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スイスのアスレチックアパレルメーカーのオン(On)は、通称オンランニング(On Running)として知られ、常にプレミアムでエクスクルーシブであることに重点を置いている。
共同創設者のキャスパー・コペッティ氏によると、同社が2010年に創設されたときのコンセプトは、「市場でもっとも高価な商品になる」ことだった。オンの靴は、1足130ドル(約1万8600円)〜200ドル(約2万8600円)で販売されている。この戦略を実行するには数年を要したが、最終的には実を結んだ。最新の決算発表で、四半期の収益が3億700万ドル(約439億円)前後に達し、ダイレクト販売の売上額は同社のビジネスの38%を占めた。
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コペッティ氏は9月初旬、米モダンリテールのポッドキャストに参加し、ランニングシューズでよく知られているこのブランドが、ブランドの整合性を維持しながらどのように成長に注力してきたかについて語った。
同氏は次のように述べている。「当社はプレミアム戦略を掲げており、これは極めてシンプルな戦略だ。常に需要より供給を少なくしなければならない。希少性ほど魅力的なものはない、というのが法則だ。そして、短期的にはビジネスに良い結果をもたらすとしても、長期的にブランドの評価を損なうようなものからは、100%注意して距離を置く準備ができている必要がある」。
最初の数年間は、この方針が事態を困難にしていた。オンは、ビジネスを急速に推進できる可能性がある、小売店との提携をいくつか断念した。しかし、現在では、オンのプレミアム商品としての評価を固めることができたため、パートナーシップを厳選してよかったと、コペッティ氏は語った。
これによってオンは、アスリートが探し求めるブランドになった。たとえば、有名なテニス選手のロジャー・フェデラー氏は同ブランドのスポークスパーソンであるだけでなく、投資家でもある。フェデラー氏に限らず、オンは新しいタイプのスポンサーシップや契約を提案し、アスリートとのパートナーシップをさらに広げようとしている。「スポンサーシップのモデルは崩壊している」とコペッティ氏は言う。「要するに、複占市場だ。2つの大手ブランドが市場を支配し、アスリートを犠牲にして醜いゲームを繰り広げている状態だ」。
同ブランドは、早期から独占販売に力を入れてきたが、コペッティ氏は、主要な卸売パートナーを活用することも必要だと語っている。オンの商品は、数千の独立系ランニングブティックに加え、アールイーアイ(REI)やフットロッカー(Foot Locker)などの大手小売業者でも販売されている。「最高のランナーからだけでなく、専門店からも認められることも必要だと感じた」と、同氏は述べている。ダイレクト販売がオンのビジネスの3分の1以上を占めるようになっても、同社は小売業者とのパートナーシップを拡大することを重視している。さらにコペッティ氏は、2つのビジネスが相反するものではなく、「これらは互いに補完的で、同時に相乗効果があるものだ。小売業者との提携を開始すると、同じ分野で当社のオンライン売上も上昇する」と、同氏は述べている。
オンは現在のところ成長を続け、新しい商品や地域への拡大を進めている。コペッティ氏によると、この成功は、同社が自らの価値観を貫き、全体像を念頭に置き続けたことによるものだ。「これには多くの自制心が必要だった。しかし我々はスイス人だ。自制心があることで有名だ」と同氏は述べている。
対談からいくつかの要点を以下に紹介する。これらは明瞭さを考慮して多少の編集を加えたものである。
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オンがプレミアムマーケティング戦略に特化する理由
「スイスに拠点を置き、特許を取得したテクノロジーを持っているなら、選べるのはプレミアム戦略しかない。この方法を選ばないのは極めて愚かなことだ。当時、当社はアシックス(ASICS)のようなブランドを調べた。アシックスは市場リーダーで、180ドル(約2万5700円)のランニングシューズを販売していたが、40ドル(約5720円)のシューズも販売していた。同社の場合、それによってプレミアムブランドのイメージを薄めていた。世の中には自分が履いて走るものに本当にこだわるランナーがたくさんいるはずであり、我々は、その人たちだけを対象として商売をするべきだと考えた。そこで当社は、「市場でもっとも高価な商品になろう」と考えた。選択肢のなかからひとつを選んだわけだが、結果的には的確な選択だったことが明らかになった。もうひとつ、D2C専業になる選択肢もあった。当時は多くのD2Cブランドが創設された時期でもあった。しかし当社は、最高のランナーからだけではなく、専門店から認められることも必要だと感じた。専門店は、ブランドが作り出される場所であり、コミュニティが存在する場所でもある。専門店のオーナーの多くは、元プロのランナーや、大学ランナーだ。そして、彼らは、ランニングとランニングイベントをコミュニティに組み入れている。これはすばらしい集団だ。当社は、このようなコミュニティと結びつきを持ちたいと考えた。スケートボードを扱いたいと思った場合に、地元のスケートショップと協力するのと同様だ」。
「イエス」より「ノー」を言う回数を多くする
「我々は、10回のうち9回は「ノー」と言う。また、立ち上げ当初も、「ノー」と答えていたため、希望したような良質な小売業者を獲得できなかった。当社はプレミアム戦略を掲げており、これは極めてシンプルな戦略だ。常に需要より供給を少なくしなければならない。希少性ほど魅力的なものはない、というのが法則だ。そして、短期的にはビジネスに良い結果をもたらすとしても、長期的にブランドの評価を損なうようなものからは、100%注意して距離を置く準備ができている必要がある。だが、コストが収益を上回り、ことによれば投資を追いかけてさえいる場合、新興企業がこれを実行するには多くの自制心が必要だった。しかし我々はスイス人だ。自制心があることで有名だ。そして、当社が正しいことを行っていると感じられるときが早期段階に存在した。たとえば、英国で非常に名高い専門店グループで、ロンドンマラソンを考案したザ・スウェットショップ(The Sweatshop)で販売するため、我々は、ものすごく努力した時期があった。当社がザ・スウェットショップでの販売を開始した直後、同社は大幅なディスカウントを行う大手小売グループに買収されてしまったのだ。当社は、彼らといっさい関わりたくなかったため、その店舗からすべての在庫を引き上げた。ほかのブランドも同じことをすると考えていたが、どのブランドもそれをしなかった」。
「2大ブランドがスポンサーシップ市場を支配している」
「スポンサーシップのモデルは崩壊している。要するに複占だ。2つの大手ブランドが市場を支配し、アスリートを犠牲にして醜いゲームを繰り広げている状態だ。我々は、これを変えようと試みている。当社が行っていることのひとつは、異なる構造の契約を提示することだ。たとえば、当社には女性のアスリートが何人かいる。そのひとりはオリンピックのトライアスロンで金メダルと銀メダルを獲得した二コラ・スピリグ氏だ。彼女は、オンで仕事をするようになってから3人の子どもを産んだが、常に給料を満額で得てきた。当社は、アスリートが負傷していたり、妊娠していたり、または精神的に良好な状態ではないとしても、給料を差し引くことはない。そして、そのために、アスリートに対して競技に参加する回数を義務付けるようなこともしない。また当社は、選手としてキャリアを長く続けるには経済的な安定性も必要だと感じている。現在は、可能な場合、当社のアスリートに対して確定拠出年金を導入することを検討している」。
CALE GUTHRIE WEISSMAN(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)