ずっと前から思っていたのだが、ドイツ、というかヨーロッパでは雨の日でも傘をさしている人が日本に比べて少ない気がする。
その理由を自分なりに探ってみたら、2つのことわざにたどり着いた。
傘をささない人たち
日本から海外に移り住むことには、カルチャーショックが付きものだ。
私がドイツに来て受けたプチカルチャーショックの一つは、雨の日に傘をさしている人が、日本と比べて少ないことだ。
別に数えたわけではないのではっきりとは言えないが、日本だったら傘をさしているであろう状況でも、平然と傘を持たずに外を歩く人が多い気がする。
移住当初は「何じゃこりゃ!」と思っていたことも時間が経つと慣れるもので、ある日ハッと気づくと、自分も傘を持たない側の人になっていた。
今更になってドイツの人が傘をささない理由について考えてみたら、ピンとくるドイツ語のことわざが2つ見つかった。
「天気が悪いわけじゃない、服装が不適切なだけだ」
ドイツ語には、雨にまつわるこんなことわざがある。
つまり、濡れてしまうのは雨の日に合った服装をしていないからで、適切な服装で出かければ問題ない、ということだ。
濡れるのは己のせいだ、濡れたくなければ準備をせよという、なんともドイツらしい、ストイックなことわざである。
もっとも、ドイツには格好より機能性に優れた服を好む傾向があるので、納得できる。
でも、もともと雨対策がしっかりできている人たちも、傘は持たないのだろうか?雨の日も準備万端な人に聞いてみることにした。
濡れた傘を持ち歩くこと、手が塞がるのが嫌
知り合いやソーシャルメディアで呼びかけたところ、雨対策を徹底している人を2人見つけた。その1人が、フィリップだ。
フィリップは子供の頃から雨対策がバッチリだったの?
なので常に天候に合った服装をする、という習慣が染み付いているのかな。
今使っているお気に入りのレインウェアは?
実は今修理に出していて……
修理!
なんでも、撥水性が弱くなってきたので、修理に出しているのだそう。フィリップの雨具に対する考え方は、機能性の高い良いものを買って、大事に使うことなので、メンテナンスや修理は欠かさないとのこと。徹底している。
年に2度、洗濯機に撥水剤を入れて雨具を防水加工をしてるよ。前の洗濯機には撥水加工専用のモードがあったんだけど、新しく買ったのには無いんだ。失敗したな……
そんな洗濯機の存在さえ知らなかったよ。
ところで、傘はささないの?
あと、手が塞がるのもちょっと不便だしね。傘をさす姿はとても優雅だと思うんだけど……レインジャケットを着てフードを被っちゃう方が楽かな。
なるほど、傘は数ある雨具の中の一つとして、状況によって使い分けてるんだね。
冬はレインジャケットの下にダウンベストやダウンコートを着れば十分暖かいから、年中使ってるよ。
合理的なフィリップには、傘よりも優秀なレインコートの方が状況に合っていることが多いようだ。
傘以外の雨具を常備している
もう1人、万全な雨対策を徹底している人を見つけた。レギーナだ。
自転車通勤が多い彼女は、自転車のパニアバッグにいつも「雨具セット」を入れているそうだ。
おお、雨具セットに傘が入ってる!折り畳み傘も使うことはあるの?
雨の中を歩くことがあれば使うし、旅行に行く時は絶対持っていくよ。
でも基本的に自転車移動が多いから、身に付けられる雨具が一番便利かな。万が一足が濡れても良いように、職場にも予備の靴下を一足常備してるよ。
特に高価な雨具にはこだわらないけど、このセットを携帯していることで安心感を得られてるんだと思う。
フィリップと同じく、レギーナも雨の加減や状況に合わせて傘や雨具を使い分けているようだった。
「別に砂糖でできてるわけじゃないし」
かと言って、ヨーロッパに住む人皆がフィリップやレギーナ並の対策をしているわけではない。特に雨具を準備せず、雨に打たれながら歩いている人だって沢山いる。
そんな人たちの行動に当てはまることわざがある。
つまり、砂糖のように水に溶けるわけじゃないから、少しぐらい濡れたって大丈夫さ、ということだ。
アイルランド出身のスーザンもこのタイプだ。
アイルランドは雨が多いことで有名だけど、ドイツに来る前はどんな雨対策をしてたの?
