パナソニックがLPガスのサービスをIoTで変えようとしている。人手と時間がかかっていた検針をクラウド型のシステムで一元化し、ガスの消し忘れ時の遠隔遮断など監視体制も整える。今以上に安心安全な暮らしをサポートし、社会課題とも言われる労働力不足も補う新サービス「クラウド型自動動検 ・集中監視サービス」とはどうやって生み出され、今後のガスサービスをどんなふうに変えていくのだろうか。
「クラウド型自動動検 ・集中監視サービス」の概要
インフラの1つであるガスは、日本の全世帯数の約半数がガス管を通して供給される都市ガスで、残りの半分がガスが入った容器を配送して供給するLPガスだ。LPガスの供給が約半数にのぼる日本は、実は先進国としては珍しい事例。都市ガスの普及が進む他国に比べ、LPガスの需要が根強い理由には、日本の気候、地形が大きく関わっている。
日本は山岳地帯が多く、ガス管の敷設がしづらい地形が残る。住宅地や産業集積地から離れて暮らす住宅もあり、ガス管の構築が必要となる都市ガスではすべての世帯をカバーしきれないのが現状だ。一方、LPガスは配送できるため、より広いエリアでの利用が可能。加えて、地震や水害などの自然災害時に復旧が早いという特徴を持つ。
日本の生活に合ったインフラとして長く使用されてきたLPガスだが、ここ数年課題も出てきた。世界的に叫ばれるCO2削減をはじめ、コロナ禍による非対面でのやりとりを望む、ユーザーとの関係作りの変化。深刻なのは、生産年齢人口の減少からくる人手不足だ。LPガスには配送が必要になるため、ガスを運搬する人手に加え、検針するスタッフも必要になる。いずれも契約者の家を1件1件回る堅実さが求められる。
電力自由化により、この市場にはさまざまなプレーヤーが参入し、電気や都市ガスといった他エネルギーとの競合も見据えなければならない今、これらの課題を解決する手段として登場したのが、クラウド型自動動検 ・集中監視サービスだ。
電気メーカーのイメージが強いパナソニックだが、ガス関連事業への取り組みは長い。きっかけは、1978年に都市ガス会社から創業者である松下幸之助氏に「電気のブレーカーと同じ役割を果たす、ガスのブレーカー的なものを開発してほしい」と依頼されたこと。当時はガスによる事故が多く、安心、安全なものが求められた。
その後1983年に都市ガス事業者向けのガスメーター用コントローラーの第1号機が設置された。ガスのメーターを計測することで安全を確保する仕組みを整えた。1986年にはLPガスメーター向けのコントローラーを開発、設置、1990年にはLPガス向け集中監視システムの提供に至る。安全機能を持ったメーターは世界的には珍しく日本特有のもの。このメーターの普及とともに、ガスによる事故数は減少していったという。
パナソニックでは1978年からガスメーターの開発、生産に取り組んでいる。写真は、ガスマイコンメーター第1号機「マイセーフ」
ガスメーターの製造を手掛ける奈良拠点
IoTによるガス業界の課題解決とは
ガス事業者とともに安心、安全に使える仕組みを構築していきたパナソニックが、次に目指すのはIoTによるガス業界の課題解決だ。クラウド型自動動検 ・集中監視サービスは、ガスメーターに無線端末を取り付け、LTE網を使ってクラウドにデータを集約。ガス事業者側はPCからメーター指針値を遠隔で取得できるほか、ボンベの残量が設定量になった時点での通報、ガス圧異常やガス漏れ、感震遮断などの緊急通報をリアルタイムに取得でき、センターからメーター遮断、開栓といった遠隔作業にも対応する。
LPガスに関する作業のIoT化は、ガス業界が抱える課題解決に結びつく有用な施策に見える。しかし、初期投資がかかったり、通信技術に強い専門スタッフを雇用したりと、ガス事業者側には負担も大きい。
ガス事業者は1万6000〜1万7000社程度とあると言われているが、多くは地域に根ざした中小規模の事業者。機器代、工事代の負担が大きいと導入しづらいのが実情だ。IoT化による効率化などの効果が得るためには、ガスを提供している全世帯の5割程度に普及させる必要があり、初期費用にはまとまった金額が必要になる。
