宇宙望遠鏡「ユークリッド」は、直接観測できないものの宇宙の質量の大部分を占めると言われる「ダークエネルギー」と「ダークマター」を解明するのが使命。“暗黒宇宙”の立体地図をつくるというミッションを背負い、2023年7月に打ち上げられました。
そして先月末、同ミッションに携わる科学者たちが「早期リリース観測(宇宙望遠鏡の性能を確認するために最初に行なわれる観測)」からの大量のデータを公開したのです。
約半年ぶりの画像公開
ユークリッドの最初のテスト画像が公開されたのは昨年8月でしたが、科学画像5点が初公開されたのは11月になってからでした。同望遠鏡が捉えた銀河団や銀河、有名な星雲の画像は幻想的で美しいだけでなく、ダークエネルギーとダークマターに関する有用なデータも含んでしました。
ユークリッドの画像は、地上からのスカイサーベイと比べて少なくとも4倍は鮮明です。イギリス宇宙局のリリースによると、公開された最新画像には宇宙から撮影した宇宙の画像として最大規模のものも含まれるそう。
この記事に掲載されている画像は、ユークリッド宇宙望遠鏡の早期リリース観測の一環としてたった24時間の観測で得られたもの。つまり、ゆくゆくは莫大な科学的データのポートフォリオになると期待されているもののほんの序の口にすぎないのです。
ユークリッドに搭載されている観測機器とは?
ユークリッドの可視光カメラ(VIS)は驚異の6億画素を、近赤外分光計・測光装置(NISP)赤外線センサーは6600万画素を誇ります。ユークリッドは宇宙空間にありますから揺れ動く地球大気を通過せずとも宇宙を撮影でき、深宇宙の構造物の各段にシャープな画像を撮る能力を備えています。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの天体物理学者でVIS光学カメラの開発を率いたMark Cropper教授は、前述のリリースの中でこう語っていました。
「ダークエネルギーとダークマターへの理解を深めるという主要目的を達成するには、ユークリッドの観測機器が極めて精密である必要があります。これには安定性がとても高く、とてもよく理解され、内部の状態をかなり慎重に制御する必要のあるカメラを要します。
我々が開発したVISカメラは美しい画像に貢献するだけでなく、宇宙の進化におけるダークエネルギーとダークマターの役割に関する根本的な疑問を解くうえでも役立ちます」
今回の早期リリース観測に関連する学術論文はすべて、ユークリッドのサイトから確認できます。
前置きはこれくらいにして、ユークリッドから届いた最新画像を見てみましょう。
「かじき座銀河群」
かじき座銀河群は若い銀河群で、合体しつつある銀河も観測されています。6200万光年先にあり、サイズは大きな銀河団と小さな銀河群の間であることから、銀河の進化過程と、このような銀河同士の相互作用を理解するための興味深い研究対象となっています。
かじき座銀河群のクローズアップ
こちらは先ほどの画像の左上部分を拡大した図。真横から見た銀河、そして背景にも数多くの銀河が写っています。ユークリッドがどれほど高精細に撮影できるのかを示しています。
銀河団「Abell 2764」
画面右上にあるのが銀河団Abell 2764で、ダークマター・ハローにある数百もの銀河から成る領域です。ダークマターは(科学機器では直接検出できないので)文字どおり目に見えませんが、天文学者たちは目に見えるものへの重力の影響によってそこに存在するとわかっています。
画像下半分にある明るい星は、天の川銀河にあるV*BP-Phoenicisです。ユークリッドが遥か遠方の(地球から10億光年ほど離れた)きらびやかな銀河団を観測できるのは、前景の星からの光の散乱を抑えているからです。
渦巻銀河「NGC 6744」
渦状腕を持つことにちなんで渦巻銀河と呼ばれているNGC 6744は、地球から3000万光年先に位置します。渦状腕を構成している塵は、新たな星形成の燃料であるガスと関連していて、ユークリッドの観測ではそれらがマッピングできるようになります。
ユークリッドが撮影した天体は、どの辺にある?
ここで小休止ということで、それぞれの天体が空のどこにあるのか見てみましょう。こちらは天の川銀河の、オーバル型の地図です。ユークリッドがこれまでに観測した銀河団、星のゆりかご、そして星雲が散らばっています。
銀河団「Abell 2390」
地球からは27億光年も離れているAbell 2390も、早期リリース観測で撮影された銀河団です。
画面中央の明るい天体の集まっている箇所をよく見てみると、銀河間光(親銀河から離れて銀河間空間に留まる恒星から放たれた光)が見えます。ユークリッドはこの銀河間光を活用して、ダークマターの分布を研究できるとのこと。
またユークリッドは、このような深くて広視野な画像を他の望遠鏡よりも遥かに速く撮影できます。
Abell 2390の重力レンズ
天文学者らがダークマターを“見る”ことができる方法の1つは、光が質量の大きな天体の重力場によって曲げられる現象「重力レンズ」を通してです。
こちらは上の画像の中心部を拡大した図で、重力レンズ効果によって遠方の銀河が弧を描いているように見えます。直線として現れるはずの光が質量の巨大な天体の重力場によって曲げられているからです。
ダークマターは直接観測できないものの、その重力が通常の物質に影響を与える重力レンズ効果から、その分布を測定していきます。
星のゆりかご「M78」
画面中心部の鮮やかな赤紫色の領域は、星間ダストに覆われたM78と呼ばれる星形成領域です。ESAのリリースによると、科学者たちは今回初めてM78内部のガスと塵の複雑なフィラメント構造を、かつてないほど詳細にマッピングできたとか。
この画像の視野だけでユークリッドは新たな天体を30万個以上発見しているので、この先宇宙の姿をどれだけ明らかにしていくのか期待が高まりますね。
Source: NASA Science, Euclid Consortium,