正月から1ドル=116円台という5年ぶりの水準になっています。今年は「アメリカの利上げで円安・インフレの年だ」といわれていますが、これはどういうことでしょうか。
Q1. 円安って何ですか?
外国為替市場では、いつも円とドルなどの外国のお金が交換されています。これを為替(かわせ)とよびます。これは100円玉を10円玉10枚と両替するのと同じで、要するに円とドルを両替しているのです。
100円玉はいつでも10円玉10枚と両替してもらえますが、外国為替は変動相場制なので、1ドルが何円と両替してもらえるかはその時によってちがいます。この取引で円が安くなることを円安といいます。
Q2. なぜ1ドル=115円が116円になると円安なんですか?
これは1円=1/115ドルが1/116ドルに下がったのですが、分数で書くとややこしいので、ひっくり返してドル中心に書いているのです。次の図は1ドルが何円かをグラフにしたもので、下のほうが円安です。
名目為替レート(ドル/円)日銀調べ
Q3. 円安になるとだれがもうかるんですか?
ドルをもっている人はもうかります。去年は1ドル=104円だったので、1年前に1万ドルを104万円で買った人は、いま売ると116万円で12万円もうかります。年率11%のもうけです。でも預金とちがって下がるかもしれないので、よい子はドルを買ったりしてはいけません。
Q4. 円安で物価はどうなるんですか?
円が安くなるとドルが高くなるので、輸入物価は上がります。たとえばガソリンの値段が1リットル1.5ドルだとすると、去年は1.5×104=156円でしたが、ドル建ての原油価格が同じだとしても今年は1.5×116=174円になります。おまけに原油や天然ガスの値段も上がっているので、電気代も去年より1割以上あがっています。
Q5. それなのに円安で喜ぶ人がいるのはどうしてですか?
円安になると日本から輸出しやすくなるからです。たとえば日本で100万円の自動車は、去年はアメリカでは100万÷104=9615ドルでしたが、今は100万÷116=8620ドルになるので、日本から輸出した自動車を買う人が増えるでしょう。つまり円安で普通の人は損しますが、輸出している大きな会社は得するのです。
Q6. 日本全体としてはどうなるんですか?
輸出物価を輸入物価で割った数字を交易条件といいます。これは輸出する商品1でいくらの輸入品を買えるかという数字で、日本人が世界の中でどれぐらい豊かを示すものですが、去年から下がり続け、1を切っています。これでみると、日本人は貧しくなったといえるでしょう。
交易条件の推移(日銀調べ)
Q7. 為替レートは何で決まるんですか?
昔は為替レートは貿易黒字がゼロになるように決まると考えられていましたが、外為市場で動くお金の99%は投機資金なので、貿易黒字とは関係ありません。ドル円レートは短期では、図のように日米の金利差に連動して動いています。円でゼロ金利でお金を借り、ドルに替えて1%で貸せばもうかるので、ドルを買う人が増えるわけです。
ドル円レートと米金利(日本経済新聞)
Q8. 日本も金利を上げればいいんですね?
そうですが、日銀は500兆円以上も国債を買って量的緩和をしたので、金利を上げると銀行に大きな評価損(こども版を読んでください)が出ます。このため、しばらく政策金利を上げられないでしょう。他方でアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)はこの春にも金利を上げるといわれているので、ドルはまだ上がると相場はみてるんでしょう。
Q9. これから円はまだ下がるんでしょうか?
それはわかりません。あまり急に円安になると、輸入インフレがひどくなって困りますが、日本はまだ貯蓄過剰なので、その差を埋める「均衡為替レート」は1ドル=150円ともいわれます。日本がこれからインフレになると通貨価値が下がるので、円は安くなります。
長期的には、ヨーロッパで脱炭素化で石炭火力発電を禁止したので、化石燃料の不足によるグリーンフレーションが進むでしょう。これによって資源価格が上がると、資源を自給できない日本のコストは上がり、交易条件はさらに悪くなります。
Q10. 円安を止める方法はあるんですか?
いちばん簡単な方法は、外為市場で政府がドルを売って円を買う為替介入ですが、これはいつまでも続けられません。外為市場の規模は日本政府のもっている資金よりはるかに大きいからです。
長い目でみると、円が安くなって日本国内で生産するコストが下がったら、アジアに出て行った工場も日本に帰ってくるでしょう。外資も日本に生産拠点をつくると思います。今はまだ日本企業の実力より円が高いので、円安が進んでいるのです。結局、為替レートは国際競争力で決まるので、企業の生産性を高めることが最大の円安対策だと思います。
この他にも為替レートは、よい子のみなさんにはわからない複雑なおとなの事情があるので、1月7日からのアゴラ経済塾「インフレ時代に資産を守る」では、円安のゆくえも考えたいと思います。