犬は「エサをくれた見知らぬ人に恩を返さない」という研究結果

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犬は人間と深い関係を持つ動物だと知られており、過去の研究では「苦しんでいる飼い主を助けようとする」「飼い主の苦痛を解消するために行動する」といったことが示されています。ところが、オーストリアの研究チームが発表した新たな論文では、「犬はエサをくれた見知らぬ人に対し、お礼に食べ物をあげようとしない」との実験結果が報告されました。

Dogs fail to reciprocate the receipt of food from a human in a food-giving task
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0253277

Dogs May Not Return Their Owners’ Good Deeds – Neuroscience News
https://neurosciencenews.com/dogs-human-altruism-18931/

New Study Shows Dogs Don’t Return the Favor After Strangers Feed Them | Science | Smithsonian Magazine
https://www.smithsonianmag.com/science-nature/dogs-dont-return-favor-after-strangers-feed-them-180978170/


エサは犬と人間を結びつける上で重要な役割を果たしており、犬の先祖であるオオカミが家畜化されて犬になったのも、「人間が残飯をオオカミに与えたこと」がきっかけだったとする研究結果もあります。そこで、ウィーン獣医科大学のJim McGetrick氏らの研究チームは、「人間からエサを与えられた犬が、恩返しとして人間に食べ物を与えるのかどうか」を調べる実験を行いました。

研究チームは10種類以上の品種や雑種からなる37匹の犬を集め、「ボタンを押すとエサが出てくる餌やり器」の使い方を教えました。それぞれの犬は多様な性格を持っており、優しいタッチでボタンを押す犬もいれば、ボタンを引っかいたりボタンを収めた箱をかんだりする犬や、なぜか後ろ足でボタンを押す犬もいたとのこと。「間違いなく、犬の性格は大きく異なりました」とMcGetrick氏は述べています。

それぞれの犬が「ボタンを押すとエサが出てくる」ということを覚えたところで、研究チームは餌やり器の本体だけがあり、ボタンがない小部屋に犬を入れました。餌やり器のボタンは犬がいる小部屋の隣室にあり、そこには見知らぬ人間の参加者がいました。犬と人間は金網越しにお互いの様子を見ることが可能であり、「親切な人間」の役割を持った参加者は犬に見えるようにボタンを押し、餌やり器からエサを出してあげました。

一方、「不親切な人間」の役割を持った参加者は、犬がいくら見つめてきたり鳴き声を出したりしても、鋼の心で「エサが出ないダミーのボタン」を押したとのこと。不親切な人間とペアになったためにエサがもらえなかった犬は、鼻を鳴らしたりイライラする様子を見せたりしたそうです。McGetrick氏は、「犬が不親切な人間と一緒にいて、エサがもらえると期待した状況でエサをもらえなかった時、それがどれほど犬にとって大きな問題であったかを知って驚きました」と述べています。


その後、研究チームは犬と人間の状況を逆転させ、今度は犬がいる小部屋にボタンを置き、人間がいる小部屋に餌やり器を設置しました。もちろん、人間の小部屋にある餌やり器からはドッグフードが出るのではなく、チョコレート菓子が出るようになっていたそうです。

今度は犬がボタンを押せば人間がチョコレート菓子をもらえる状況になったわけですが、犬はボタンを押すことにそれほど興味を抱かなかったとのこと。さらに、犬がボタンを押して人間にチョコレート菓子をあげる頻度は、犬にエサをあげた「親切な人間」とエサをあげなかった「不親切な人間」で差がありませんでした。つまり、犬は先ほど自分にエサをくれたかどうかにかかわらず、両方のグループに対して同じようにボタンを押したと研究チームは報告しています。

また、今回の実験でも2つの小部屋は金網で隔てられており、犬と人間はお互いに相互作用することができました。研究チームによると、肉体的な相互作用においても犬は「親切な人間」と「不親切な人間」で区別を設けているようには見えず、両方のグループに対して同じようにアプローチしたとのこと。


McGetrick氏は今回の結果から、犬は必ずしも見知らぬ相手に感謝のような気持ちを抱くわけではないか、他者の行動を深く考えていない可能性があると指摘。その一方で、「これは非常に特有の実験的状況であったことを強調したいです」と述べ、犬の行動は実験の状況に特有のものかもしれないと補足しました。

また、今回の実験では見知らぬ人間が参加者となりましたが、実験に参加したのが飼い主であった場合、犬はより高い頻度でボタンを押すことが考えられます。また、「相手に恩返しするためにボタンを押す」という状況は、犬にとって大きな精神的飛躍を必要とするものかもしれません。研究チームは、犬がボタンを押す状況を「餌やり器が自分の近くにある時だけ」と学習していたり、そもそも「自分が人間に食べ物を与える側である」という認識がなかったりする可能性もあると考えています。

今回の研究には参加していないネブラスカ大学リンカーン校の心理学者・Jeffrey Stevens氏は、「重要なことは、動物が理解できる正しい方法で質問しているかどうかです」「特に犬は、私たちと全く違う世界を持っています」と指摘。動物の心理学実験を行うには、動物の視点に立った実験の設計を行い、動物が自らの能力を最大限発揮できる状況を作ることが必要だと訴えています。

Stevens氏と同じく、今回の研究に参加していないボストン大学の心理学者・Angie Johnston氏は、犬が人間に食べ物のお礼をしなかった理由を説明しうる全ての可能性を検討するため、より多くの研究が必要だと指摘。出発点としては、すでに高度な訓練を受けている軍用犬や介助犬を対象にした研究がよいのではないかと主張しています。「犬と人間の相互作用について知ることは、介助犬や補助犬の訓練などにおいて重要です」と述べました。


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