先日発表された、NASAの有人月面着陸ミッション「アルテミス計画」についてのアップデート。内容は良い知らせと悪い知らせが混じったものでした。
宇宙船「オリオン」と同ミッションのスケジュールに対する懸念は、予想より悪くはなかったものの、アメリカが月を再訪するまでにはもうしばらく待つことになりそうです。
1年後ろ倒しになった「アルテミス計画」
12月6日に行なわれた記者会見の中で、NASAは計画の第二弾である「アルテミス2」と第三段の「アルテミス3」の再延期を発表。宇宙船「オリオン」での初となる有人飛行は2025年9月から2026年4月へ、アポロ時代以来となる有人月面着陸は2026年ではなく2027年の中頃へとずれ込みました。
「アルテミス計画の残りの部分を進めるためには、我々の月への再訪…(中略)…の成功を確かなものにするために、この『アルテミス2』試験飛行をきちんと行なう必要があります」とNASAのビル・ネルソン長官は報道陣に述べました。
宇宙は過酷ですから、…(中略)…オリオン宇宙船が宇宙飛行士たちを安全に深宇宙に送り地球へ帰還させてくれると確認するために、この時間が必要です。
アルテミス1の耐熱シールド問題
NASAは、2022年の「アルテミス1」の際に生じたオリオンの耐熱シールドに関する問題の解決に向けて取り組んできました。
同ミッションは、宇宙船「オリオン」が月の近傍まで行って戻ってくる無人の試験飛行でした。アルテミス1号が太平洋に着水した後、耐熱シールドに予想外の変化が起きたことが、同宇宙船の追跡調査で明らかになっています。
大気圏再突入時にオリオンは時速2万4600マイル(約3万9590km)に達し、耐熱シールドは華氏5,000度(摂氏2,760度)以上の高温にさらされました。NASAのエンジニアたちは、多少は焦げるだろうと予期していましたが、予想よりも多くのシールドのアブレーション材料が剥がれてしまったのです。
5月の初めには、NASA監察総監室(OIG)が、「アルテミス2」の打ち上げに向けたNASAの準備状況についての報告書を公表。オリオンの耐熱シールドを、月周回の旅を始める前に対処する必要のある重要な問題の1つだと指摘していました。
オリオンは地球帰還の際、NASAのパム・メルロイ副長官いわく“スキップエントリー”と呼ばれる手法を実行しています。
「これは月から戻ってくる時に使うテクニックです。というのも、この宇宙船の速度とそれが放散させなくてはならないエネルギーは、単に地球低軌道から戻ってくる時に放散させるエネルギーよりも遥かに大きいです。そのため、宇宙船は大気圏に突入したり離れたりすることで速度を落とすよう設計されています。」
と、メルロイ副長官。
ようやく原因が判明
オリオンが大気圏に突入してから一旦高度を上げた時に、耐熱シールドの外層の中で熱が蓄積され、それによって生成されたガスが耐熱シールドの内部に溜まりました。メルロイ氏によると、これによって内部圧力が高まり、耐熱シールドの外層の亀裂と不規則な剥離につながったとか。
「アルテミス2のミッション中、宇宙飛行士たちが安全でいられるようにするためにも、耐熱シールドにあの浸食の変化が起きた理由を解明する必要がありました」とのこと。
根本的な原因を特定したのち、NASAはアルテミス2においてはオリオンの耐熱シールドをそのままにしておきつつ、宇宙船が地球に戻る際の突入軌道を変更することに決めました。
その解決策をもってしても、NASAはオリオンを打ち上げるよりも前に宇宙飛行士たちの安全を優先しなくていけません。しかしこれによって、予算超過と野心的過ぎたスケジュールに苦しんだアルテミス計画は残念ながらさらに遅れることに…。
アルテミス2は元々2024年11月に、後続のアルテミス3は2025年後半に予定されていました。今回の再延期により、アルテミス2は月面着陸計画の開始から5年近く経ってから打ち上げられることになります。
月を巡る競争の行方は?
NASAは、中国よりも先に宇宙飛行士たちを月に降り立たせなくてはというプレッシャーにさらされています。新たな宇宙開発競争では、2つの国家が競い合っているのです。しかしNASAのネルソン長官は新たなスケジュールであっても、合衆国は中国より優位に立っていると念を押しました。
中国の宇宙機関は2030年に宇宙飛行士たちを月面着陸させるつもりだと表明していますから、少なくとも今のところはNASAのほうが3年早いことになります。