過酷な環境でも生き抜く、最強生物“クマムシ”のメカニズム(弱点)を発見

クマムシ」の愛称で知られる微小な緩歩動物(4対8本のずんぐりとした脚でゆっくり歩く動物の総称)。愛らしい見た目に反するかのごとく、すべての動物が死んでしまうであろう過酷な環境下でも生き抜く生態を持っていることで有名です。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校やマーシャル大学の研究者チームは、ある意味最強であるクマムシの生態を解明する研究論文をPLOS Oneに掲載しました。

クマムシの”樽”状態

クマムシは、大きくても1mm程度の微小な生物で、8本足を持つ無脊椎動物の一種です。

クマムシの3Dイラスト

クマムシに最も近い近縁種は節足動物か線虫といわれていますが、現在では線虫に近いとされる証拠が多く出てきています。

前述のようにクマムシは過酷な環境下でも生きることができ、極度の高温絶対零度に近い温度、あるいは他の生物が確実に死ぬレベルの塩分にさらされても耐えるほどだといいます。

その生態は、“クリプトビオシス”として知られる「乾眠」と呼ばれる状態になることによって、どんな環境でも死なないのです。この乾眠は“樽”状態とも言われ、クマムシは体を丸めて、体内の水分をほぼ使い果たし、無代謝の休眠状態になります。

この状態は死んだようにも見えるのですが、水を与えられることで再度動き回ることが可能になります。クマムシは環境が改善されるまで、何十年という期間をこの樽状態で過ごす可能性もあるのだそうです。

「樽になるために必要なもの」がわかった

さて、今回の研究チームはクマムシが樽状態になり、それを維持するためにどんなことが必要かを長年研究してきました。そして、今回の論文の中で、クマムシが樽状態になるための化学的なスイッチを、少なくとも1つ発見したとのこと。

研究チームは、一連の実験で樽状態になるプロセスにおいて活性酸素種(ROS)が重要な役割を果たしている可能性がある証拠を発見しました。

ROSは酸素含有の化合物で、体内で他の分子を分解する際に生成されるもの。特定のROSは、がんなど健康における問題の一因になる可能性もあります。一方で、細胞内のシグナル伝達や、細胞の増殖プロセスを誘発するといった機能を持つものも存在します。

研究者たちは、クマムシにおいてはROSがアミノ酸であるシステインの酸化をシグナルとして送っていて、これが樽状態になるために重要であると考えられると述べています。さらに、このシステインを酸化する能力をオフにする方法を見つけました。それをオフにしたことでクマムシは樽状態を維持できなくなったことから、さらに仮説を裏付ける結果になったとのこと。

クマムシのすべては解明されていない

今回の発見は「Hypsibius exemplaris」というクマムシの一種のみの研究に基づいて得られたものです。この研究もさらに精査されることになるでしょうが、それでもクマムシの生態のすべてが解明されたわけではありません

Image: shutterstock

知られているクマムシのすべての種が、環境変化を経験しているわけではなく、さらにクマムシが劣悪な環境に耐えるためには他にも生存戦略は存在するといいます。とはいえ、驚異ともいえるクマムシの強さを理解する上で、今回の研究は新たな手段を提供したという意味でも大きな意味があったといえるでしょう。