そこで、パナソニックは無線機の購入から設置工事、回線費用などの初期費用から、サーバー運用、メンテナンスまでをカバーする「まるごと月額・定額サービス」を用意。初期費用や専任スタッフをパナソニック側で請け負うことで、IoTを強力にバックアップする体制を整えた。2018年から提供をはじめ、サービス契約件数はすでに6万件を数える。顧客数が数百件から数万件まで、大規模から小規模まで幅広い事業者が導入できることを特徴とする。
「クラウド型自動動検 ・集中監視サービス」導入へのステップ。ガス事業者が手掛けるのは2つのステップのみ
パナソニック側では、今まで「売り切り」だったLPWA端末を、サービスとして提供することで、ガス事業者との長期に渡る関係を構築。サービス型の事業として、新たなビジネスモデルを築く。将来的には、ここから得られるデータを活用し、新たなサービスの提供や、業務効率化の提案、パナソニックのほかの事業体との連携による新事業なども見据える。
導入したガス事業者は、集中監視サービスにより、自動検針ができるようになり、残ガス情報も自社から監視できるため、配送効率をアップ。在庫管理もしやすくなるなどメリットは大きい。また、ガスの検針とともに自宅ポストに届けられていたガス使用料の明細がウェブサイト上で確認できるなど、手間と人手が大幅に軽減され、ペーパーレス化にも結びつく。
今まで検針スタッフがハンディ端末で検針後プリントアウトしてポスト投函していた明細がウェブサイト上で確認できるようになる
ユーザー向けにも安心、安全なサービスを用意する。使用状況を24時間監視できるため、長時間使用時には「消し忘れ通報」として、ユーザーにメールで通知。ガスの使用状況を遠隔で確認、遮断ができるため、外出時に消し忘れに気づいても対応が可能だ。また、一定期間ガスの使用がない場合はメールで離れて暮らす家族に知らせるなど「見守りサービス」としても役立つ。
パナソニックグループだからできる設置から運用、監視まで
設計、設置から運用、監視までと幅広い知見と技術が求められる、クラウド型自動動検 ・集中監視サービスだが、無線機の設計、生産をパナソニック、設置、保守をパナソニックコンシューマーマーケティング、運用、監視をパナソニックアプライアンスセーフティ・サービス、集中監視システムの開発、保守をパナソニックシステムソリューションジャパンとパナソニックグループをあげて取り組むことで、今回のシステムを構築。安心保守を徹底する。
機器の開発、生産から保守、運用までパナソニックグループで取り組む
クラウド型自動動検 ・集中監視サービスは、全国(離島をのぞく)でサービス展開していくが、保守については家電設備における保守のインフラを使うことでカバー。全国どこでも高品質で均一なサービスな受けられる体制を整える。
サービスは2018年から徐々に開始しており、2022年から本格展開へと移行。すでに導入したガス事業者では、利用者宅に配送される軒下在庫の削減や検針スタッフへの働き方改革などにつながっているとのこと。設置から保守まで、トータルでの対応が受け入れられているという。
また、災害時の対応にも評価を得ており、2020年7月に起こった熊本豪雨の際は、被害にあった端末を検知することで災害エリアを特定。保険対応などを含め、災害発生後、2週間で修復の準備が完了したという実績を持つ。
利用料には機器の代金から設置、通信費、保守メンテナンスなどすべてが含まれており、1IDにつき月額300円。本格展開を見据え、10年間定額で使える「フラット10」のほか、軒数変動に対応する「フラット5」のほか、予算にあわせて先払いができる「アドバンスxフラット10」、先払いに加え、後半の負担を軽くする「アドバンスxフラット5」などの料金プランも用意する。
重要なインフラとして生活に欠かせないLPガス。その、安定して運用を支えているのは多くの人手と時間だ。クラウド型自動動検 ・集中監視サービスは、ガスの運用をIoT化することで、その人手と時間を効率化し、さらに便利なサービスを生み出すことを見据える。パナソニックでは、付加価値サービスなどの拡張も踏まえ、この事業を2030年度に100万軒へと拡大させていく計画だ。