ICT分野の課題、技術で解決「OPEN異能vation 2021」で見つけた少し先の未来

CNET Japan

 角川アスキー総合研究所と総務省は12月15日、ICT分野において奇想天外なイノベーションを生み出す”異能人”を応援するプログラム「OPEN異能vation2021」のイベントを東京・日比谷の東京ミッドタウン日比谷で開催した。

 本記事では、イベントで展示していた「OPEN異能vation」受賞者プロジェクトを抜粋して紹介する。

味を数値化し、再現する「味わうテレビ」。テレ”イート”実現も

 2020年度受賞者の明治大学 総号数理学部専任教授の宮下芳明氏のプロジェクト。マシンには、砂糖水、塩水、うまみ調味料「味の素」を水に溶かしたグルタミン、唐辛子成分を水に溶かしたカプサイシンなどをセットしており、それらの成分を市販のエアブラシで皿などに吹き付けることで食べ物の味を疑似再現するものだ。マシンには液晶画面も搭載。再現する食べ物の画像も表示することで、味覚だけでなく視覚でも楽しめるようになっている。

「味わうテレビ」
「味わうテレビ」

 再現元の食材をミキサーなどで撹はんし、甘みや苦みなどの項目を機械で測定し数値化することにより疑似再現している。この手法により「秘伝の味なども技術的には再現できる」(宮下教授)とのことだ。

 会場のデモンストレーションでは、「ピザ」と「チョコレート」の2味を疑似体験できた。主成分は水に溶かしたものなので、スプレーされた「水滴」をなめることになる。味の再現度はチョコレートの方が高く、例えるならチョコレートではなく「チョコ味」に近いと感じた。ピザは、「うまみ」(恐らくグルタミンによるものと推測される)を強く感じた。どちらも忠実再現のレベルとまでは感じなかったものの、想像を大きく上回った。

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 また、液晶画面に表示されている料理の画像を見ながらなめると異なった印象を得られたのにも感動した。今回のマシンでは食べ物の香りは再現しないのだが、画像や動画を見ながらなめることで脳が”疑似体験”していたのに驚いた。

ピザを見ながら、ピザをなめた
ピザを見ながら、ピザをなめた

 マシンは宮下教授のハンドメイド。特殊な部品は使用しておらず、ECサイトなどで購入したエアブラシなどを組み合わせて作成したという。「このマシンを活用して、テレワークならぬテレ”イーツ”を実現したい」と宮下教授は意気込む。

人間の臓器などを3DCGリアルタイムに再現する「Viewtify」

 2014年度受賞者で医学博士でもあるサイアメント 代表取締役の瀬尾拡史氏のプロジェクト。従来、3Dプリンタなどで出力していた人間の骨格や臓器などのモデルを3DCGで緻密に再現し、裸眼立体視対応ディスプレイにも出力できるソフトウェアだ。

空間再現ディスプレイで表示した小児心臓(実際は立体になっている)
空間再現ディスプレイで表示した小児心臓(実際は立体になっている)

 DICOMと呼ばれる医療データ通信規格から、内臓構造や骨格など複数の組織、器官をリアルタイムでレンダリングし表示するもの。現行法では実際の診察や手術などの現場でViewtifyを活用することはできないため、主に後期研修医などの医療従事者や患者への教育で活用されることを想定している。瀬尾氏によると「リアルタイムで3DCGを生成、表示できるものは日本初」という。

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 Viewtifyは別途、ビデオカードを搭載するPCが必要。空間再現ディスプレイを用いれば、立体視での表示もできる。デモンストレーションでは、ソニーの空間再現ディスプレイ「ELF-SR1/BZ」と、GPUにGeForce RTX 3070を搭載したゲーミングノートPCで駆動していた。

 従来の3Dプリンタで骨格や臓器などを出力し再現する方法では、臓器などの内部構造を見る際に一度切断などをしなければいけない都合上、再利用ができないという課題があったという。瀬尾氏によると、3Dプリンタによる再現はメスが患部などに挿入できるかなどの技術的検討には好適だが、教育目的には再出力するコストなどもかかることから向いていなかったという。

 Viewtifyではリアルタイムレンダリングにより、任意の組織、器官をマウス操作で表示できることから、教育目的にも好適とする。瀬尾氏は「将来的には医療機器化を行い、Viewtifyを活用した診察なども実現したい」と話した。

ドローンの基盤・センサー・配線をCFRPで一体成形する技術

 2020年度受賞者の羽生田鉄工所 代表取締役の羽生田豪太氏のプロジェクト。近年、農業や災害時対応などでも活躍している「ドローン」のような小型無人航空機が活躍しており、今後さらなる需要の高まりが予想されることから、ドローンなどの量産に向けて信頼性と生産性の両方を向上させるべく構想した技術という。

オートクレーブ成型でセンサーや基盤、配線なども一体化させた
オートクレーブ成型でセンサーや基盤、配線なども一体化させた

 素材は樹脂を炭素繊維で強化したCFRP(炭素繊維強化プラスチック)。展示機は既成品の筐体をリファインし、基盤やセンサー、配線を一体成形していた。CFRPは航空宇宙産業で採用が進んでいる素材で、羽生田氏は経営する鉄工所の技術を活用し、配線や基板、センサーなどもオートクレーブ成形で搭載した。

展示されていたデモ機
展示されていたデモ機

 CFRPは米ボーイングの最新中型旅客機「787」の胴体部にも採用されており、ボーイングの中型従来機「767」と比較すると大幅に軽量化を果たした実績がある。ただし、羽生田氏によると「(787は)胴体部にネジ開けをする都合、剛性確保のためにCFRPの厚みを増やしたりして対策していた」といい、結果的に重量が増えてしまうことになっていたという。

 羽生田氏のプロジェクトでは、センサーや基板をネジ留めせずに一体で成型している。これにより、ネジ穴を考慮して対策するなどの必要がないほか、配線や端子のハンダ付けも不要とした。この技術は、量産時の配線ミスや使用中の断線などを防ぎ信頼性を向上できるほか、配線工程を省けることによる生産性向上も望めるという。また、ドローンなどで重要となる機体重量の削減にも貢献できるとした。

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