チェーンの飲食店に入ったとき、タッチパネルの端末で注文や待ち登録を受け付けているところも、今や珍しくない。以前であれば、そこに専用端末が使われていたが、ここ数年ではタブレット端末が目立つようになった。さらに、この1年ほどで急拡大しているフードデリバリー代行サービスでも、店舗側で使う端末としてタブレット端末が広まっている。
こうした業務端末として「Androidタブレット」が活用されることが増えているのだそうだ。
同時にニーズが高まっているのが、そうしたタブレット端末の機能やアプリを各種用途に合わせてカスタマイズするためのサービス。そして、カスタマイズされた端末を現場でスムーズに導入できる状態で出荷するためのキッティングサービスだ。
Androidタブレットで大きなシェアを持つLenovoでは、Androidの標準的な開発環境・機能に加え、同社製タブレットの詳細機能の制御が可能なAPIコレクション「CSDK(Commercial Software Development Kit)」を提供している。
また、従来より業務端末のキッティングサービスを提供してきたテックウインドでは今年7月、このCSDKによるLenovoタブレットの「APIカスタマイズサービス」を日本で初めて提供開始した。
業務端末におけるAndroidタブレットの活用状況や、APIカスタマイズサービスの詳細について、レノボジャパン合同会社の喜多昭彦氏(コマーシャル事業企画本部ソリューション企画部マネジャー)とテックウインド株式会社の下村博章氏(営業本部PM1部プロダクトマネージャー)に話を聞いた。
法人向けAndroidタブレットはなぜ売れている?前年比1.8倍の大幅成長、今やiPadとシェアを二分
レノボの喜多氏によると、法人向けAndroidタブレットの市場は、実は大きく伸びているのだそうだ。調査会社によれば、特に2020年は前年から需要が予測を大きく上回り、出荷台数が約1.8倍に急増した。その要因として大きかったのは、コロナ禍の影響だ。ひとつには、テレワークがある。また、コロナ禍によりフードデリバリー代行サービスが一気に普及したことも大きかった。
「フードデリバリーで店舗が利用する端末としては、基本的に多くのサービスでAndroidタブレット、それもLenovoのタブレットをお使いいただいています。それが大きな起爆剤となりました。」(喜多氏)
これは一過性のものではなく、今後も需要はそのまま維持されるだろうと喜多氏はみている。「レストランなどでタブレット端末が使われているのを見て、自分の店舗でも導入したいという引き合いが大分増えています。これからもさらに活性化すると思います」。
また、タブレット端末というとiOSのiPadの印象も強い。法人向けでも、2019年までは8割前後がiOSという状態だった。しかし、2020年はAndroidタブレットが大きく伸び、iOSとAndroidでほぼ半々になったという。
この理由について喜多氏は、Androidがコストパフォーマンスに優れている点を挙げる。「iOSの場合ですと、3万円ぐらいからのスタートになります。Lenovoでは、スタンダードクラスで、だいたい1万円台後半から提供できるモデルを多数ご用意しています。コストパフォーマンス以外にも、以前はiOSを使われていたお客様が『あれっ、Androidって意外に使えるよね』と再評価されたことも大きなポイントと思っています」。
このように伸びている法人向けAndroidタブレット市場で、Lenovoが4期連続シェア1位となっていることも喜多氏は強調した。「特に2021年度の第1四半期は本当に大きなシェアをいただいたことで、法人向けとして市場をリードすべき立場になり、改めて身の引き締まる思い」と喜多氏は胸を張る。
「価格面にメリットがありつつ、製品もしっかりしていて、1000台や2000台など安定して供給できる在庫があること、さらにパートナー様も含むサポート体制が大きなポイントかと思っています。」(喜多氏)
あのお店の「配膳ロボット」にもAndroidタブレットが!業務端末としてのLenovoタブレット最新導入事例
業務端末としてLenovoのAndroidタブレットが導入された事例をいくつか聞いた。喜多氏によると、試験的に導入していたものが本格的に導入されたり、本格導入されていたものがやはり便利だということでボリュームが増えてきたりしているのが、ここ2年での変化だという。
