多発性硬化症のための薬が、アルツハイマー病の治療薬として使えるかもしれないという最新研究結果が公開されました。
研究を行なったのは、アメリカケンタッキー大学の科学チームです。
鍵となるのは「ポネシモド」
チームは、ポネシモドという成分がマウスとヒトの脳組織において、アルツハイマー病の患者に見られる有毒なアミロイドプラーク形成や炎症を抑える働きをすることを発見。
そこで、とある細胞受容体ミクログリアの働きが、アルツハイマーやその他の神経変性疾患に関わっているのではという仮説を展開して研究を深めました。
ミクログリアは、脳の免疫反応を制御し、有害老廃物を排出する働きがあります。ここで排出されるものの1つにアミロイドβというタンパク質がありますが、これが脳に溜まり、プラークと呼ばれる塊になってしまうとアルツハイマー病の原因に。
健康なミクログリアはこれが起きないよう働きますが、アルツハイマー病が進むことで、機能不全に陥ったミクログリアの生産を引き起こす可能性があるといいます。
研究チームは、過去の研究から、溜まってしまったアミロイドβが、Spns2という受容体を介して、ミクログリア細胞に悪影響を与えている可能性を検討。そこで、このSpns2を抑制する働きのある薬を使いこの一連の流れを止められないかを研究しました。
そう、長くなりましたが、その薬というのが多発性硬化症のための薬、ポネシモドです。
実験で用いられたのは、アルツハイマー病的疾患を発症したマウスとヒトのミクログリア細胞。両者において、ポネシモドは期待通りの働きを発揮。ミクログリアが引き起こす炎症を抑えるとともに、異常なアミロイドを脳から排出する能力を高めているようだとわかりました。
わかりやすく言うと、こポネシモドを投与したマウスは記憶テストの結果がよかったということ。これは、ポネシモドがアルツハイマー病の症状を抑制する働きがある可能性を示唆しています。
既存薬を使えば研究スピードが上がる
ケンタッキー大学のプレスリリースにて、研究論文を率いたZhihui Zhu氏はこう語っています。
これらのタンパク質の除去は、アルツハイマー病の治療において非常に大きな意味があります。我々の研究では、脳内の有害タンパク質を排出する神経細胞を保護する細胞へとミクログリアを再プログラムし、アルツハイマー病の神経炎症を軽減、マウスの記憶を向上させました
…つまりですね、すでに使用されているポネシモドが応用できるかもという研究結果により、アルツハイマー病治療への研究スピードが早まる可能性があるというお話です。また、アルツハイマー病の新たなメカニズムが解明される可能性もあります。
Source: University of Kentucky