徹夜明けのあの感じ、わかります。
アメリカのノースウェスタン大学の科学チームがなぜ徹夜後の数日間、妙にハイでフワフワした気分が続くのか、理由を突き止めたようです。
今週発表された研究で、マウスでの急激な睡眠不足が脳内でドーパミンの急激な放出を引き起こし、それが少しの間続くことで一時的に過剰活動状態や抗うつ効果が生じることがわかりました。科学チームによると、この発見は気分障害のためのより良い治療法を開発する手掛かりになるかもしれないとのことです。
ノースウェスタン大学の神経生物学者で研究の著者であるYevgenia Kozorovitskiy准教授は、「もともと徹夜が脳にどのような影響を与えるかを調査するつもりはなかった」と言います。「異なる経験が、気分や気分の安定性にどのように影響するかを考えていて、そこからこのテーマに取り組むことになりました」と米Gizmodoにメールで答えています。
もともとは違う研究から始まった
ノースウェスタン大学のポスドクフェローであるMingzheng Wu氏が率いる科学チームは、もともと脳の経路とドーパミンがどのような関係があるかを調べていました。
「ドーパミン」とは私たちの生態にいろんな影響を与えている重要な神経伝達物質です。気分にも大きな影響を与えるので、悪化するとうつ病などの気分障害を起こしますが、ケタミンなどの特定の抗うつ薬に反応して急速に元に戻ったりもします。
このチームの研究は特にうつ病に焦点を当てていましたが、ドーパミンが躁病の形成とそれに伴うエネルギーの高い気分変動に重要な役割をしているかもしれないと考えました。
マウスでの「徹夜実験」の結果
Kozorovitskiy准教授は「動物で躁病行動をモデル化するのはむずかしいため、徹夜が軽度で短時間の躁病のような不安定な気分状態のモデルになるかどうかを考えていました」と述べています。
チームの最新の研究は、Neuron誌に発表されています。チームは実験室のマウスに典型的な大学生の体験をさせてみることに。マウスを一晩起こさせておき、その後の行動とドーパミンを生成する脳細胞の活動を調査しました。また、対照群として十分な睡眠をとったマウスも使用しました。
睡眠不足のマウスは睡眠を十分に取ったマウスよりも攻撃的で活動が活発になり、さらに過剰な性行動を示しました。研究者たちはマウスの脳内で、関連する4つの脳領域のうち前頭前野、腹側被蓋野、視床下部の3箇所でドーパミン関連の活動が急上昇したことを発見しました。
しかしドーパミンの増加はすべて同じようにマウスに影響を与えたというわけではなかったそうです。
脳の領域でドーパミンの反応は違う
後の実験では、科学チームはテストを実施する前にそれぞれの脳領域でドーパミン反応を選択的に抑制してみました。その結果、腹側被蓋野と視床下部が徹夜後の過剰活動と最も強く関連していることがわかりました。
一方で、前頭前野は抗うつ効果との関連があることがわかったそうです。これは、これまでの他の研究でも指摘されているように、ドーパミンが行動へ与える影響というのは複雑で多様であることが示唆される結果です。
チームはまた、前頭前野内で一時的に強化された神経可塑性(脳が必要に応じて自己再配線し適応する能力)の証拠も見つけました。この可塑性が、徹夜の抗うつ効果が数日間持続する理由なのかもしれません。
この研究から、Kozorovitskiy准教授は以下のように述べています。
私たちは徹夜後に起こる短期間のエネルギッシュで少しクレイジーな感覚を再現し、この気分のさまざまな側面を制御する重要なドーパミン作用機序を見つけたと考えています。この研究の主なメッセージは、私たちが人生において決めているカジュアルな選択でさえ、私たちの脳に劇的かつ迅速な影響を与えることを覚えておく必要があるということです。
気分障害に悩む人たちのための研究
徹夜をしたことがある人ならわかると思いますが、徹夜をすると最初のうちは気持ちも高ぶりますが、時間が経つと深い落ち込みがやってきて続きます。そして慢性的な睡眠不足は、気分障害の発症リスクを高めたり、症状を悪化させる可能性さえあります。
科学チームは徹夜を続けてハイな気分になることで、うつ病に立ち向かってと推奨しているわけではありません。しかし、こういった研究から得られた結果は、うつ病、双極性障害、および他の気分に関連する状態に苦しむ人々を支援する方法を理解するのに役立ってきます。まさにこれがノースウェスタン大学のチームが追求し続ける目標なのです。
Kozorovitskiy准教授は「気分の安定性の神経科学をより良く理解し、最終的には気分障害に苦しむ人たちを支援するためのより良い治療法の道を開くことを望んでいます」と述べています。