オリオン宇宙船に乗っていた3体のマネキンを回収→分析へ

2023年1月28日の記事を編集して再掲載しています。

アルテミス1ミッションで打ち上げられたNASAの宇宙船オリオンは無人だったものの、3体のマネキン人形が搭乗していました。深宇宙が人体に及ぼす影響や、オリオンと放射線防護ベストの人体を守る能力を確かめるため、船内から回収された後は詳しく分析されることになっています。

オリオンは25日間に及ぶ月周回の旅を経て、現地時間の12月11日に太平洋に着水。NASAの新型ロケットスペース・ローンチ・システム(SLS)とオリオンをお披露目したアルテミス1実証ミッションは、大成功を収めました。このミッションが、今度は宇宙飛行士を乗せて同じ旅路を繰り返すアルテミス2の土台となります。

フライト後の点検

2023年1月6日、ケネディ宇宙センターのマルチペイロード・プロセッシング施設内でオリオンの中の荷物を取り出している技術者
Photo: NASA

12月30日に米フロリダ州のケネディ宇宙センターに到着したオリオンは、NASAのマルチペイロード・プロセッシング施設でフライト後の検査を受けています。NASAの技術者らは外部のアビオニクスを取り外し、宇宙船の窓とバックシェルパネルを点検し、宇宙船内から空気サンプルを採取。それからハッチを開け、計140万マイル(約220万km)を移動した歴史的な月周回の旅を乗り切った3体のマネキン人形も取り出しました。

帰還したペイロード

アルテミス1計画から帰還した、ムーニキン・カンポス船長とその他のアイテムたち
Photo: NASA / Cory Huston

アポロ13のエンジニアだったアルトゥーロ・カンポス氏にちなんで命名されたムーニキン・カンポス(Moonikin Campos)船長は1月10日、輸送用ケースに詰められました。

宇宙放射線、振動、加速度を記録

ムーニキン・カンポス船長をヒューストンにあるNASAジョンソン宇宙センターへの移動に向けて固定する、Lockheed Martin社のオリオンペイロード&貨物マネジャーJoe Leblanc氏
Photo: NASA / Cory Huston

このマネキンはアルテミス計画の実際の船内宇宙服を着ていて、宇宙放射線のレベルを測定するセンサーと共に送り出されたのでした。カンポス船長の座席とヘッドレストの後ろに設置された加速度センサーが、11月16日にケネディ宇宙センターの発射台からSLSが飛び立ったときの振動と重力負荷を測定。その同じセンサーは、オリオンが月から戻ってきて時速2万4600マイル(3万9590km)に達する速度で大気圏に再突入した際にも似たような負荷を記録しています。

次の目的地はジョンソン宇宙センター

カンポス船長はアルテミス1で実際のオリオン船内宇宙服を着用
Photo: NASA / Cory Huston

カンポス船長は現在、ヒューストンにあるNASAジョンソン宇宙センターに向かっています。そこでの分析によって、オリオンが深宇宙環境へ行く同様のミッションにおいて、人体をどの程度守れるのかが見極められます。

ヘルガとゾーハ

オリオンから回収されたマネキンのヘルガとゾーハ
Photo: NASA / Cory Huston

胴体部分のマネキンであるヘルガ(Helga)とゾーハ(Zohar)は、1月11日にオリオンから取り出されました。共に女性の体形を模しているのは、女性の方が宇宙放射線の有害な影響に悩まされるリスクが大きいと思われるためです。

宇宙にある危険を測定

胴体部分のマネキン2体と放射線防護ベスト「Astrorad」
Photo: NASA / Kim Shiflett

オリオンは最大で地球から26万8554マイル(約43万2194km)離れた地点を飛び、有人向け宇宙船の最遠距離を更新しました。地球の磁気圏からは遠く、放射線被ばくという点では宇宙飛行士たちにとって危険な場所です。今後の有人ミッションに備えるため、HelgaとZoharはドイツ航空宇宙センター(DLR)やイスラエルの企業StemRadなどとの共同実験(Matroshka AstroRad Radiation Experiment、MARE)に用いられたのでした。

放射線防護ベストAstrorad

放射線防護ベスト「Astrorad」を着用したZohar
Photo: NASA / Kim Shiflett

どちらのマネキンにも放射線検出器を搭載し、Helgaは比較対照として防護のない状態で、一方ZoharはAstroradという放射線防護ベストを身に着けて深宇宙へ送られました。NASAは放射線検出器を回収し、胴体部分のマネキン2体をさらなる分析のためDLRへ送ります。

スヌーピーもお忘れなく

アルテミス1についていった無重力インジケーターのスヌーピー
Photo: NASA

無重力インジケーターのスヌーピーも乗船していました。オリオンの船内宇宙服を着たぬいぐるみは、アルテミス1ミッションではクルーキャビンの中にいてCampos船長のそばで漂っている姿が確認されていましたね。

「NASAはスヌーピーとの関係をアポロ時代から維持してきました。このキャラクターはNASAの有人宇宙飛行ミッションの興奮に貢献し、大きな夢を抱くよう何世代も触発し、NASAの安全文化とミッション成功のシンボルでもあります」とNASAは述べていました。

Source: NASA(1, 2), BioOne, National Library of Medicine, Flickr