2022年経済は混とん、利上げ機運は本当に生まれるか?

アゴラ 言論プラットフォーム

アメリカの中央銀行に当たるFRBは量的緩和の終了を加速し、22年度に3度の利上げを見込みました。市場は量的緩和の加速度的終了は既に織り込み済みで、22年度の利上げのフォワードガイダンスをかなり気に留めていました。ほぼ想定通りのシナリオになり、安堵感が生まれています。パウエル議長は現在のインフレが一時的という表現を撤回し、抑制には時間がかかると考えています。さて、本当にそれほどアメリカ経済、あるいは世界経済はイケイケドンドンなのでしょうか?

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経済には肌感覚というのがあります。これは商売をしている人は客の表情、お金の使い方、売れる商品、冷やかし客でもいつ頃買う気があるのかは表情や商品を吟味する姿勢でわかるものです。あるいは一般人でも街を歩いていてどんな店が混んでいるのだろう、どんなところにお金を使っているのだろうという感性でみると色々見えてくるものです。

ところが中央銀行や政府中枢の方々はそういう肌感覚は持ち合わせていません。統計から上がってくる数字や客観的事実が全てなのです。一部は聞き取り調査もあるとは思いますが、割と見落とすことも当然出てきます。では私が思う肌感覚はどうなのか、といえば「混とん」です。今、人々が消費しているマネーは腰が入ったマネーには見えないのです。表層雪崩のようなものでどどっと客が来て売り上げが伸びているが、とても薄っぺらな奥行きで実は不安一杯で大きなものには手を出しにくい、そんな消費具合なのです。

そもそも論として2年間コロナで苦しんだのになぜ、そんなに景気が良くなるのでしょうか?イノベーティブなことがあり、経済のエンジンがフル回転し、トリクルダウンが起きているようなそんな状況ではなく、単に滞っていた消費や会食がキャッチアップしている状態なのです。

例えばつい1-2か月前まで大騒ぎをしていた貨物船輸送ですが、大きく解消です。ロス港は待機船が半減しています。私が来週取りに行く船便貨物もシアトルタコマ港を過去最速に近い3日で出てバンクーバーに入港しています。以前の2週間からはるかに良化しています。物流業界は当面厳しいと言い続けますが、たぶん、春には正常化に向かうとみています。物価上昇起因の一つである物流が正常化するのはインフレ鎮静化には極めてありがたい話です。

次に雇用の回復と賃金上昇圧力の低下が期待されます。これは株式市場が絶好調だったのは秋までで今では正直、素人にはほとんど儲けられない厳しい相場付きに転換しています。カウチに座ってロビンフッドで小銭稼ぎしていた人たちは夢から覚め、労働市場に戻らざるを得なくなります。またオミクロン株が重症化しないならばコロナで就労を敬遠していた層が戻ってきやすい環境が整います。

一方、表層雪崩的な経済ですと今まで気前の良い使いっぷりだったものが萎みますので例えばフードデリバリーのような消費は厳しくなり、自分で取りに行く、あるいは作るという選択肢に代わるのが世の常です。このあたりの消費動向を見ていれば今回の好景気は筋力ある強い景気かどうか読み取れるでしょう。

私が最大の懸念をしているのは中国経済です。アメリカに上場している中国株の価値の減価ぶりが尋常ではない水準になっています。半値八掛け二割引という言葉があります。これを計算すると32%となり、概ね1/3になるということですが、中国株はまさにその言葉通りになっており、ひどいものは打一折(9割引き)の状態です。一部の特定銘柄だけならよいのですが、アリババなど一応健全とされる銘柄までここまで売り込まれると一般的には経済的破綻を引き起こす可能性があり、それが連鎖となりとどまるところを知らない状態になります。

中国はデカップリングどころか引き続きアメリカをはじめ世界中と密接な経済的つながりがあるのでここは極めて注意深く見守る必要があるとみています。習近平氏は経済音痴ですので彼がイデオロギーを貫くために無理をしている現在の状況が続けば2022年は衝撃的な状態も起こり得ます。

以上だけでもアメリカがポンポン利上げする状況にはまだ見えません。コロナという過去の事例が当てはまらない特殊な状況では誰も予見出来ず、パウエル氏も見誤ることはあるでしょう。パウエル氏は天才型ではなく間違いを犯しながら習得していくタイプです。今回の状況も過去に例がない事態だけに個人的にはまだ、利上げの想定をするのはやや早計ではないかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年12月16日の記事より転載させていただきました。

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