の自覚できない内面的な部分でも眠りに作用してるのなら、それはかなり心強い。
眠りに大事なのは安心感、とは、まさにその通りだと思います。睡眠ほど個人差があるものもそうないですが、明るい環境で熟睡できる人は少ないはず。そう考えれば、光は睡眠の根源に関わる要素と言えるかもしれない。なんせホルモンにまで関係してくるから。
夕日と朝日の再現によって睡眠を整える「トトノエライト」。睡眠に関する悩みを持っている人であれば、試してみる価値はあるかと。睡眠力、上げていきましょう。
Source: ムーンムーン
Photo: Kosumo Hashimoto