【福田昭のセミコン業界最前線】ニアラインの復活に期待がかかる2023年のHDD市場

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 ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は、2023年1月25日に2022年度の活動報告会をオンラインで開催した。活動報告会は、ストレージデバイスの業界動向に関する3件の講演と、3つの委員会による活動報告で実施された。

 ストレージデバイスの業界動向に関する講演では、市場調査会社テクノ・システム・リサーチ(TSR)によるストレージ市場を展望した講演「Updated Storage(HDD and SSD)Market Outlook」が非常に参考になった。そこで本レポートでは、HDD市場を中心に講演の概要をご報告する。講演者はTSRでアナリストをつとめる楠本一博氏である。

 なお、本活動報告会の講演内容は報道関係者を含めて録画や配布などが禁止されている。本レポートに掲載した画像(講演スライド)は、講演者である楠本氏と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。また現在は景気後退の影響によって市場の数値が日々、変化しつつある。講演のデータはすべて2023年1月時点のものであることに留意されたい。

2022年のHDD出荷台数は前年比34%減と約3分の2に減少

 始めはHDD市場(世界)を概観する。2021年の実績と2022年の推定(第3四半期までは実績、第4四半期は推定)、2023年の予測である。項目は出荷台数、出荷金額、平均単価(ASP)、総出荷記憶容量、ドライブ1台当たりの平均記憶容量となっている。

HDD市場(世界市場)の概要。上から2021年実績、2022年推定、2023年予測。左から出荷台数(100万台)、出荷金額(100万ドル)、平均単価(ドル)、総出荷記憶容量(エクサバイト:EB)、ドライブ1台当たりの平均記憶容量(ギガバイト:GB)。出典:テクノ・システム・リサーチ(2023年1月時点の推定と予測)

 近年のHDD市場は出荷台数と出荷金額が減少傾向、平均単価と総出荷記憶容量、1台当たりの平均記憶容量は上昇あるいは増加傾向にある。2022年推定は総出荷記憶容量が減少したことを除くと、近年と類似の傾向が続いた。

 2022年の出荷台数と出荷金額は大幅に落ち込んだ。出荷台数は前年比33.8%減の1億7,161万台、出荷金額は同22.9%減の182億5,100万ドルである。平均単価は前年比16.4%増の106.4ドル、総出荷記憶容量は同13.6%減の1,162.2EB、ドライブ1台当たりの平均記憶容量は同30.5%増の6,772.3GBとなった。

 今年(2023年)のHDD市場予測は、出荷台数が前年比11.7%減の1億5,150万台、出荷金額が同1.0%減の180億7,600万ドル、平均単価が同12.3%増の119.3ドル、総出荷記憶容量が16.6%増の1,354.9EB、平均記憶容量が同32.1%増の8,943.1GBである。

HDDの出荷台数と出荷金額、平均単価の推移と予測(1990年~2027年)。2021年までは実績、2022年は推定、2023年以降は予測。出荷台数は2023年まで9年連続で減少が続くと予測する。出典:テクノ・システム・リサーチ(2023年1月時点の推定と予測)

唯一の成長分野「ニアライン」の台数が2022年第3四半期に急減

 2020年~2023年のHDD出荷台数を四半期ごとにざっくりと見ていこう。製品分野は「エンタープライズ(Enterprise)」、「ニアライン(NL)」、「3.5インチATA」、「2.5インチモバイル」の4つである。

 2020年前半はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染が世界的に拡大し、PC生産工場とストレージ(HDDおよびSSD)生産工場の稼働率が著しく低下した。このため、2020年は第2四半期を中心に出荷台数が前期比でかなり落ち込んだ。逆に2020年後半は工場の稼働率が前年(2019年)に近い水準まで回復したことから、2020年第4四半期を中心に出荷台数が前期比で増加した。

 2021年は工場稼働率の回復とイベントのオンライン化、在宅勤務の普及などによって「エンタープライズ(Enterprise)」、「ニアライン(NL)」、「3.5インチATA」の出荷台数が前年比でそれぞれ3.5%増、24.3%増、3.3%増と拡大した。全体の出荷金額は前年比16.8%増と2桁成長した。台数と金額ともに漸減傾向が続くHDD市場では、これらはかなり異例のことだ。

 2022年は「エンタープライズ(Enterprise)」と「3.5インチATA」の出荷台数が前年第4四半期から前期比で減少に転じたことに加え、2022年第3四半期に「ニアライン(NL)」の出荷台数が前期比で急激に落ち込んだ。全体では前年比33.8%減と大幅な台数減となった。

 2023年は「ニアライン(NL)」の出荷台数が後半に向けて回復し、通年では前年を上回ると予測する。「エンタープライズ(Enterprise)」と「3.5インチATA」、「2.5インチモバイル」は出荷台数の減少が続く。全体では前年比11.7%減となり、2010年代以降と同じ傾向に戻る。

HDDの四半期別出荷台数の推移(2020年第1四半期~2023年第4四半期)。2022年第3四半期までは実績、同年第4四半期は推定、2023年第1四半期以降は予測。出典:テクノ・システム・リサーチ(2023年1月時点の推定と予測)

2023年は「ニアライン」が成長軌道に戻る

 2023年の製品分野別の予測値をもう少し詳しく説明しよう。まずは「エンタープライズ(ミッションクリティカル)」HDDである。出荷台数は前年比19.4%減の680万台、出荷金額は同19.8%減の7億5,100万ドル、平均単価(ASP)は同0.41%減の110.44ドル、総出荷記憶容量は同18.8%減の9.32EB、ドライブ1台当たりの平均記憶容量は同0.7%増の1,370G Bと予測する。

