「脱皮できない蛇は滅びるしかない」ヤフーのデータマーケティング進化論: 同社テクノロジーサービス本部長 鍵山 仁氏

DIGIDAY

データマーケティングを取り巻く環境は、これまでにないほど急速に変化している。コロナ禍がもたらした社会変化や、グローバルで進むプライバシー規制強化の波が、強力な後押しとなっているのだ。

Yahoo! JAPAN(ヤフー)において、広告ビジネスのデータ領域における責任者を務めるテクノロジーサービス本部長の鍵山仁氏は、「Zホールディングスにしかできないことをやらなければならないし、何よりそれが期待されている」とし、こう続ける。「『脱皮できない蛇は滅びるしかない』という想いで、これまでのマーケティングソリューションの提供モデルを一気に変えていかなければならない」。

変化の先に求められる、新たな価値を提供するビジネスモデルをいかに構築していくのか、鍵山氏にうかがった。

「必見! テクノロジーサービス本部長 鍵山仁が語る今後の戦略 〜【2021年】」はこちらから

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――2020年のコロナ禍で、マーケティングのあり方はどのように変わったと感じていますか。

新型コロナウイルスの感染拡大により、さまざまな活動様式が世界的に見ても大幅に変化しています。特に、ユーザーの行動様式は明らかに変わったと言っていいでしょう。人との接触を避ける新しい行動様式、「Withコロナ」での過ごし方が当たり前になったいま、これまで外に出ていて何の気なしに触れてきた情報入手経路が変化しました。風景や人混み、知らないところで目に触れていた交通広告、デパートで陳列されている商品、オフィス内や会食などの会話を通して、業界がどうなっているかということを肌で感じられなくなりました。

人との接触を避けることと完全に逆相関したのが、デバイスとの接触です。メディアやECで情報を自ら取得しにいくということが飛躍的に増えています。実際に、ヤフーでは、メディアのユーザー接触量やYahoo!ショッピングでの購買量も増えています。レシピ検索のクラシル(kurashiru)などではより多くのお客様にご活用いただき、家庭内での食について時間をかけようと思う人も増えていることが見て取れます。

ヤフー テクノロジーサービス本部長の鍵山仁氏

ヤフーだけではなくあらゆる企業がDXに力を入れていることで、ユーザーは以前よりオンラインへの距離が極端に近く、滞在も太くなったことで、衝動買いが少なくなり、価値ある商品を見つけ出す行為が1年前よりかなり洗練されつつあると思います。

ワクチン接種の拡大や特効薬などの開発により人々が自由に外に出られるようになっても、この「地殻変動」によっておこった事象は、基本的には不可逆なものだと思います。

――そうしたなか、マーケターたちはどのような思想でもってマーケティング活動を展開することが重要になるでしょうか?

ユーザーの行動様式が変わったということに対して、マーケターの皆さんが実施するべきことは、ユーザーがどのようなシチュエーションで何を考えているのか、それはなぜなのかということを、データをもとに、よりカスタマージャーニーや効果検証を探求して設計できるかどうかだと考えています。

そんなこと当たり前ですよね、と思われる方も多いかもしれません。しかし、どのレベルで、どのタイミングで、どの頻度で実施されているでしょうか?

Cookieレスの時代に突入していき、リターゲティングや計測が不全になっていくと思いますが、いまリターゲティングを主軸とされているマーケターの皆さんは、本質的に何か違う手段にトライしているでしょうか? リターゲティングがすべて悪というわけではありませんが、ラストクリックで広告コンバージョンが起きるというのは、どれだけ稀なことか。

皆さん自身、ラストクリックで商品を購入しているでしょうか? ラストクリック以外の広告の効果に対してなんとか評価をしようと血眼になって頭を働かせているマーケターと比べて、ラストクリック評価だけであぐらをかいていた人たちは、何をすれば事業貢献ができるのかまったくわからない残念なマーケターになるでしょう。

