ポイントカードや交通系ICカードなど、日本のIT活用はある時期まで世界最先端だった。ベンチャー投資家の山本康正さんは「米国よりもデータを多く集積していた時期があったが、活用できず、もったいない状態が続いていた。その結果、楽天やヤフーといった大手EC事業者とアマゾンでは決定的な違いが生まれてしまった」という――。
※本稿は、山本康正『2030年に勝ち残る日本企業』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
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アマゾンがEC事業者からテクノロジー企業に変貌できたワケ
データを解析するデータサイエンティストや、レコメンデーションを行なうためのAIを開発できるエンジニアが少ないのが、日本の小売業界でデータ活用が遅れている理由の一つです。
アマゾンも、もとは単なるEC事業者でしたが、AWSというクラウドサービスを開発したことでテクノロジー企業に変貌しました。現在ではECよりもクラウドサービス、つまりテクノロジー領域での利益が多くなっています。
データの分析や活用はもちろん、アレクサ(Alexa)という自前のAIエンジンも開発しており、AIに強いエンジニアを多く抱えています。その結果、ECにおいても肌理細やかで精緻な分析ができ、最適なサービスを提供できています。
一方で、日本のEC大手である楽天グループやヤフーは、データはある程度持っているのですが、それを料理する「包丁」である自前のAIの開発が急務です。
独自のAI技術を持たない楽天の打開策
楽天のECは、すべてのショップを自社で管理するアマゾンのようなプラットフォームとは異なり、いわゆるモール型です。楽天が提供するのはあくまで場だけであり、売上や在庫などのデータの管理は、当初は、モールに出店している各事業者が行なうというスタンスでした。楽天カードの購買データは取得できるとはいえ、購入した商品などの詳細なデータは得ることができなかったため、アマゾンのような精緻なレコメンデーションができずにいたのです。
ただし楽天は、最近はデータを積極的に活用していこうという姿勢が見られます。モバイル事業に参入したのは、まさにその証と言えるでしょう。世界初となる、完全仮想化クラウド型のモバイルネットワークの構築がポイントです。クラウドを使うことで、従来のキャリアとは異なり、多くの個人データを安価に取得することが可能になります。
そして注目すべきは、モバイル事業への参入において、インドのコングロマリット企業、リライアンス・インダストリーズ、ならびに同グループ傘下の通信会社、リライアンス・ジオ・インフォコムの取り組みを参考にしていることです。
彼らのビジネスモデルは、モバイルから得たデータを、ECをはじめとする関連ビジネスに展開していくというものです。同じように多様なサービスを展開している楽天にとって大いに参考になるでしょう。同グループから優秀なエンジニアも招いているようですので、今後の動向に注目しています。
資本の乏しい小売業者はどうするべきか
楽天モバイルが安価で充実したサービスを設定しているのは、モバイル事業自体で収益を上げることよりも、データ活用のエコシステムを作ることが主目的だからでしょう。
一方、ヤフーは、楽天とは異なるアプローチでデータの取得を進めています。それが、PayPayです。PayPayで得た決済データから、個々の顧客に最適なレコメンデーションを、グループ企業となったLINEなどを通して行なっていくと、私は見ています。
楽天やヤフーのように資金が豊富というわけではなく、エンジニアやプラットフォームなども持っていない企業にとっては、これからデータを収集し、活用する体制を整備しようとしたところで、時間もコストもかかります。そうした小売業者は、生き残るために、先進的なテクノロジーベンチャーと手を組むか、買収を通じて、テクノロジーやシステムを取り入れていくことが必要でしょう。
集積したデータの活用を阻んでいたいくつもの壁
日本企業はデータ活用が遅れているという話をしてきましたが、データの集積自体は最先端だった時期があります。
日本人には馴染み深いポイントカードは世界的に見ると稀なサービスですし、交通系ICカードはソニーが開発したもので、1997年に香港で初めて採用され、日本で採用された2000年代前半頃は世界でも最先端の情報が集まっていました。
しかし、このデータを交通以外のサービスに使うというアイデアはなかなか実現しませんでした。せっかくの技術を現在の本業以外に使えないか考える機会が少なかったのです。
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QRコードは、トヨタ系列のデンソーによって、部品生産の効率化のために作られたのですが、一般的な決済用途での活用は、のちに中国から普及しました。それと似ています。
ポイントカードも、カードだけでなく、デジタル化することによって、データの活用が進むはずだったのですが、加盟企業全社の了承がなければデータを活用することが難しいことや、消費者のプライバシーに関する風評被害、個人情報保護法(今は改正されています)に関する懸念、データを貯蔵するクラウドや解析するAIなどの技術がなかったことから、先端のテクノロジー企業に比べてデータ活用が進んでいませんでした。米国よりもデータが多くあった時期があったのですが、活用できておらず、もったいない状態だったのです。