ツンドラとは地下に永久凍土が広がり降水量の少ない地域のことを指し、シベリア北部など北極海沿岸にみられます。近年では地球温暖化に伴う永久凍土の融解やツンドラの減少が危険視されており、新たにアルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所(AWI)の研究チームが「ツンドラは2500年までに消滅してしまう可能性がある」という研究結果を発表しました。
Regional opportunities for tundra conservation in the next 1000 years | eLife
https://elifesciences.org/articles/75163
Siberian tundra could vanish in less than 500 years | Live Science
https://www.livescience.com/vanishing-siberian-tundra
北極圏の温暖化はここ数十年で急速に進行しており、1960年~2019年の間に北極圏全体で平均気温がセ氏4度近く上昇するなど、温暖化の進行速度は他の地域の2倍に達しているとのこと。これは北極圏において氷が解けだす原因となっているだけでなく、シベリアカラマツなどの針葉樹林が北に広がってツンドラが減少することにもつながっています。
しかし、森林がどれだけの速さでツンドラを浸食するのかは不明であり、一部地域では森林化が進行しているのに別の地域では逆に森林が退行しているなど、場所によるばらつきも大きいそうです。そこでAWIの生態学者であるStefan Kruse氏とUlrike Herzschuh教授は、全長約4000kmにおよぶシベリアの全ツンドラを評価するコンピューターモデルを作成しました。このモデルでは各樹木の種子の広がりや他の樹木との競争といったライフサイクルや、永久凍土の融解、夏季の気温や降水量などを考慮に入れたシミュレーションが可能だとのこと。
研究チームがモデルを使ってさまざまな温暖化シナリオのシミュレーションを行ったところ、ツンドラはひとたび森林による浸食を受けると回復しにくく、気温が低下しても再びツンドラとなる可能性が低いことが判明。その結果、地球温暖化がツンドラに壊滅的なダメージを及ぼすことが明らかとなりました。
たとえば、「炭素排出量が2100年までにゼロになり、地球の気温上昇が摂氏2度にとどまる」という楽観的なシナリオでさえ、2500年の時点では記事作成時点のわずか32.7%しかツンドラは残っていないという結果になりました。この場合、残るツンドラは極東のチュクチ自治管区と北部のタイミル半島に分断されてしまうそうで、ツンドラに生息するトナカイの個体群や先住民であるネネツ人などの文化に大きなダメージを及ぼすとみられています。
また、「炭素排出量が2050年まで減少せず、2100年までに半分まで削減される」というシナリオでは、2500年まで残っているツンドラはわずか5.7%となり生態系は実質的に消滅します。そして、これ以上温暖化が進行すれば2500年までにツンドラは地球上から消滅してしまう可能性が示されました。
Kruse氏は「ツンドラがどれほど速く森林に明け渡されてしまうのかを見るのは、私たちにとって驚くべきことでした」「ツンドラが失われれば、人類にとって大きな損失になるでしょう」とコメント。また、雪に覆われたツンドラよりも森林の方が熱を多く吸収するため、森林化が進行するほどシベリアの大地が熱を吸収し、さらに北極圏の温暖化が進行してしまう可能性もあると指摘しています。
ツンドラの消失がもたらす影響は、単に現地の生態系を破壊するだけにとどまりません。永久凍土には二酸化炭素やメタンガスなど多くの温室効果ガスが保存されているため、永久凍土の融解はさらに地球温暖化を進行させることが懸念されており……
永久凍土が解けることが地球環境に与える影響は「これまでの推定の2倍」との研究結果 – GIGAZINE
永久凍土に保存されているウイルスや細菌が復活し、感染症が流行する可能性も示唆されています。
温暖化が「感染症の流行」を引き起こす恐れがある – GIGAZINE
Kruse氏は、今回のコンピューターモデルはツンドラの中でも特に回復力の強い地域を特定し、種や環境の保全に向けた投資の優先度を決定する上でも役立つ可能性があると主張。「最良の選択肢は温暖化の圧力を減らすために世界の温室効果ガス排出量を削減することですが、それができないなら種の保全を行う必要があります」と述べました。
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