焼き菓子作りが苦手だ。
バターが溶けないよう素早く馴染ませなさいと言われたかと思ったら、今度は常温に戻しなさいと言われ困惑し、卵黄だけ手元に余るのが嫌で全卵を突っ込み失敗する。
そんな筆者でも、いいかんじのデコレーションさえできるようになればお菓子作りが楽しくなるのではないか。
元花屋が、お花のクリーム絞りに挑戦してみた。
こんにちは、筆者です。こっちは先ほど焼いたスポンジカップケーキ。
突然「枯れた苔総集編」みたいな写真を見せて申し訳ない。
以前よりお菓子作りに苦手意識がある。というか、実際だいぶ苦手である。
バターを溶かさないように小麦粉に混ぜさせたかと思いきや、今度は室温に戻せとか言ってくるし、メレンゲに失敗しようものなら「器具に油がついていたのでは」という予想外のサジェストをされる。
お菓子作りの本は無数に出版されているのに、お菓子の国の摂理はなぜか誰もおしえてくれない。
「とりあえず冷蔵庫にあるものでちゃっと作るね」が認められているスパゲティやカレーの国とは大違いだ。
かわいいお菓子がある暮らしとは程遠い生活をしていたある日、instagramでこんな写真を目にした。
か、かわいい〜〜!!
ハッシュタグの#buttercreamflowerを辿ってみたところ、お花で彩られた素敵なケーキが無数に出てきた。
「お花を食べる」という、多くの人が無意識でいだく憧れをこんな形で実現されるなんて。パティシエさんはすごいなあ。
感心すると同時に、「これなら自分にもできるのではないか」という謎の自信が湧き上がってきた。
なぜなら筆者は元花屋だ。ケーキが作れなくても、フラワーアレンジができる。無数の花に触ってきて、花びらの構造も知っている。
筆者の焼き菓子は見た目は悪いものの、味はそこそこおいしい。それなら、デコレーションさえ素敵にできればいい感じのお菓子が作れるのではないか?
お花のケーキ、ちょっと挑戦してみよう。
お菓子の国に入国するために
調べてみたところ、お花細工の材料はいくつか種類があるらしい。
・バタークリーム…バターがたっぷり入ったメレンゲ。一番スタンダードな材料はおそらくこちら。
・白あんペースト…白あんにクリームチーズを混ぜてつくるペースト。マットな質感になる。
・シュガーアイシング…粉砂糖と卵白でつくったペースト。乾かすと固まる。
・チョコレート…チョコレートベースのクリーム。溶けやすいのでやや上級者向けとのこと。
正直どれがどう違うのか、まるで見当がつかない。
こういう時はとりあえず形から入るべきだ。かっぱ橋でクリームの絞り口と絞り袋、Amazonで本を何冊か買って、バタークリームと白あんペースト、シュガーアイシングの3種類を試してみることにした。
さてバタークリームづくりから始めましょうかね、と思ったところで早速問題が発生。
筆者が持っているブラウンのブレンダーは定格時間(連続で使用できる時間)が2分しかないらしい。それでは泡立て器のアタッチメントを付けたところでメレンゲは作れない。
ではこのアタッチメントはなんのために?あなたの存在意義ってなに?
