レンコン掘りを堪能してきました。
昔から泥に埋まりながらレンコンを掘ることに憧れていた。あれって絶対楽しいと思うんだ。ちょっと寒そうだけど。
そのうち茨城あたりのレンコン農家に知り合いができて、いつか掘らせてもらえる幸運が来ることを待ち望みながらぼんやり日々を過ごしていたのだが、なんと地元埼玉に1500円で掘り放題という夢のような沼を見つけたのだ。
レンコンは肥大化したハスの根
レンコン掘りの顛末を紹介する前に(先に書いてしまうと最高だったんですよ)、まず「レンコンとは何か」という話を一応しておく。
レンコンは漢字で書くと「蓮根」。ご存じの方も多いと思うが、蓮(ハス)の根(肥大した地下茎部分)がレンコンだ。
レンコンの産地に行くと、ハスが茂った広い水田(という呼び方でいいのだろうか)があり、この泥の中にレンコンができるのである。
ハスの葉が枯れてからがレンコンの収穫時。ホースからすごい圧力の水を泥の中にブシューっと送り込んで、レンコンを収穫する様子をテレビなどでみたことがあるだろう。
あの仕事にずっと憧れていたのだ。
レンコン堀りは養魚場で開催されていた
一月上旬、レンコンを掘るためやってきたのは埼玉県熊谷市にある柿沼養魚場。相場のまったくわからない料金は、1500円で掘り放題、持ち帰りの追加料金なしと大変リーズナブル。普通にやって何キロくらい掘れるものなのかは知らないが。
ところで私は埼玉県民だが、熊谷に、というか埼玉に、レンコンのイメージはない(調べたら都道府県別で20位前後だった)。しかも養魚場である。なんでここでレンコン掘りができるのか私も不思議だったのだが、受付で話を聞いてすごく納得した。
今年で22年目を迎える柿沼養魚場では、メダカや金魚などの観賞魚を主に育てていたが、十数年前にコイ科で一番おいしいともいわれているホンモロコの養殖をスタートさせた。ちなみに琵琶湖の固有種だが、現在は埼玉が養殖量日本一となっている。
熊谷でホンモロコを育てる上での問題は、全国有数となる夏の暑さだった。沼に降り注ぐ強烈な日差しをどうにか遮れないかと様々な植物を試したところ、葉っぱの大きなハスが一番日陰を作ってくれることがわかったのでたくさん植えた。
その結果、魚が泳ぐ沼の地下で立派なレンコンが育つようになったのだ。
いわばレンコンはホンモロコの副産物。そもそもレンコン目当ての沼ではないので、肥料はまったく与えていない。魚に害があってはいけないから農薬も一切使わない。それでも魚の糞が肥料となり、良質のレンコンが育つそうだ。すごい循環である。
ただ泥の質がかなり硬く、業務用ホースの水圧でもレンコンが掘れないので(レンコンよりも泥が固いので出力を上げるとレンコンが削れてしまう)、収穫はどうしても手掘りとなる。
他の仕事もあって全部のレンコンを手作業で掘ってはいられないので、体験型観光農園として六年前から開放しているのだ。
泥が固いとレンコンの成長は遅くなり、なかなか大きくは育たないが、その分味がぎゅっと濃くなる。本業ではないので漂白などの処理をせず注文があった分だけ出荷する。そのためレンコン好きの料理人などが、ここのはうまいぞと喜んで買いに来るそうだ。
このおもしろい話を聞いただけで、もう入場料分の満足感を得られた。
柿沼養魚場流レンコンの掘り方
レンコン掘りで不安だったのは、体力的な問題も当然あるが、一番はやっぱり沼の寒さ。さすがの熊谷も暑いのは夏だけだ。
数日前にこのあたりでは珍しく雪が積もり、こんな寒さの中でレンコンを掘ったら辛いだろうなと震えていたのだが、この日は無風かつ快晴、絶好のレンコン日和だった。
レンコンを掘らせてもらう場所は、学校にあるプール位の水がほぼ抜かれたホンモロコの養殖池で、どこを掘るかは自由。遠足のサツマイモ掘りみたいに、ここからここまでと決まっている訳ではない。
レンコンがある深さは、ごく浅いところから水深40㎝くらいまでと様々。地上に突き出た茎をたどって掘りたくなるが、目指すべきレンコンはそこから横に細く伸びた地下茎の先端部分なので、茎からたどるのは超非効率。
ベテランは泥から飛び出た芽をタケノコ掘り名人のように見つけたり、足裏の感覚で地中のレンコンを見つけるそうだが、素人は適当に泥の中へ手を突っ込んで掘りあてるのがオススメとのこと。ホースでブシャーのイメージとはだいぶ違うが、これはこれで楽しそうだ。
