ディズニー(Disney)は昨年12月、動画配信サービス「ディズニープラス(Disney+)」の広告付きプランを公開した。
ただし、利用可能な広告機能はごく基本的なものに限られる。同じくディズニーが運営するHuluでは、特定のオーディエンスに対するターゲティング広告の配信も可能だが、ディズニープラスの広告付きプランでは利用できない。しかし、それも過去の話となりそうだ。
Huluの広告商品とサービスを全面解禁予定
ディズニーアドバタイジング(Disney Advertising)のプレジデントを務めるリタ・フェロー氏は、1月25日に開催された同社主催の広告主向けイベント「テック&データショーケース」にさきがけてインタビュー取材に応じ、「4月中にHuluのターゲティング広告の一部をディズニープラスに導入する」と表明した。7月にはHuluの「広告商品とサービスを全面解禁」し、同社の動画配信サービス全体で各種の広告機能を本格展開する計画という。
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ディズニープラスに導入する具体的なターゲティング機能について問われたフェロー氏は、「年齢や性別によるターゲティング、あるいはジオターゲティングなど、基本的な機能を予定している。7月にはすべてのターゲティング広告を解禁したい」と回答している。7月に提供を開始する広範なターゲティングには、ディズニーセレクト(Disney Select)が提供する2000件のオーディエンスセグメントも含まれる。ディズニーセレクトはディズニーが運用するファーストパーティデータプラットフォームで、米国内でディズニーのメディア資産にアクセスする2億3500万人の月間ユニークビジターに加え、1億を超える米国の世帯IDを保有している。
あるエージェンシー幹部はこう語る。「おそらく、ディズニーにとってターゲティングの充実は重要な意味を持つ。というのも、単なるP2プラス(2歳以上という非常に大雑把なオーディエンスセグメント)で広告を販売するよりも、よほど効果的に広告在庫をマネタイズできるからだ。いまのままでは無駄も多い。ターゲティングの選択肢を広げることで、広告在庫の価値は間違いなく高まるだろう。我々にとっては、ほかの動画配信サービスですでに利用可能な広告機能を、ディズニープラスでも利用できることが重要だ」。
フェロー氏によると、ディズニーは今年中に達成する目標として、広告販売の50%の自動化をめざしており、これに伴い、バックエンドのアドテク運用の一元化を推し進めている。Huluの広告商品やサービスをディズニープラスに広げる計画もこの取り組みの一環という。「現在の達成度は35%だ。そしてこれはHuluの広告商品とサービスを全面統合する以前の数字だ」。
テコ入れの効果は顕著
動画配信サービスのアドテク拡張を支えるのがディズニーアドサーバー(Disney Ad Server:DAS)だ。もとをたどれば、ディズニーが2019年にHuluの全経営権を掌握した際、ともに取得したアドサーバーに由来する。ディズニー・メディア・アンド・エンターテインメント・ディストリビューション(Disney Media & Entertainment Distribution)でCTOを務めるアーロン・ラバージ氏によると、米国におけるHuluおよびディズニープラスの広告プラットフォームは、すでに100%このアドサーバーで動いているという。「今後1年をかけて、ディズニーが運用するアドレサブルなプラットフォームのすべてで、DASの採用を進める考えだ」。
「DASは我々のプラットフォームの心臓部だ」とラバージ氏は話す。そしてDASを補完するのが直販広告、プログラマティック広告、セルフサービス広告のバイイングを最適化するイールド・オプティマイズド・デリバリー・アロケーション(Yield Optimized Delivery Allocation:YODA)と、ディズニーの広告在庫をプログラマティックに販売するディズニー・リアルタイム・アドエクスチェンジ(Disney Real-time Ad Exchange:DRAX)だ(もちろん、ふたつのアドテク製品にスターウォーズとマーヴェルのキャラクターの名前がついているのは偶然ではない)。
さらにラバージ氏は「ディズニー全体の広告配信に対応するため、テクノロジープラットフォームに大きな投資をおこなってきた」と語った。
