強すぎる。シャチ、シロナガスクジラの成獣を捕食

2022年2月9日の記事を編集して再掲載しています。

頂点捕食者であるシャチは基本的にどんな海洋生物だろうと捕食しますが、果たして最大級の海洋生物であるシロナガスクジラも食べるのかという点について生物学者らは確信を持てずにいました。しかし、シロナガスクジラへの捕食行動の目撃例が報告され、その光景が何とも残酷だったのです。

シャチがシロナガスクジラを捕食した3つの事例

Marine Mammal Science誌に掲載された最新論文は、著者たちが「これはシロナガスクジラを殺害して食べるシャチの初の文献です」と力説するものでした。オレゴン州立大学のRobert Pitman氏らの研究チームは3つの捕食事例(2019年に2件と2021年に1件)を詳述。「最初に殺されたクジラは健康的な成獣のようだった」と海洋生物学者たちは綴っています。

論文は組織的な襲撃だとして、ほぼメスから成る群れが力を合わせて獲物を制圧していたと説明しています。どの事例もオーストラリアのブレマー湾から60km沖合で起きたもので、観測はすべて商用のホエールウォッチング船から行なわれました。

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シャチたちは、成獣のシロナガスクジラのヒレを食いちぎりました
Photo: John Totterdell/CETREC WA

「シロナガスクジラへの襲撃がめったに目撃されなかった(そして致命的でなかった)のは、1900年代の捕鯨によってシロナガスクジラが地上から根絶しかけたからでしょう」とPitman氏はメールで説明していました。「彼らを捕食していたシャチも別の獲物を見つけていなかったら絶滅していたかもしれません。どちらにしても、巨大なクジラを倒すスキルとチームワークもまた消失してしまったのでしょう」とのこと。

史上初の地上最大生物への襲撃例

キラー・ホエールとも呼ばれるシャチがシロナガスクジラを捕食してたとしても、彼らが追いかけているという話は前からあったのでそこまで驚くことではありません。これらは、地上最大の生物(学名:Balaenoptera musculus)への襲撃の成功を確認した初の事例なのです。シャチが食す生物はコククジラ、ホッキョククジラ、イルカ、イカ、タコ、魚、アザラシ、エイさらにはサメなどが名を連ねていますが、この長いリストにシロナガスクジラが加わることになりました。

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シロナガスクジラの皮と脂肪の塊をかみちぎるシャチ
Photo: John Daw/Australian Wildlife Journeys

襲撃シーンはまるでホラー映画のよう

1件目の襲撃は2019年3月16日に観測されました。体長18~22mほどの健康そうなシロナガスクジラの成獣が、十数頭のシャチに襲われたのです。シャチの群れの内訳は成獣メス8頭と成獣オス1頭、そして脇で見ていた若い個体数頭だったとか。科学者たちによるこの襲撃の説明は、まさにホラー映画のようでした(生々しい描写が続きます)。

20分間ほどシャチによる攻撃が続いた後、シロナガスクジラは速度を落として半径200mほどの弧を描くように泳ぎ始めました。9時20分には、背びれ後方の側面の皮と脂肪部分が大きく食いちぎられていました。大量に出血していて、泳ぐスピードは落ち続けて衰弱しているようでした。数分後、成獣メスのシャチ3頭がシロナガスクジラに対して垂直に並び、それから脇腹へと猛スピードで突っ込み、水の中に押し込んでから無理やり沈めたのです。それと同時に、別のシャチ2頭がシロナガスクジラの頭部を攻撃しており、クジラの前進する動きが止まりました。少し経って9時30分頃、クジラはまだ生きているにもかかわらず、成獣メスのシャチがシロナガスクジラの口内に頭を突っ込み、クジラの舌を食べ始めたのです

この捕食行動には最終的に50頭以上のシャチと、ミズナギドリ、ウミツバメやアホウドリなどの腐食生物も数百羽加わりました。

「彼らは襲撃中と殺害後に残骸を拾うんです。この鳥類たちは皆鋭い嗅覚を持っており、狙われた被害者にシャチが最初の歯形を残すとすぐに鯨油が海中に溶け出て、鳥たちが現れ始めます」とPitman氏は語っていました。「あまり目立ちませんが、水面下ではサメたちが集まり始めます。なんだかんだ言ってサメたちが食べるシロナガスクジラの量は、シャチよりも多いとにらんでいます」とのこと。

この生物たちは、死骸が最終的に沈むまで貪り続けます。6日後、現場に戻った科学者たちが目にしたのは水面の巨大な薄膜。海底の屍から流れ出た脂によって生じたもので、沈んだクジラは今では他の海洋生物たちに食い荒らされてることは明らかでした。

2件目の観測された襲撃は、その数週間後に発生。25頭のうち22頭がメスの群れがシロナガスクジラの子供を捕食していました。3件目の襲撃の標的は1歳ほどのシロナガスクジラで、襲撃の間、シャチたちはまたも協力するために並んでいたのです。Pitman氏はシャチが「利口で、社交的な生物」なので、もはや彼らが何をしても驚かないと言っていました。

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シロナガスクジラの舌を食べるシャチ
Photo: John Daw/Australian Wildlife Journeys

好物は舌

3つの事例すべてでシャチは栄養価の高い舌を食べていました。メスは子供に食べ物を与える必要があり、オスよりも頻繁に餌を与える頻度があることから、襲撃を主導していたと科学者たちは言います。

クジラ・イルカ保護協会の研究員であるErich Hoyt氏は、シャチが別の種のクジラに行なっていた、舌を食べるなどの行動がこの研究で裏付けられたとThe Guardian紙に語っていました。「論文の素晴らしい写真と科学者たちが提供してくれた驚くべき詳細は、その行動がどう起きるのかリアルな洞察を与えてくれます」とのこと。

シャチに勝てるのはヒゲクジラ

興味深いのは、科学者らが健康的なザトウクジラは「シャチの襲撃に耐えうる唯一のヒゲクジラ亜目のようだ」と書いている点で、「他の獲物を攻撃している者を含め、哺乳類を食すシャチに悠々と近づいて撃退するとして知られる唯一の品種」なんだそう。

商業捕鯨が以前ほど広く行なわれなくなった今、シャチがどの程度海洋生物のコミュニティを形作っているのかを見極めるため、海洋生物学者らは同様の襲撃を観測していく予定です。

「シロナガスクジラの生息数がいくらか回復した現在、我々が目にしているのは、この50~100年間の大部分は不在だった獲物の基盤を再発見しているシャチの姿なのかもしれない」とPitman氏。「巨大な生物のほとんどがいなくなる前の海の姿も垣間見ているのかもしれません」

Source: Marine Mammal Science, The Guardian,

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