テーブルトップ端末、デリバリー代行サービス
飲食店で注文に使われてるテーブルトップ端末は、以前からタブレット端末の利用が多い分野だ。コロナ禍で飲食店に逆風が吹いたが、「2~3年前に導入したお客様がこれから入れ替えていこうという動きがあります。また、ワクチン接種が進んで実店舗に活気が戻ってくるのを期待しています」と喜多氏は言う。
デリバリー代行サービスも、前述のとおり、タブレット端末が急増した分野だ。「皆さん、そして私も、フードデリバリーが便利なものとして慣れてきました。これも引き続き盛んに使われていくと思っています」(喜多氏)。
塾の学習端末、ホテルの客室用端末
学習端末は、2020年度に急増して、現在ではちょっと落ち着いてきたという。
ホテルの客室用端末も、「昨年はコロナ禍による外出自粛や国際的なスポーツイベント延期により業界としても大変なご苦労の絶えない1年でしたが、今年竣工のホテルでは、新しい取り組みとして導入いただくケースも増えてきました」と喜多氏は言う。
配膳ロボット
先端的な事例としては、飲食店で料理を運ぶ「配膳ロボット」において、Lenovoのタブレットがコントローラーとして使われているという。この配膳ロボットは、回転寿司の大手チェーンや和食レストランチェーンの一部店舗で導入されている。
「注文に加えて、配膳でも自動化が進んでいるチェーンで、タブレットの利用が進んできているという新しい使い方だと言えます。」(喜多氏)
Androidタブレットを最強の業務端末にするAPI「CSDK」とは?MDMやEMMを使わずに“専用端末っぽく”
こうした業務端末として汎用のタブレット端末を使うにあたっては、例えば店頭でのいたずら防止のために電源ボタンでシャットダウンできなくするなど、OSの深い部分でのカスタマイズが求められる。
そのためにLenovoが全タブレット端末に最初から組み込んでいるのが「CSDK(Commercianl Software Development Kit)」だ。AndroidのLinuxカーネルの上で、Androidランタイムおよび各種アプリケーションフレームワークと同じレイヤーに位置し、システムのカスタマイズのためのAPI群をアプリケーションに提供する。
「Wi-Fiの接続を無効化したり、端末を再起動したり電源を落としたりする、といったものは、Androidのアプリでは標準的には作れません。root権限がないと作れないのですが、root権限を渡してしまうとタブレットそのものも壊しかねないので、安全にお使いいただくためにCSDKとしてご提供しています。」(喜多氏)
CSDKで提供されるAPIは140個弱で、以下のようなカテゴリーに分けられている。
- デバイス管理:電源キーの無効や、デバイス再起動など
- アプリ管理:アプリのインストール禁止や、特定アプリへのデバイスオーナー設定など
- 接続管理:Wi-Fiの禁止や、Bluetoothの禁止、APN設定の禁止、SIMカードやSDカードの無効など
- KIOSKモード:ステータスバーの非表示や、全画面表示など
- カスタムUI:起動時のロゴ設定など
- 環境設定:システム内蔵時間の設定や、スリープの禁止など
- 各種設定:セーフモードの無効や、USBデバッグモード設定の禁止など
全般的に機能を制限するものが多いが、独特の機能として「KIOSKモード」の設定もある。これはステータスバーなどを非表示にして“専用端末っぽく”できるものだ。そのほか、起動ロゴをユーザー企業のものに変更するといったこともできる。
従来もこうした機能は、MDM(Mobile Device Management)やEMM(Enterprise Mobility Management)といったモバイル機器管理のシステムを使うことによって、集中管理で実現できた。「ただし、MDMやEMMは、セキュリティ強化や端末管理を含め法人利用では有用である反面、ユーザーは利用期間中、台数に応じた継続的な費用負担も考慮する必要がある」と喜多氏は言う。
それに対して、CSDKは最初からタブレットに組み込まれており、ライセンスも無償で開発会社に提供している。それによってタブレット端末の普及を図る狙いだ。