――Cookieレスによって、マーケターはこれまで直面してこなかった課題と向き合うことになる。

そうですね。各パブリッシャーや、サードパーティベンダーが各種領域で生き残りをかけてソリューションを出してくるかと思いますが、広告主の皆さまは、しっかりとそれを吟味できる体制が整っているでしょうか。

たとえば、プライバシーに配慮していると謳っていても、ユーザーはそれを理解した同意を本当にしているのか。広告効果だけを目的にした手段としてのパーミッションになっていないか。国内の法律に形式的に準拠しているとしても、本当にユーザーにとって体験をよりよくするものになっているかを問うと、ほとんどがそうではないはずです。各社の断片的なソリューションで出された効果に対して、本質的に評価ができる知識を有しているか? そのため、何を基準に、誰を信頼し、何を選択していくかがとても重要になるフェーズだと捉えています。

――ヤフーとしては、Cookieレス時代に向けて、いま何を準備しているのでしょうか?

ヤフーは、ファーストパーティとして豊富なデータストックを持っていますが、環境が大きく変わっていくなかでも、大いに活用ができる財産として更に価値が高まっていくと思っています。変わっていく世界のなかで、今できていることを極力維持しつつ、新しいことをお客様と一緒に試していくための準備をしています。

規制をかけるプラットフォーマーがいるなかで、急に「『賞味期限が不確か』な Cookieレス対策機能としてこんなものを作りましたので、使ってください」というような点のお付き合いではなく、まず現時点から恒久的に優位性を持つアセットである、ヤフーデータでできる価値を継続して体感していただくことにより、Cookieレスに向けてどうデータを使えばよりよい評価ができそうかを、検証していく関係性を築くことが一番の準備だと考えています。

――そうしたアセットを使って、どれくらいのクライアントに、どのようなソリューションを提供しているのですか?

もっともこだわっていることは、アセットの価値を提供するお客様が数十社などの少数だとまったく意味がないということです。その実現のために今注力しているのは、データマーケティングソリューションという、即座にお客様に届けられるソリューション群の開発です。この1年で幅広いお客様に提供することができ、7月現在では、約1000社(前年は数十社)のお客様に、少なくともひとつ以上のソリューション浸透が進んでいる状況です。

1000社のお客様にデータ分析によるソリューションを届けるために、コンサルタントやアナリストの増強、大量のデータ分析に耐えうる強固な分析基盤、データ分析をアナリストに頼らなくてもリッチな提案ができるプロダクト開発に、この1年相当力を入れてきました。

具体的にデータマーケティングソリューションとして力を入れているのは、「インサイト」「ターゲティング」「メジャメント」のそれぞれのプロセスと「ファネル」を組みあわせてPDCAを高速に回せるデータソリューション群となります。

一例になりますが、「ファネル」においては、「今どうなっているのか」という視点ではなく、「今後どうなるのか」ということを、ヤフーの膨大なデータを用いて予測するもので、AIを用いた「コンバージョン予測ファネル」という新しいソリューションをリリースしました。

「コンバージョン予測ファネル」は、コンバージョンの近さを予測スコア化し、スコア別に階層化したオーディエンスボリュームをリアルタイムで把握することができます。現在は100社ほどのお客様がこれをもとにマーケティングアクションをし始めています。

これを活用することで、需要のボラティリティ(いまどれだけの消費者が広告主様の商品を求めているか)を予測しながら変化に強いマーケティングアクションが取れるようになります。

消費者の行動様式が刻一刻と変化し、度重なるマーケティング担当者の変更もあるなかで、時間をかけて作ったパーチェスファネルは短期的な目的しか達成できません。しかし、常にコンバージョンという目的から、ヤフーの膨大なデータストックを用いてAIがファネルを作ってくれるのであれば、そのような課題は生じません。

このコンバージョン予測ファネルは、ヤフーが力を入れて取り組んでいるデータマーケティングソリューションの一例です。詳しくはこちらでご説明させていただいていますので、ご覧いただければと思います。

――プライバシー規制強化をはじめ、データ活用そのもののあり方が変化しているなか、ヤフーとしてどのように向き合っていくのでしょうか?

