プーチン氏との距離が問われる選挙

アゴラ 言論プラットフォーム

4月3日の日曜日、ハンガリーとセルビアの両国で選挙が実施される。ハンガリーは国会議員選挙で12年間政権を維持してきたオルバン政権が野党連合の挑戦を受ける一方、バルカンの盟主セルビアでは国民議会選と大統領選が同時に行われる

プーチン大統領と会談後、記者会見に応じるオルバン首相(2022年2月1日、ロシア大統領府公式サイトから)

両選挙の共通点はビクトル・オルバン首相(58)もアレクサンダル・ヴチッチ大統領(52)もロシアのプーチン大統領とこれまで良好関係を築いてきたことだ。普段ならば選挙で大きなマイナスとはならないが、ロシア軍が先月24日、ウクライナに侵攻し、多くの犠牲者を出している時だけに、ハンガリーとセルビアの両国指導者は親露カラーを抑えるなど神経質になっている。両国とも与党、「ハンガリー市民連盟」(フィデス)、セルビアの与党「進歩党」(SNS)の優位が伝えられているが、波乱も排除できない雲行だ。

ここでは、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の加盟国ハンガリーの選挙の行方を紹介する。2010年から12年間、政権を取っているオルバン首相は2月1日、モスクワでプーチン大統領と会談している。ウクライナ危機が始まって以来、EU加盟国の首脳がモスクワを訪問し、プーチン氏と対面会談したのはオルバン首相が初めてだった。

オルバン首相の与党「フィデス」は議会(定数199議席、任期4年)で3分の2の議席を有しているが、今回の総選挙は2018年のような大勝利は難しいと予想されている。その理由は6つの野党が打倒オルバン政権で結束し、野党連合を立ち上げたからだ。

2019年のブタペスト市長選では野党が支持するカラーチョニ・ゲルゲイ氏が、連立与党が支持する現職を破って勝利した。野党連合は2019年の再現をモットーにオルバン政権打倒で結束し、同国南東部のホードメゼーヴァーシャールヘイ市のペーター・マルキザイ市長(49)を6党の統一首相候補に選出した。マルキザイ氏は保守派政治家であり、熱心なカトリック信者として知られている。選挙公約として、最低賃金の免税、ユーロ導入、司法の独立、病院の待機リストの削除などを掲げている。

ただし、野党連合は社会民主党から極右党「ヨッビク」まで政治信条、政策が180度異なる政党の寄せ集めだ。オルバン政権打倒で結束していると言っても、選挙戦での公約や政策論争は難しい面がある。そのうえ、国内のメディアを完全に掌握しているオルバン首相は野党側との選挙討論を回避しているから、野党側はメディアに登場するチャンスがほとんどない。

独週刊誌シュピーゲル(3月26日号)に掲載された世論調査によると、オルバン首相の与党フィデスが33ポイント、それを追って統一のための同盟(野党連合)は31ポイントで拮抗している。どの党に投票するか決めていない有権者は32ポイントというから、浮動票の動向が勝敗を決める構図だ。明確な点は12年間続いたオルバン政権に飽きた有権者はチェンジを求めていることだ。

オルバン首相は国民経済の回復を重点政策に挙げ、インフレ抑制や税還付などの政策を表明、2月12日のブタペストの選挙集会では「ハンガリー・ファースト」を掲げ、国民の利益重視を最優先にする姿勢を改めて強調している。

野党側は、「オルバン政権はEUからの補助金を活用し政権支持の企業を優先して支援し、その影響力を拡大してきた」と指摘、「ポスト共産主義マフィア」と呼んでいる。

オルバン首相はEUから異端児と受け取られてきた。ブリュッセルは「言論の自由」「司法の独立」といった法の支配を無視するオルバン政権をこれまで厳しく批判してきた。

欧州司法裁判所(CJEU)は2月16日、「加盟国に対するEU予算の執行の一時停止を可能とする条約設定規則を適法」と判断し、EUが法の支配原則を無視する加盟国に制裁ができることになったばかりだ。ただ、オルバン首相にラッキーだったことは、ロシア軍がウクライナに侵攻したため、EUはその対策に奔走せざるを得なくなり、ハンガリー問題は後回しになったことだ。

問題は、ロシア軍がウクライナ侵攻して以来、オルバン首相のロシア寄り政策は修正を余儀なくされてきたこと。同首相はロシアの侵略を公式に非難し、EUの制裁を支持し、ウクライナから避難民がハンガリー国境に殺到すると現場を視察、避難民を歓迎している。

一方、ウクライナへの武器供給は拒否、EUのロシア産ガス輸入禁止には反対している。ハンガリーはエネルギーをロシア産の天然ガスに依存しているからだ。オルバン政権は昨年、ロシアとガス供給で15年間の供給契約を締結した。また、ロシアの財政支援を受けて、100億ユーロ相当の2基の新しい原子炉を建設する、といった具合でロシアとの経済関係は深い。今回の総選挙はオルバン首相にとって「プーチン氏との距離が問われる選挙」となっている面は否定できない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年4月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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