CSDKを利用するには、Lenovo本社とNDA(秘密保持契約)などを結んでライセンスキーを発行してもらう必要がある。そのうえで、CSDKをその名のとおりSDKとして「Android Studio」などから利用してアプリを開発する仕組みだ。
「CSDKは、アプリを一定の品質で開発できるお客様を中心に裏メニューのようなかたちでご提供していました」と喜多氏は説明する。「基本的には、何も指示しなければ動かないし、ほかに影響しないようなモジュールになっています」。
「CSDK」利用のハードルを「APIカスタマイズサービス」で解消!端末1台から対応、小規模チェーンで店も導入可能に
CSDKによって、OSの深い部分でのタブレットのカスタマイズは可能になっているが、あくまでAPIのため、利用するにはアプリケーションを開発する必要がある。また、前述のようにLenovo本社との秘密保持契約の締結が必要となるほか、リファレンスなどのドキュメントも全て英語で提供されており、利用するには相応の開発体制や導入規模があることが前提となってくる。
そこで登場したのが、テックウインドの「APIカスタマイズサービス」だ。
テックウインドは、企業に業務用Androidタブレットを販売すると同時に、タブレットのキッティングサービスを提供している。これは、導入企業のニーズに合わせたAndroidタブレットの各種設定やアプリのインストール、ブックマークや連絡先のインポートなどをテックウインドが行ったうえで製品を納入するというサービスだ。細かい部分としては、化粧箱への梱包や、本体へのラベル貼り、ユーザー企業で用意したマニュアルの同梱なども行っている。
キッティングを含む企業への業務用タブレット販売の中で、細かいタブレットの設定がなかなかできないという顧客の声があったという。「それを実現するために、今回、CSDKを活用してAPIカスタマイズサービスを始めました」とテックウインドの下村氏は説明する。
APIカスタマイズサービスにより、Androidタブレットのカスタマイズがキッティングの一環としてできることになり、業務用端末としてのAndroidタブレットの普及に弾みがつくことも予想される。
例えば、大手以外の飲食店チェーンだ。注文端末などに専用端末を入れるには、金額も台数もかなり大きくなって、小規模な事業者では手が出せない。また、そもそもどうやって用意すればいいか分からないという面もあった。「そういったお客様のご要望にお応えするサービスになっています。1台から対応可能なので、まずはお問い合わせいただければと思います。業務端末でお客様のデジタルトランスフォーメーション促進のお手伝いしていきたいと思っています」(下村氏)。
このAPIカスタマイズサービスを提供するために、テックウインドでは、CSDKを利用してタブレットをカスタマイズするための独自のアプリケーションを開発した。導入企業にヒアリングしたうえで、カスタマイズの設定を決め、大量のタブレット端末に流し込めるようになっている。CSDKでカスタマイズできる項目は、ほぼカバーしているという(「APIカスタマイズサービス」のページに、カスタマイズできる全126項目がリストアップされている)。
また、業務用Androidタブレットは、エンドユーザーにあたる導入企業に直接販売するだけではなく、SIerやデバロッパー経由で販売することも多い。SIerやデベロッパーの場合は、契約を結んだうえで、前述のテックウインドが開発したカスタマイズ用アプリケーションを渡して運用するということも可能になっている。
タブレット端末の販売やキッティングを行う会社は何社かある。その中でテックウインドは、ハードウェアの販売から、CSDKによるカスタマイズ、キッティングまで、ワンストップで提供できることを強みとしている。
「Lenovoのタブレットを取り扱っている代理店は数多くある中で、弊社では国内で初めてCSDKによるカスタマイズサービスをご提供します。Lenovoのタブレットを調達してカスタマイズするニーズには、弊社だけが対応できると思います。」(下村氏)
APIカスタマイズサービスは7月に始まったばかりだ。今後の展望について下村氏は「このAPIカスタマイズサービスを、まず弊社のLenovo様ビジネスの柱にしていきたいと思っていますし、弊社のビジネスの柱になるようなかたちに育てていきたいと思っております」と抱負を述べた。
(協力:テックウインド株式会社)