インターネット広告全体の成長を牽引してきた既存の計測手法がOS、ブラウザを持つプレイヤーのルールの変更により変わっていく未来については、ヤフーとしてはどのような状況を迎えようとも対応できるよう、すべての領域において対策を用意する必要があります。

AppleのSKAdNetworkへの対応はもちろんのこと、Googleのプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)にもタイムリーに対応できるように、国内のどの事業者よりも調査研究を進めています。2022年に予定どおりサードパーティCookieが死滅したとしても、Chrome内での広告効果やターゲティングはプライバシーを配慮した形で継続できるように対応をおこなっています。

また、アドテクベンダーを中心に広がってきたユーザーデータの利用が行き過ぎた部分において、国内では私たちが先陣を切って透明性のある形でデータ活用をおこなえるようにしていく責務と、基準づくりを担う必要もあると考えています。

広告主のデータを連携していただく手法についても、昨今データクリーンルームなら連携が可能になるなど、言葉だけが注目を集めつつありますが、日本の法律やユーザーへの説明の在り方についてしっかりと向き合いながら、法律遵守の観点でも業界をリードしていかなければなりません。

――今後について、Zホールディングスという規模感のあるグループだからこそ、実現できることもあるように思えます。

2021年3月、ヤフーとLINEは経営統合を果たしました。Zホールディングスにしかできないことをやらなければならないし、何よりそれが期待されていることだと思っています。ヤフーはLINEやPayPayをはじめとするグループ会社含めて、多くのデータを保持しています。その価値化を早期に実現しながら、新しいビジネスモデルを創造しなければ非連続的な成長にはつながりません。

GoogleやAppleが広告事業者のために提供する仕組みを活用する部分もありますが、それだけでは不十分で、Zホールディングスならではのやりかたで、ヤフー、PayPay、LINEといったユーザーとの接点をもって、カバーしていくべきだと考えています。

また、こうした動きに合わせて、ユーザーの信頼を得るために透明性を担保しつつ理解しやすいプライバシーポリシーを設置し、ユーザーから利用パーミッションを得ることや、それに応じたベネフィットを提供していく部分もあるかと思います。

これらを元に、プライバシーに十分配慮した形で、広告主の皆さまに納得感のあるデータマーケティングのソリューションを提供させていただきます。

国内での既存事業の成長に限界が見えてきたお客様も多いなか、これまでになくユーザーの囲い込みの重要度が増してきていますが、ヤフーはフロー型のビジネスで、たまたま出会った広告でクリックをしてもらうということでしかお客様への事業貢献ができていません。私たち自身が、「脱皮できない蛇は滅びるしかない」という想いで、お客様がもっと顧客をストックでき、継続的にアプローチできるような仕組みとして、PayPayやLINEと連携したストック型のビジネスモデルを創造していく予定です。

フローからストックまで、マーケティングプロセスにおいてお客様に求められる商品ができることで、それらを支える今後のデータマーケティングはさらに強固なものになっていくはずです。ぜひ期待していいただくとともに、既存のソリューションを体感していただきたいと思います。

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▼鍵山 仁
Yahoo! JAPAN テクノロジーサービス本部長
2014年にヤフー株式会社入社。マーケティングソリューションズカンパニーデータ事業推進本部プロダクトマーケティング部長兼DMPサービスマネージャーを経て、2019年にマーケティングソリューションズ統括本部テクノロジーサービス本部長に就任し現職。ヤフーが持つビッグデータを活用した、データマーケティングソリューションの開発やデータ分析コンサルティングサービスを提供するデータビジネスの責任者を務める。
シナジーマーケティング株式会社 社外取締役、Handy Marketing副社長等を歴任し、2021年6月よりTポイントジャパン取締役にも就任。

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Written by DIGIDAY Brand STUDIO
Photo by 渡部幸和