空いてる駐車場なのにわざわざ隣に停める心理。トナラー対策どうする?

駐車場や電車内、飲食店、トイレなどで「ガラガラなのに、あえて隣にやってくる人」のことを“トナラー”といいます。

人は普段、無意識のうちに他人と一定の距離(パーソナルスペース)をとって暮らしています。トナラーはパーソナルスペースを気にしない人、無頓着な人であって、特に悪気はないともいわれていますが、される側からしたら迷惑なことも。

とくに駐車場のトナラーは、クルマの乗り降りがしづらくなる、ドアパンチ(ドアをぶつけられる)の可能性などのリスクも。どうしてあえて隣にクルマを停めるのでしょうか?

コミュニケーション心理学の専門家、藤田尚弓(ふじた なおみ)先生に聞いてみました。

駐車場トナラーは抑止力が効かなくなっているかも?

「同じトナラーでも、駐車場とそれ以外では、ちょっと性質が違うと思います。運転をしているときに性格が変わってしまう人がいるのは、みなさんご存知かと思います。渋滞や割り込みなど、運転中のストレスによって、怒りや攻撃的な行動が増えるという研究もあります。攻撃的な運転の後では、駐車場の隣を気にするといった気持ちが少なくなりそうですよね。

それだけでも大変なのに、残念なお知らせがあります。車内という閉鎖的な環境では、匿名性が高まり、通常よりも自己抑制が低下するという研究もあるのです。飲食店や電車内のトナラー以上に、駐車場のトナラーは『周りに迷惑かな』といった抑止力が少ないのです」(藤田先生)

ハンドルを握ると攻撃的になる人が、トナラーになりうる可能性があるんですね。一方で普段は周りに気を配る人なのに、クルマに乗った途端、他人の迷惑を顧みないトナラーに変身している可能性もあるわけです。

駐車場におけるトナラーは「車庫入れが苦手な人が、隣にいる車を車庫入れの際の“目標”にするため」「広い駐車場なので、目立つ車の隣に停めて目印にしている」といった、トナラー擁護派の意見もありますが、迷惑がかかるかもしれないという抑止力が低下しているというわけなんですね

トナラーもされる側も、クルマに乗ると冷静さが失われる

クルマに乗ると人格が変わってしまうのは、トナラーだけでないかもしれません。電車内や飲食店でのトナラーにはおおらかな人も、駐車場のトナラーにだけ敏感な人もいます。ドアパンチされるのがイヤな、愛車を大切にするクルマ好きがトナラーに敏感なのでしょうか?

駐車場トナラーの場合は、不快に思う側の心理も少し違ってくるかもしれません。電車内はパーソナルスペースを侵害される不快感が主で、匂い問題といった直接的な害は少ないように感じます。トイレも音問題などが気になるかもしれませんが、流水音を発生させるグッズなどもありそれほど抵抗がなくなったかと思います。飲食店でも、隣の声が気になるといった問題がある場合を除けばそれほど実害はないように思います。

クルマの場合、ドアの開け閉めでぶつかってしまうなど、大きなトラブルになることも想定されます。そうでなくとも隣に駐車されることにより、乗り降りなどの不便は増えますので、他のトナラー問題よりも深刻に考える人も多そうです。実害が多いとなれば『空いているのにわざわざ隣に停めるなんて非常識だ』『迷惑行為だ』と考える人も増えることが予想されます。

運転のストレスから怒りや攻撃的な行動が増すという研究を思い出すと、トナラーに対して攻撃的な行動に出てしまう人も増えそうですよね。車内だと抑止力が減るということから考えても、他のトナラー問題とはちょっと違うかなと思います」(藤田先生)

やはりクルマは、人間の抑止力を減らしてしまう、魔物が住んでいるのでしょうか…トナラー側も、トナラーを嫌がる側も攻撃的になってしまうんですかね。

駐車場トナラーに目くじらを立てるのは日本人だけ?

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ところで駐車場トナラーを気にするのは、日本人だけなんでしょうか。クルマの扱いにおいては、欧米人とは感覚が違うような気がします。愛車をやたら大切にする日本人特有の心理ですかね。

クルマの扱いに関しては、文化差を非常に感じますよね。アメリカでのクルマの傷に対する鷹揚さもビックリでしたが、イタリアで駐車しているクルマをバンパーで押して動かすというのを見たときは、本当に驚きました。そういった意味では、日本での駐車トナラーに対する感覚は、海外の人には理解しにくい可能性があるなと思いました」(藤田先生)

普段は礼儀正しく生きている日本人だけに、クルマに乗ると気持ちが大きくなってトナラーになったり、愛車を大切にしすぎるがために、必要以上にトナラーに怒ったりするのかもですねぇ。

駐車場は「共有スペース」。相手もきっと「気をつけるはず」

駐車場トナラー対策としては、ネット記事にもいろいろありますが、根本的な解決策はなさそうです。

私もできるだけ辺鄙な区画に停めるように意識していますが、トナラーは見逃してくれません。ガラガラの駐車場で、愛車の隣にぴったりとほかのクルマが寄り添っているときの絶望感たるや…。そんなときにイライラが収まるような、気持ちの切り替え方って何かないでしょうか? 藤田先生、教えてください!

「気持ちを切り替えようとしても、なかなか難しいときがありますよね。そんなときにお勧めしたいのは、心理学でいうところの『認知の再構成』です。捉え方を変えると言えば、わかりやすいかなと思います。

駐車場のトナラー問題では『自分のスペースを侵害されている!』と捉える人が多いと思います。これだと自分の権利を侵害してくる相手にイライラしてしまいます。『こんなことでイライラしても損だ』と気持ちを切り替えることができればいいのですが、自分が正しいのに相手を許すようで難しいと感じる人もいるのでは?

そんなときには、駐車場に今停めているスペースを『自分のスペース』という捉え方をやめて『駐車場は誰もが使える共有スペースである』と捉え方を変えてみましょう

自分のスペースを侵害されているという気持ちは、これで少しマシになるはずです。ドアをぶつけてしまうかも知れないというリスクの認知や不安は、『配慮して遠くに停めないのはとんでもない』といった怒りの感情に繋がりやすくなります。ここでも捉え直すテクニックを使って『ぶつかりそうな距離だからお互いに気をつけるだろう』というように考えてみましょう。ほんの少し気持ちがマシになると思います。

気持ちをマシにしてからなら、捉え方を変えてみる前に比べて、気分の切り替えが少し楽になるはずです。もし運悪くトナラーに出くわしてしまったときに試してみてください。皆さんの気持ちが少しでも穏やかになりますように」(藤田先生)

藤田尚弓(ふじた なおみ)

株式会社アップウェブ代表取締役応用心理士コミュニケーション分野の学際的研究に取り組む傍ら、企業と消費者を繋ぐコミュニケーションデザインを行なう会社を経営。専門家としてテレビ出演多数。著書に『いい人間関係は敬語のくずし方で決まる』『NOと言えないあなたの気くばり交渉術』などがある。所属学会は日本社会心理学会、日本応用心理学会、日本消費者行動研究学会。

Photo: Yohei Amazaki

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