全くしてなかったよ。
アイルランド人は、ドイツ人と比べて身だしなみにこだわる人が多いので、街中で筋金入りのレインウェアを着ることに抵抗があるみたい。私もドイツに来るまでレインコート持ってなかったし……
じゃあ傘は使ってた?
傘は邪魔になるし、好きじゃないから使ってなかったな。そりゃ濡れたけど、そんなもんかなと特に気にもしてなかったよ。
北ドイツのブレーメン出身の夫も同じく、少しぐらいの雨なら特に雨具を準備することなく出かけていく。
彼の行動をずっと不思議に思っていたのだが、「人は砂糖でできていない」と言うことわざを聞いて納得した。夫は「砂糖でできていない」派の人間なのだ。
そしてこのことわざを検索していたら、ブレーメンと同じく雨の多い港町、ハンブルクのご当地グッズを見つけた。
傘を持たない行為には、「別に砂糖でできてるわけではない」「雨になんか負けない」という意地やプライドも現れているようだった。
傘だと空が見えない
雨の日に合った服装をする、もしくは少し濡れても気にしない、という雨に対する姿勢は、ドイツだけではなく北ヨーロッパの所々でも見られる。もちろん、ドイツより北にある北欧の国々も例外ではない。
せっかくなので、ノルウェー人のマリアとデンマーク人のメデにも話を聞いてみた。
自転車大国デンマーク出身のメデは、あまり傘を使わないそう。
もっぱら自転車移動だから、傘はあんまり持ち歩かないかな。今日は外で過ごす時間が長い時はレインコートを使うことの方が多いよ。
雨にぬれるのって、抵抗はある?
あまり気にしないかな。雨で化粧が落ちるのは嫌だけど、雨の日のジョギングなんか好きだよ。雨の中を走ってるとスッキリするし、なんかカッコよくない?
雨が降ってると家に居たくなっちゃうけど、あえて雨を楽しむのもいいね!
一方マリアは、世界でも最も雨の日が多い地域の一つである、ノルウェー西部出身だ。西部地方にあるノルウェーの第二都市であるベルゲンでは、年間で平均して約230日も雨が降るとか。
ドイツ語の「天気が悪いわけじゃない、服装が不適切なだけだ」と「人は砂糖でできていない」みたいなことわざは、ノルウェーにもあるの?
「天気が悪いわけじゃない、服装が不適切なだけだ」はそっくりそのまま存在するよ。「別に砂糖でできてるわけじゃないし」は聞いたことないけど、面白いね。
ノルウェー西部って雨が多いって聞くけど、本当なの?
ベルゲンで大学に通っていた頃、85日間ぶっ続けで雨が降ったことがあったんだけど、さすがに心が折れたよ!あの時、卒業したら絶対引っ越すって決めたな。
引越しを迫られるぐらいの雨だったんだね。雨が降る時は、傘はさすの?
街中で短距離を移動する時はさすこともあるけど、レインコートの方が好き。私は田舎育ちからかも知れないけど、なんだか傘って自然と自分の間にバリアを張ってるというか、自然を拒否してるみたいであんまり好んで使わないかな。
それは全くなかった発想だ!
とにかく雨がよく降るから、無駄な抵抗……って感じかな。あと、傘をさすと空が見えないしね。
答えが素敵すぎて何にも言えない!
当たり前だけど、人それぞれ
「人は砂糖でできていない」と「天気が悪いわけじゃない、服装が不適切なだけだ」の2つのことわざで、ドイツ人の雨に対する姿勢について少し納得できた気がした。
今回話を聞いた人に共通していたのが、昔と比べて最近は機能的でスタイリッシュなレイングッズが増えたので、ちょっとおしゃれをしなくてはいけない場合でも様になる、ということだった。
私もドイツに来て「砂糖でできてない」度がアップしたが、もう少し雨具を揃えていこうと思う。