日食って裸眼で見ていい?→「太陽グラス」を使おうね

北米の日食に備えて。

4月9日にアメリカで皆既日食が起こります。今回の日食は日本では見られないのですが、将来の日本での皆既日食に向けて、日食を見るときの注意点とリスクなどを専門家に聞いてみました。

皆既日食は北米の4月8日に始まります。最初にメキシコから始まり、そのあとアメリカを北東に横断してカナダのニューファンドランドまで移動します。完全な日食が見える地域範囲は約99.8〜114.3キロメートルとのことですが、北米の多くの地域で完全ではなくても部分日食は見えるそうです。

目の損傷リスク

日食はなかなかない体験ですが、十分に気をつけて観察しないと目を損傷するリスクもあります。アメリカ視光学会の会長Ronald Benner博士は、適切な保護なしで日食を見ることによる危険性について警告しています。強い光によって引き起こされる日食網膜症は、目の後ろ側の繊細な細胞層である網膜に永久的な損傷を引き起こす可能性があります。網膜は光を脳に送るために神経信号へと変換するという視覚プロセスにおいて重要な役割を果たしています。

「外に出て日食を見たいでしょうけれど、見る方法についてまちがった情報が出回っています」とBenner博士は言います。たとえば、濃いサングラスを着用する、濃いサングラスを重ねる、または溶接用マスクを使用するというものがあります。Benner博士は「それはすべてまちがった情報です」と警告しています。

ISO 12312-2に準拠した太陽グラスを使おう

日食用のメガネや手で持つ太陽グラスを選ぶ際には、安全かつ信頼性のある国際標準ISO 12312-2に準拠しているかどうかを確認することが重要です。「太陽フィルターは、安全で快適な視野を提供するものは通常、可視光の1万分の1(0.001%)から200万分の1(0.00005%)を透過するようになっています。こういったフィルターは、いちばん暗い色のサングラスよりも少なくとも1000倍、暗くなっているのです。通常のサングラスをたとえ2重にしてつけたり、溶接用マスクを使っても、太陽フィルターのろ過レベルにはまったく及びません」とアメリカ天文学協会のRick Fienberg氏は説明します。

安全だと錯覚してしまう

日食というのは安全という錯覚を生み出すので気をつけなければなりません。

私たちは普段、太陽を見上げることはほとんどありません。実際、目が痛くなりますしね。しかし、日食のときだけはちがいます。月が太陽の大部分を遮るため、太陽を見つめるのが楽になります。そうなると、目を傷つける可能性のある光がほとんどないという誤った印象が生まれます。

そしてこの誤解によって、多くの人が日食用のメガネを外して太陽を見てしまうのです。太陽の強い光がまた現れるタイミングに気づかずに、ずっと見てしまうという結果に陥りす。Benner博士は、これこそリスクのある行動だと述べています。

網膜が損傷してしまう可能性がある

Image: This image was originally published in the Retina Image Bank® website. Author Theodore Leng, MD, MS. Photographer NA. Title Solar Retinopathy. Retina Image Bank. Year 2013; Image Number 5041-4. © the American Society of Retina Specialists.

この間、網膜は危険にさらされることになります。

Benner博士は「網膜は脳の一部であり、純粋な神経ネットワークです。そして通常、光を見ると、化学反応が起こり、それが電気的反応に変わり、脳に信号を送ります」と説明しています。

網膜の繊細な構造は強い光によって修復不能なほど損傷を受ける可能性もあるそうです。目に入ってくる光線は組織を焼き尽くし、網膜の中で重要な光を感知する細胞と錐体細胞機能を破壊し、炎症や障害を引き起こすことになります。これら細胞が死滅すると、損傷は永久的なものとなり、特に錐体細胞が損傷された場合、色覚にも影響が出てきます。

2013年にCase Reports in Ophthalmological Medicineに発表された症例報告によると、日食網膜症はその症状が微妙で見落とされやすいため、最初は気付かれないことがよくあるそうです。光や熱からの損傷は最初は深刻に見えないことから、診断は難しくなります。見た目にあまり変化がないものの、日食網膜症は目にとっては深刻な状態です。そして、皮膚や角膜上皮とは異なり、網膜の損傷には即座に症状が現れず、永久的な視力の喪失や変化、歪んだ色覚などが後からやってくることが多いのです。

日食網膜症を患っているほとんどの人は、いつ患ったかわかっていないとBenner博士は話しています。損傷は即座に痛みを感じるわけではないため、気付くのが遅れることがあり、例えるなら日焼けのようなもので数時間後に症状が現れるとのことです。病院へ行くと医師が炎症を確認し、神経組織の回復を認める可能性もありますが、眼の神経ネットワークは部分的にしか回復しないことがあります。時間の経過とともに、損傷は瘢痕形成を引き起こし、「視覚の穴」などの視覚障害をもたらす可能性もあるのです。

日食網膜症によるダメージの例

日食網膜症のもっとも重大なダメージは中心視力の喪失です。Benner博士はこの状態を、古い写真のネガフィルムに穴開けパンチで穴を開けることのようだとたとえています。他の影響としては、色覚の永久的な変化、視覚の歪み、光過敏、頭痛などがあります。「その組織が損傷されると、体がそれを修復しようとします。薬はありませんし、治療法もありません。回避策もありません。一度損傷を受けると、治療ができずにずっとそのままなのです」と説明しています。

リスクを冒さないで

特に子どもにとってリスクは懸念すべきです。親としては、この珍しい機会を子どもに見せたいと思うのは当然です。ただ、子供たちにしっかり教え、守る必要があります。Benner博士は「私が怖いと思うのは、親が子どもを連れ出すときです。3、4、5人の子どもを同時に見守り、全員をしっかり見ておくことは簡単なことではありません。子どもは結果を気にして行動しないから余計にです」と話します。

確かに、日食を見るためのガイドラインは大人にとっても複雑です。子どもにとってはなおさらです。日食の経路の外にいる人たちが、大丈夫だろうと日食用のメガネを使わず太陽を見るという懸念もあります。Benner博士は「太陽光が害を及ぼし始める時点を判断するのはむずかしいです。したがって、リスクを冒すことは避けてください。もし日食を間近で観察したいのであれば、テレビやオンラインで観察する方が安全です」とアドバイスしています。

ちなみにですが、アメリカ眼科学会はBenner博士とは少し異なるアドバイスをしています。太陽が完全に日食状態になったときのみ、日食メガネなしで安全に太陽を見ることができるとしています。太陽が影から出始めたら、メガネを再び着用して、残りの日食を見てくださいとのことです。

Benner博士は、「たった一度の日食が一生を台無しにするような経験にならないように注意してください」とコメントしています。日食は異次元で楽しいものですが、視力に危険があることを必ず覚えておいてくださいね。