一方、バックエンドテクノロジーは、バックエンドの名の通り、一般的には舞台裏の作業で、表からはうかがい知れない。しかし、別のエージェンシー幹部によると、テコ入れの効果は顕著だという。
「彼らがこの2年で進めてきた大きな取り組みは、昨年1年、さらに昨年から今年にかけての3ヶ月、特に運用体制の強化と異種データの統合という側面で、加速度的に進展してきた」と、このエージェンシー幹部は話す。特に、広告在庫の供給プールから、特定のオーディエンスを探し出すプロセスを合理化できるようになったことが大きいという。
「視聴率の未達問題はない」
この能力は、ディズニープラスの広告付きプランの需給バランスを管理するのに有効だと思われる。このプランの加入者数は非公開だが、同様の広告付きプランを始めたばかりのNetflixは、広告主に保証した視聴者数に届かないという問題に直面している。こうした視聴率の未達問題はないかと問われ、フェロー氏は「ない」と答えている。
同氏はさらにこう説明する。「この特定の状況で、ディズニーとネットフリックスが決定的に異なる点といえば、我々がディズニープラスだけでなく、もっと大きな動画配信サービスのエコシステムを構築していることだ。そのため、需給のバランスをもっと包括的な視点で管理できる」。
つまり、仮にディズニープラスで広告枠が不足しても、(広告主の承諾を得て)Huluはじめ、ほかの動画配信サービスなどから広告枠を融通すればよいということだ。
複数のエージェンシー幹部が「ディズニープラスで視聴率の未達に直面したことはない」と述べる一方、冒頭のエージェンシー幹部は、「一部の広告主の広告予算をディズニープラスから外し、ほかの広告主が出稿するスペースを空けて、表示するクリエイティブのローテーションを多様化するらしい」と話している。また、この幹部によると、ディズニープラスの広告付きプランの加入者数や、ディズニープラスで配信された広告の到達率といった情報を、ディズニーは広告主と共有していないという。
広告費の移動という議論については、ディズニーの広報担当者も肯定している。「我々にとって、こうした調整は普通のことだ。この慣行は、質の高い視聴者ファーストのエクスペリエンスを提供したいという強い決意に通じている。対応可能な業種やクリエイティブは、種類、量、多様性に優れ、すでに100社を超える広告主を集めていることがそれを証明している。それはより良い視聴体験を提供するための下地を作るものであり、フリークエンシーの上限を低く抑えるのにも有効だ」。
ディズニーの別の広報担当者は、同社のアドテクスタックがこの柔軟な広告配信を可能にしていると述べる一方、四半期決算の報告書以外では加入者数を公表していない。
「ディズニーは結果を出すことを期待されている」
このディズニーの取り組みは、今年のアップフロント(テレビ広告の先行販売)市場で実を結ぶことになりそうだ。同社はアップフロントに備える作業の一環として、CESの開催期間中に広告主、エージェンシー、ベンダーらと120回を超える会合を催し、さらにテック&データショウケースを通じてフォローアップを図った。
この後に続くのは、Huluの広告商品およびサービスの運用拡大と広告販売のさらなる自動化だ。今年のアップフロント市場で強調するセールスポイントは、ディズニープラスを含め、同社のストリーミングサービス全体をまたぐキャンペーンの自動配信と、特定のオーディエンスに対する深いターゲティングになるのだろう。
「ディズニーはその広範な広告商品全体で統合的に結果を出すことを期待されている」とフェロー氏は話す。「我々はその期待を正しく理解すべきだと考えた。ディズニープラスは完全に統合されたファーストパーティデータ製品の一部だ。これを本格稼働して、Huluと同様のキャンペーン配信を可能にすること、それが目下の計画だ。必要な準備はすべて完了している。来年を見据えた今年のアップフロントでは、新しい広告フォーマットやイノベーションを含め、ディズニープラスを我々の広告商品全体の一部としてシームレスに提案したい。これらすべてをディズニーのプラットフォーム全体で展開する計画だ。そこにこそ、同じひとつのアドサーバーですべてを動かすことの強みが活きる」。
[原文:Disney plans to extend Hulu’s ad targeting options to Disney+’s ad tier]
Tim Peterson(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)