どの本を読んでも素手で卵白を泡立てている人はなく、電動の泡立て器を推奨している。仕上がりに影響するなら電動泡立て器は必須であろう。
泡立て器アタッチメントを片手に悲しみにくれつつ、急いでAmazonで定格時間10分の泡立て器を購入した。当日お届け便。夜には届くはずだ。
白あんペーストでつくるお花
電動泡立て器が届くのを待つ間、泡立ての必要のない白あんペーストから作ってみよう。材料はこちら。
(分量等は記事最後で紹介している書籍を参考にしています)
青色○号のような色素を使えば少量でよく発色するが、今回は天然由来色素を揃えた。お菓子作り用のカラージェルを使うと彩色が簡単になるらしい。
初めてにしてはバラらしい形にできたのではないだろうか。
あとはこれをフラワーリフターで移動させるのだが…
白あんのペーストが柔らかすぎて移動することができない。
この現象に身に覚えがある。以前練り切りを作った記事でのことだ。
市販の白あんは水分をたっぷり含んで柔らかいため、扱いやすい水分量になるまで調節しなくてはならない。
つまり…
白あんを耐熱ボウルに塗りつけて、電子レンジで加熱する。これで水気が飛ぶはずだ。
ペンチで細く曲げると、より薄いクリームを出せるようになる。リアルなお花絞りがしたい場合は要カスタムとのこと。
ぱっと見おいしそうだが、焼きすぎて表面だけクッキーになってしまった。あいかわらず焼き菓子は苦手。
そのまま絞っただけでもお花の形になるというが…
初めてにしてはよくやった方だと思う。ちなみにこの時点で開始から6時間が経過している。普通に焼き菓子を練習した方が堅実だったのかもしれない。
バタークリームでつくるお花
さて、電動泡立て器が届いたのでバタークリームのお花をつくる(配達員さん当日お急ぎ便をありがとう)。
こちらも書籍を参考に材料を買ってきたのだが…
左下の粉は乾燥卵白だ。
お菓子作りに対して抱いている苦手意識の中に、「卵白と卵黄、どちらかだけ余らせるのをやめてほしい」というものがある。
卵黄だけ余っても保存できないし、「余った卵白はメレンゲにして焼けば…」というレシピ本に対しては、ナチュラルにお菓子を2品作らせるんじゃないよと威嚇のポーズを取ってしまう。
そこでこの乾燥卵白。
水60gに対して3〜6gを溶かすことで通常の卵白のように使え、もちろんメレンゲもできる。バーテンダー時代に知った便利アイテムの1つだ。
卵白液にグラニュー糖を混ぜたものを泡立てて…
こうやって作るメレンゲをイタリアンメレンゲというらしい。
バタークリームができた。こちらに彩色して、お花を絞っていく。
なめらかなクリームが「とぅるん」と出てきてくれるので、軽い力で絞れる。
ただし手の熱で溶けてきてしまうため、精巧なお花を絞りたい場合はよく冷やしながら作業をする必要がありそうだ。
白あんよりも発色がいいし、ツヤツヤな陶器のようなお花ができる。
作っていてとても楽しいが、成分のほとんどが脂なため、クリームが手についたら毎回お湯で洗い流す→冷水で手を冷やす をしなければならず非常に厄介だ。そして洗い物がハードモード。超魔界村。
カロリーが恐ろしい、洗い物が地獄という点を除けば、今回一番楽しい素材であった。
ロイヤルアイシングでつくるお花
さて、最後はアイシングのお花。
定番のアイシングクッキーすら作ったことがないが、材料が砂糖と卵白だけで構成されたものを「ロイヤルアイシング」というそうだ。高貴なアイシング。
かわいいデコレーションさえあれば、焼き菓子が苦手でもなんとかなる
まるで生地を焼くのに失敗したとは思えない出来栄えではないだろうか。
白あんペーストはクリームチーズの酸味が相まってさっぱりいただけるし、バタークリームは流石のリッチさ。
ロイヤルアイシングは分厚く作りすぎて食べるのがたいへんな硬さだが、クリスマスケーキのマジパンみたいでこれはこれで楽しい。
ちなみに朝の9時から開始して、全て完成したのが明け方4時だった。上の写真は朝一番のスズメが鳴くのを聴きながら撮っている。
「全部の素材を一気に試そう」という姿勢が、お菓子作りに向いてなさの本質なんだよな、と学んだ1日であった。
試してみたい方はまず「白あんペースト」から
その後、instagramをじっくり眺めて気づいたことがある。
韓国や中国のオシャレなお菓子屋さんが作っている精巧なお花絞りは、#buttercreamflowerと書いてあっても、おそらく白あんがベースだ。
クリームチーズの代わりにバターを入れてツヤを出しているように思う。
泡立て器を必要としない手軽さ、お花絞りの難易度、カロリーから総合して、初めて試したい方には白あんペーストのお花がおすすめ。
詳細な作り方やレシピが知りたい方は、ぜひこちらの書籍から。↓
●参考書籍
『白あんでつくるあんの花が咲くお菓子』福本美樹著、株式会社日東書院本社発行
『軽いバタークリームで作るフラワーケーキ』長嶋清美著、学校法人文化学園文化出版局発行
『バタークリームでつくるエレガントなフラワーケーキ』一般社団法人日本サロネーゼ協会 桔梗有香子著、株式会社日東書院本社発行
『〜お花絞りテクニック集〜Royal Icing Flowers』Artist Link Associate八木智美著、株式会社日本文芸社発行