レンコン掘りは楽しかった
丁寧に掘り方のレクチャーをしていただき、ホンモロコと共に育ったおいしいレンコンが埋まる沼地へと向かう。
堆積した泥に一歩足を進めると、ズブズブズブと気持ちよく沈んでいき、これ以上はやばいだろと不安になったところで止まってくれた。有明海の干潟と違って、ちゃんと底がある人工池ならではの安心感。
それでも水の多いところはひざ下近くまでしっかり沈むので、歩くだけでかなりの体力が奪われていく。ドラクエで「毒の沼地」を歩くと体力が削られていくことを思い出した。でもそれが楽しい。
私が訪れたのはシーズン後半なので(開催は10月~2月)、掘りやすい場所のレンコンはだいたい掘られた後。釣り堀のように減った分だけ足されるということはないので、残ったものをどうにか探し当てる必要があり、難易度はちょっと高めだ。果たしてどれくらい残っているのだろう。
いかにもレンコンがありそうな場所は避けて(それもよくわからないのだが)、誰も掘りそうにないけれど実はレンコンが育っていそうな場所に座り込み、ヌルリと手を突っ込んでみる。
ようするにあてずっぽうなのだが、そこに宝探し的なゲーム性がある。この時点でもう楽しい。
レンコンはどこだろうと泥の中を夢中でまさぐっていたら、同行の友人から「あったー!」との声が上がった。
ザリガニの次は冬眠中のカメでも見つけたのかと振り向けば、なんと本命のレンコンではないか。やるな。
絶対あるとわかっていたレンコンだが、こうして実物を確認するとテンションが上がる。俺も掘りたい。
四足歩行のような体制で黙々とターゲットを探していると、泥の中に沈めた右手に何やらこん棒のような手ごたえが。
なんだこれ、そうか、これがレンコンか。
まずその大きさと向きを手探りで確認して、指で輪郭をなぞるように少しずつ浮き上がらせ、レンコンを土器のように発掘する。この泥が陶芸用かと思うほど、きめが細かくねっとりして意外と時間が掛かる。
発見から数分、指先がちょっと冷えてきたところで少し強引に持ち上げると、パキっと嫌な手ごたえが伝わってきた。
やばい、折れたかもと思ったが、節のところできれいに外れた良型のグラマラスなレンコンが水揚げされた。よし!
全く見えな泥の中、手の感覚だけで見つけるのが潮干狩りみたいですごく楽しい。しかもお宝のサイズは様々で、途中で折れたら負けというゲーム性が俺を熱くさせる。
これは何時間でもやっていられるやつだ。人生まだまだ楽しいことが探せばあるんだなと、レンコンがもたらしてくれた想像以上の充実感を噛みしめる。
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慣れてきたら足裏の感覚で見つけられるようになってきた。ただ沼地を歩くのは大変なので、文字通り足で探すのも大変なんですよ。
来年もまたこよう
レンコン堀りは予想以上に充実したアクティビティだった。ヤギやニワトリやカラスの鳴き声を聞きながら、無心になって掘り放題の収穫をするという贅沢。仕事にするのは辛そうだけど、レジャーとしてなら最高だ。寒い日だったら泣いていたかもしれないが。
気持ち的には何時間でもやっていられるなと思いつつ、両脚はつりだし、腰はピキピキとヤバい予兆を感じさせ、冷える手も握力が無くなってきたので、適当なところで終了とした。
時計を確認したら、開始から僅か一時間しか経っていなかった。逆浦島太郎状態である。それでも食べる分は十二分だ。
柿沼さん曰く、レンコンは保存が効く野菜なので、日が当たらない涼しい場所で水に漬けたり、濡らした新聞紙に包んで冷蔵庫に入れておいたりすれば、一か月くらいは持つそうだ。その置く場所をどうするかは別問題だが。
ちなみに私は一部を親や友人にあげたものの、そのほとんどを自分で料理して食べきってしまった。養魚場で育ったレンコンはすごくねっとりしてうまかった。
憧れだったレンコン掘り放題、これで1500円は安すぎる。私が持ち帰ったのが10キロだとしたら、100gあたり15円だ。明らかに普通よりもうまいレンコンなのに。
一定量以上を買取制にしていただいて全然構わないので、またたっぷりと掘らせていただきたい。来シーズンはホンモロコが売り切れる前に予約せねば。