 GB当たりのコストは前年比1.2%減の0.081ドルとみる。2017年の実績が0.161ドルだったので、6年で半減することになる。

 続いて「ニアライン(NL)」HDDである。2022年の時点(推定)で、製品分野別ではニアラインが出荷台数と出荷金額、総出荷記憶容量、ドライブ1台当たりの平均記憶容量で最も大きい。さらに平均単価は最も高く、GB当たりのコストは最も低い。

 2023年の出荷台数は前年比8.5%増の6,720万台、出荷金額は同10.4%増の133億6,600万ドル、平均単価は同1.7%増の198.9ドル、総出荷記憶容量は同26.6%増の1135.68EB、ドライブ1台当たりの平均記憶容量は同16.6%増の16,900GBと予測する。GB当たりのコストは前年比7.7%減の0.012ドルとみる。2022年の同コスト(推定)は0.013ドル、2017年の同コスト(実績)は0.026ドルだったので、5年で半減した。

 次は「3.5インチATA」HDDである。2023年の出荷台数は前年比17.4%減の4,600万台、出荷金額は同18.0%減の25億7,600万ドル、平均単価は同0.74%減の56.00ドル、総出荷記憶容量は同12.7%減の、153.18EB、ドライブ1台当たりの平均記憶容量は同5.7%増の3,330GBと予測する。GB当たりのコストは前年比5.6%減の0.017ドルとみる。

 最後は「2.5インチモバイル」HDDである。2023年の出荷台数予測は前年比30.9%減の3,150万台と大幅減が続く。2020年の出荷台数実績は1億96万台だったので、わずか3年で3割近くまで減少することになる。

 2023年の出荷金額は前年比33.2%減の13億8,300万ドル、平均単価は同3.3%減の43.90ドル、総出荷記憶容量は同26.8%減の56.70EB、ドライブ1台当たりの平均記憶容量は同5.9%増の1,800GB、GB当たりのコストは同11.1%減の0.024ドルと予測する。

HDD市場(通年)の推移(製品分野別、2016年~2027年)。2021年までは実績、2022年は推定、2023年以降は予測。出典:テクノ・システム・リサーチ(2023年1月時点の推定と予測)

2022年のPC出荷台数はデスクトップが健闘

 楠本氏の講演では、PCの四半期別出荷台数についてもふれていた。2022年のPC出荷台数は前年比18.6%減の2億7,713万台と推定した。PCの出荷台数は2019年~2021年に3年連続で増加したものの、2022年は一転して2桁減となった。2022年の内訳はデスクトップPCが前年比3.1%減の7,790万台、ノートPCが同23.4%減の1億9,923万台である。

 デスクトップPCは2022年第1四半期と第2四半期が前年同期比で微減、第3四半期は微増となった。第4四半期は微減と推定した。ノートPCは2022年第1四半期から第4四半期まで、前年を下回った。しかも通常の季節要因(第1四半期から第4四半期に向けて増加する)とは異なり、第2四半期から第4四半期まで前期比でマイナスとなった。ノートPCの不調さが際立つ。

 2023年のPC出荷台数は前年比4.4%減の2億6,500万台になると予測する。内訳はデスクトップPCが前年比3.7%減の7,500万台、ノートPCが同1.2%減の1億9,000万台となる。

PCの四半期別出荷台数の推移(2020年第1四半期~2023年第4四半期)。2022年第3四半期までは実績、同年第4四半期は推定、2023年第1四半期以降は予測。下側の図表は2022年第3四半期のPCベンダー別出荷台数実績。出典:テクノ・システム・リサーチ(2023年1月時点の推定と予測)

PCの標準搭載ストレージはSSDに移行

 続いてPCが標準搭載するストレージの動向である。2022年にデスクトップPCが標準搭載したHDDの台数は1,090万台(推定値)で、デスクトップPC全体(サーバー向けを除く、7,700万台)の15.6%とかなり少ない。前年の24.2%から、8.6ポイント低下した。

 デスクトップPCが標準搭載したHDDには外形寸法の異なる「3.5インチ型」と「2.5インチ型」がある。「3.5インチ型」の台数は910万台、「2.5インチ型」の台数は180万台で、搭載率ではそれぞれ13.0%、2.6%となる。

 2022年にノートPCが標準搭載したHDDの台数(推定値)は1,540万台である。ノートPCの出荷台数に占める割合は7.7%と1割に満たない。搭載率は前年の13.1%から、5.4ポイント低下した。

 また2022年に「3.5インチATA」HDDの出荷台数(推定値)は5,569万台だったので、PC向けの割合は16.3%とかなり低い。「3.5インチATA」HDDの主要な応用分野はデスクトップPCではなくなったことが伺える。

 2022年に「2.5インチモバイル」HDDの出荷台数(推定値)は4,556万台だった。PC向けの出荷はデスクトップ向けが180万台、ノート向けが1,540万台だったので、合計すると1,720万台になる。「2.5インチモバイル」に占めるPC向けの割合は37.6%を占める。「2.5インチモバイル」HDDでは、PC向けがまだ主力であることが分かる。

PCの標準搭載ストレージの出荷動向(2016年~2027年)。2016年~2021年は実績、2022年は推定、2023年以降は予測。出典:テクノ・システム・リサーチ(2023年1月時点の推定と予測)

 次回はSSD市場を中心に講演の概要をご報告する予定である。ご期待されたい。

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