映画『オッペンハイマー』:この作品は歴史認識の帰結ではない

2024年3月29日に映画『オッペンハイマー』の劇場公開が開始されました。

『インターステラー』や『ダークナイト』などで知られるクリストファー・ノーラン監督によるこの作品は、理論物理学者であり世界で初めて原子爆弾を開発したロバート・オッペンハイマーの半生を描いた伝記映画です。

本作は、批評家・観客どちらにも評価され、第96回アカデミー賞では作品賞や監督賞などを受賞しました。

原子爆弾を開発した男の物語」がセンシティブな題材であることは間違いありませんが、日本人にとっても原子爆弾の脅威と歴史を改めて認識する意味で価値のある作品でしょう。

3時間に及ぶ熱意と後悔

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Video: 映画会社ビターズ・エンド / YouTube

この作品は、ロバート・オッペンハイマーが学生時代から妻との出会いや原子爆弾の開発へとその半生を振り返るようなストーリーで、その上映時間は3時間ちょうどです。

この3時間という上映時間のなかに、これでもかと詰め込んだオッペンハイマーの栄光と凋落、そして彼の心情を丁寧に描き、感情が次第に変化していく様は本当に見事なものと思えました。

一方で、クリストファー・ノーラン節といいますか、劇中で時代がめくるめく変化していき、ときに時系列もズレるような構成は少し複雑で、始めからの終わりまで注視する必要があるといえます。

とはいえ、あっという間とは言わないまでも3時間の中でダレることもなく鑑賞できたのは、クリストファー・ノーランの手腕にあるでしょう。さらに、キリアン・マーフィーら実力派の俳優たちが繰り広げる熱演にのめり込めたのも大きかったですね。

『オッペンハイマー』はきっと帰結ではない

映画の幕が閉じ、しばらく余韻に浸った後で頭によぎったのは『アトミック・カフェ』という映画のことでした。

当時のプロパガンダ映画や実際の映像素材で構成されたこの『アトミック・カフェ』は、アメリカが原子爆弾をどのようなものだと認識しているかについて雄弁に語る作品であり、観るまで私はこうした認識をほとんど知らなかったのです。

それと同じように、日本人の原子爆弾に対する認識をまだ知らない人々はいるのでは、と改めて思いました。それが「バーベンハイマー」ミームに端をする騒動に広がったのかな、と感じます。

当然ですが、『オッペンハイマー』において悪趣味なピンク色のキノコ雲のような認識は、少なくともこの3時間のなかには一切存在していません。

『オッペンハイマー』は、素晴らしい作品であることは間違いなく、そして原子爆弾に対する認識についても一貫した姿勢を示しているはずです。そしてこの映画は、これ自体が帰結ではなく、ここで語られた物語を観てどのように事実を認識して、どういった歴史があったのかを考えるためのもののように感じます。

また、今も世界で戦火が広がっていることも認識して知らなければならない、とそんな風に思いました。

Source: 映画『オッペンハイマー』公式,YouTube, Wikipedia

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