科学界の巨匠に哀悼の念を。
スコットランドのエディンバラ大学は、クローン羊の「ドリー」を誕生させたイギリスの科学者イアン・ウィルムット博士が9月10日に亡くなったことを発表しました。79歳でした。
死因はまだ公表されていませんが、ウィルムット博士は長年パーキンソン病による闘病生活を送っていました。ロスリン研究所のBruce Whitelaw所長が声明で以下のように述べています。
イアンはロスリン研究所の素晴らしいアンバサダーで、彼の影響力は世界的でした。1980年代にドリーを生み出したチームを率いたことで、研究所、エディンバラ大学、そして一般の科学に多大な影響を与えました。私たちは最も有名な科学のパイオニアの一人を失ったのです。
クローン羊ドリーの生みの親
1996年に生まれたクローン羊のドリーは、成体体細胞によってクローン化された世界初の哺乳類で、科学界の革命的な出来事であるドリーを生み出した科学チームを率いていたのがウィルムット博士でした。チームの幹細胞研究は、再生医学の新たな可能性を導き出したのです。
遺伝子研究のパイオニアであるウィルムット博士の業績について、エディンバラ大学の学長兼副総長であるピーター・マシソン博士はドリーをクローン化することで「当時の科学的な考えを変革させた」と述べ、ウィルムット博士を「科学界の巨星」と呼んでいます。
さらに「この研究は、今日見られる再生医学の分野で成された多くの進歩を支え続けています」とコメントしています。
ちなみにドリーの名前はカントリー・ミュージックの歌手、ドリー・パートンにちなんで付けられました。
同時に議論も起こしたクローン製造
ウィルムット博士のクローン技術は、遺伝子組み換え動物を生産する可能性を広げました。同時にこの発見は、人間のクローン化の可能性についての懸念とパニックを引き起こし、当時のアメリカ大統領ビル・クリントンは人間のクローン化を禁止する提案をおこなっています。
1997年、クリントン元大統領はニューヨーク・タイムズの記事で「この技術は私たちの理想と社会の核心にある神聖な家族の絆を脅かす危険性がある。最悪の場合、特性を選択できるようになり、特定の種類の子どもを作り出すための悪意ある試みにつながる可能性さえあり、子供を個人としてではなく、モノとして見てしまうようになるかもしれない」と述べています。
ウィルムット博士は2008年にサー(Sir)の爵位を受け、2012年にエディンバラ大学を退職しました。自身がパーキンソン病と診断されたことを明らかにしたあとの2018年には、ウィルムット博士と彼のチームは、ダンディー大学と協力してパーキンソン病の研究イニシアティブを立ち上げています。
ロスリン研究所のWhitelaw所長はNBCニュースの取材に対して以下のように述べています。
イアン・ウィルムット博士の悲しい訃報とともに、科学界は誰もが知っている名前を失いました。イアンは、初のクローン哺乳動物であるドリーを生み出した研究チームを率いました。そして、社会が科学とどのように関わり、科学者が社会とどのように関わるかにおいて、非常にポジティブな影響を与えたのです。