「宇宙」でいただくミシュラン2つ星機内食は美味しいのだろうか?

宇宙なのか宇宙じゃないのか、それが問題だ…?

フロリダのスタートアップ企業「Space Perspective」が、「宇宙」旅行を販売しています。乗り物のトイレはフォトスポットだし、内装は高級だし、うっとりするほど素敵なんですが、さらに提供されるのはミシュラン2つ星レストランの食事なんですって。

ちなみに、「宇宙」旅行って書き方をしましたが、厳密には宇宙に行かないからなんです。

6人乗り気球カプセルで行く宇宙旅行

Space Perspectiveの用意する乗り物は、Spaceship Neptuneという水素推進する巨大な高高度気球で、時速19kmで上昇し、高度20マイル(30km)に到達します

ミシュラン2つ星の「Alchemist」というRasmus Munkシェフが率いる豪華な食事が提供される6時間の旅で、お値段は1人あたり12万5000ドル(約1600万円)です(申込料金とか諸々かかるので、この金額で行けるわけではありません)。

なんだか素敵な旅ですが、この高度20マイルは宇宙とはいえず「成層圏」なんです。

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An illustration of Spaceship Neptune. Illustration: Space Perspective

宇宙は地球上空62マイル以上

宇宙がどこから始まるのかを厳密に特定することは難しいです。理由は、眼に見える境界線があるわけでもないし、大気が突如として消えるわけでもないから。大気は高度が上がるに連れて、徐々に薄くなります。

そこで専門家たちは、大気と宇宙を分けるために国際的に認められた「カーマン・ライン」という境界線を定めています。これは国際航空連盟(Federation Aeronautique Internationale: FAI)という組織が定義したもので「海抜高度100kmに仮想の境界線を引いて、その線を越えたら宇宙空間、下なら地球の大気圏」となっているんです。ちなみに米国空軍の定義だと、高度80kmから上が宇宙です。

つまり、Space Perspectiveが提供するのは、FAIと米国空軍のどちらの定義においても宇宙旅行とはいえません。無重力空間ですらないのです。

Spece Perspectiveは宇宙に行かないことを認めている

だからといって、Space Perspectiveを「誇大広告だー」と責めるのは待って。同社はSpaceship Neptuneが到達するのは「宇宙の入り口」であると、繰り返し明記しています。

ただ、HP日本の代理店も「宇宙」の文字が目立っていますし、宇宙旅行へのワクワク感で先走った書き方や伝え方をしてしまう人が出てきてもしょうがないのかも。

実は「宇宙か宇宙じゃないか」を理解しないまま関係者が話したり、報道されたりすることは珍しくありません。例えば、2021年にはヴァージン・ギャラクティックのブランソン氏が商用宇宙飛行を成功させましたが、到達したのは高度約85km。FAIの定義でいったら「宇宙旅行」とはいえませんが、米国空軍の定義だと宇宙旅行だといえます。でも、送られてきた映像は一般的に考えられている宇宙そのものだし、わかりやすいので「宇宙旅行」と伝えているケースはあるんですよね。

特別な体験には違いない

細かいことは別として、宇宙を目指し、そこから眺める景色は特別に違いありません。Space PerspectiveのSpaceship Neptuneに乗船する人は、フランスのファッションブランド「Ogier」のオーダーメイド衣装を着用して、優雅なトイレタイムを楽しんだり、船内を歩き回ったりできます。きっと楽しいし、人生観を変える忘れられない体験になることでしょう。

そう考えると、宇宙なのか宇宙じゃないのか、なんて些細な問題なのかもしれませんね。

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