ウクライナ危機で独外交は正念場に

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ドイツのショルツ首相は14日、ロシア軍のウクライナ武力侵攻の危機が高まる中、ウクライナの首都キエフを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談、緊急時でのドイツ側のウクライナへの支援を伝達し、連帯を表明する。15日には、モスクワに飛びロシアのプーチン大統領と会談する予定だ。

ウクライナ危機の調停に乗り出すショルツ首相(2022年2月14日、ドイツ放送公式サイトから、写真はドイツ通信)

ウクライナ危機の解決を目指して欧米指導者とプーチン大統領との会談が行われてきたが、ショルツ首相のモスクワ訪問はひょっとしたら、ロシア軍のウクライナ侵攻直前の最後の外交となる可能性が出てきた。米情報機関筋は欧州側にロシア軍のウクライナ侵攻が「16日」に開始されると伝えているからだ。

ところで、米英仏ら同盟国がロシア軍の武力侵攻の危機に直面しているウクライナに対し、武器など軍事援助をしている中、欧州連合(EU)の盟主ドイツはウクライナに経済支援と共に5000個の軍事用ヘルメットを支援すると発表した時、ドイツでプロボクサー人生を過ごし、世界チャンピオンになったウクライナ出身の現キエフ市長ビタリ・クリチコ氏は、「なんということだ。ドイツは我々に次は枕でも送るつもりではないか」とドイツ側の支援を揶揄した。なお、在ドイツのウクライナのアンドリーイ・メルニク大使は、「わが国はドイツに1万2000個の対戦車ミサイルの供給を願っている」という。

それに対し、ドイツ政府は、「わが国は紛争地に軍事品を輸出したり、支援することは出来ない」と述べ、5000個ヘルメット支援を説明すると共に、「ドイツは過去、ウクライナへの経済支援では最大支援国だ」と強調した。ちなみに、ドイツは2014年以来、ウクライナに対し総額約20億ユーロ相当の経済支援をしてきた。

欧米諸国はドイツの事情に理解を示しているが、ここにきて、「なぜロシアの軍事脅威に瀕している国に軍事支援できないのか」と言った声がドイツ国内から聞かれ始めたのだ。以下、ドイツ放送のトーマス・フランケ記者の2月11日の記事からその声を拾った。

ドイツの外交は軍事的活動を排除し、軍事活動や武器供給は久しくタブーだった。例えば、16年間政権を運営してきたメルケル政権下では、ロシアや中国に対して関与することで独裁者や共産党政権を民主化に誘導する関与政策を進めてきた。しかし、その関与政策は期待した成果をもたらしていない。

野党「キリスト民主同盟」(CDU)のキーゼンヴェター連邦議員は、「ウクライナ危機はその実例だ。軍事的活動を制限したドイツの外交は相手国に利用されるだけだ」と受け取っている。

同議員は、「ドイツはウクライナへの武器供給を最初から排除すべきではない。ロシアと交渉する時、わが国は全ての可能性を排除すべきではない。すなわち、軍事的、経済的、政治的制裁のカードだ。軍事的制裁のカードを最初から排除していたならば、相手側を紛争解決への真剣な交渉に導くことができないからだ」というわけだ。古い諺にあるように、「平和を願うならば、戦争の準備をしなければならない」というわけだ。

ただし、ショルツ連立政権(社会民主党=SPD、緑の党、自由民主党=FDPの3党連立)は現時点では武器供給の選択肢を排除している。ウクライナに対しては、ヘルメットのほか、地雷撤去装置など非戦闘用の機材の提供を考えている。

SPDの議会グループの外交政策スポークスマン、ニルス・シュミット議員は、「紛争地への武器供給は今後ともできない」という。曰く、「ノルマンディー形式の対話が再開した時、ドイツがウクライナに武器を供給すれば、デエスカレーションの流れを損なう恐れが出てくる」からだ。

一方、「緑の党」出身の欧州議員セルゲイ・ラゴディンスキー氏は、「わが国は調停役を好むが、紛争側から真剣に受け取られるためにも、同盟国に軍事支援をする準備が出来ていることを明確にする必要がある。さもなければ、相手側に譲歩する宥和政策に終わる」と指摘している。

ラコディンスキー議員は、「加害者と被害者の状況が非常に明確であり、国際法の下で義務を負っている場合、または少なくとも脅迫された被害者を支援するオプションがある場合、武器の供給も許されるべきだ」と主張している。

ウクライナのドミトロ・クレーバー外相は、「平和を望むなら、あなたは強くなければならない。ロシアはウクライナの侵略者だ。そして、ロシアに外交を優先させるための唯一の効果的な戦略は抑止力だ」と明確に語っている。

ショルツ首相はモスクワでプーチン大統領に従来の宥和政策ではなく、明確なメッセージを伝えることができるだろうか。ウクライナ危機はドイツの今後の外交政策に大きな影響を与える正念場だろう。

独連邦議会の防衛委員会議長のシュトラック・ツィマーマン議員(FDP)はドイツ放送とのインタビューで、「ショルツ首相はプーチン大統領に、『ウクライナへの攻撃はヨーロッパ大陸への間接的な攻撃を意味する』とはっきりと伝えるべきだ」と強調している。

3党から成る初の連立政権を発足させたショルツ政権の連立協定には以下のような決意表明が明記されている。

「ドイツはヨーロッパと世界で強力なプレーヤーである必要がある。ドイツの外交政策の強みを復活させる時が来た。私たちの国際政策は価値に基づいており、ヨーロッパに組み込まれ志を同じくするパートナーと緊密に連携し、国際的なルール違反者に対して明確な態度を示す」


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年2月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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