宇宙探査の新時代は、月や小惑星の資源採掘という魅力的な期待も含め、新たな可能性を告げるようです。
エキサイティングに聞こえますし、大きな利益を秘めているとも感じられます。ですが、実際には宇宙資源採掘というものは完全に未知の領域なのです。
そもそもこれらの資源に採掘する価値があるのか判断するには、まだ多くの探査を行なう必要があります。
今後10年の間、NASAや協力する企業は再び月に目を向けることになるでしょう。
NASAは現在進めているアルテミス計画の一環として、2025年に宇宙飛行士の月面着陸を目指しています。宇宙飛行士が月面に着陸するのは、1972年の最後のアポロ計画以来初めてとなります。
宇宙には豊富な資源がある
この宇宙探査の新時代は、宇宙における人類の存在と経済の新時代の到来を告げるようなものです。地球からロケットで資源を打ち上げるのではなく、宇宙にある資源の採掘によって燃料が供給されるかもしれません。
月には、飲料水として再利用ができる水氷がおそらくあるでしょう。小惑星には、地球上でも売られているような貴金属がぎっしりと詰まっています。
しかし、人類はこうした可能性の表面をなぞり始めたばかりで、宇宙での採掘は未知の領域です。
宇宙には、人類が暗闇の中での探索や作業をしながら生き抜く、そして経済を繁栄させるのに必要な資源があります。
月では、大規模な氷の貯留層があり、採掘により飲料水や居住用の酸素にできます。
また、月面からロケットを打ち上げるための燃料製造にも利用できる可能性があります。
一方で、ヘリウム3や希土類元素、さらにちりの多いレゴリスもあるため、これらを考慮する必要があります。
小惑星は、プラチナのような貴重な元素の濃縮源です。これらが採掘され、地球に送られることで地球上で流通する可能性もあります。
これらの可能性と同時に、宇宙機関や民間企業はいずれも宇宙での生活の可能性を模索し、それが人類を進歩させる実行可能な機会だと考えているようです。
資源採掘の計画はまだ初期段階
宇宙機関や民間企業は、宇宙採掘に関して初期段階の構想を練り始めたところで、当面はざっくりとした計画として扱われるでしょう。
地球上から何かを打ち上げるコストは、依然として信じられないほどの資金が必要となります。
月や小惑星での資源採掘が可能となれば、宇宙での長期移住計画を進める上でかなりの近道になる可能性はあります。
さて、実際に計画を進めて採掘を始める前に、政府や企業がやることはたくさんあります。
たとえば、さまざまな資源を採掘するのに関連するコストの分析が必要です。資源の宇宙での処理や加工、または資源の地球への輸送、それらが経済的に実行可能かどうかの判断も必要となります。
彼らは、(少なくとも当面は)実行に移すには無理があると判断すると思われます。宇宙という過酷な環境で資源を採取するには、数十年にわたる概念実証が必要となりますし、それは悪夢と言ってもいいでしょう。
それでも、宇宙資源採掘の可能性を示す研究は数十年にわたって進められており、そのすべてはかの有名なアポロ計画の時代から始まりました。
「現地にある資源利用」というNASAのミッション
コロラド鉱山大学宇宙資源プログラムディレクターのAngel Abbud-Madrid氏は、米Gizmodoの電話取材に対し
SFレベルの話ではなく、月からの資源について真剣に議論がされた最初の会議は1962年11月でした。
と語りました。
NASAは当時アポロ計画を立てており、宇宙飛行士には酸素の安定供給が必要と認識し、月面から直接酸素を採取することが検討されたと、Abbud-Madrid氏は説明しています。
さらに、
人類がそこにいたのはほんの数時間、数日だったため、そうした状況にはなりませんでしたが、現地で(つまり月面で直接)資源が必要であるという認識は存在していました。地球から何かを打ち上げるには、非常に高いコストと高エネルギーを必要とするからです。
とも語りました。
NASAでは「採掘」という言葉は、宇宙での資源採取と利用を包括的に表現する言葉として使われません。その代わりに「現地にある資源利用(ISRU)」という表現を使います。
この言葉は、月面での資源を採掘するプロセスだけでなく、それらの原材料を用いて新たなプロダクトを生産することも指します。
宇宙でのインフラ構築が必要
たとえば、氷で考えてみましょう。
月の永久影の領域では、土壌の中に凍った状態の水があるとされています。さらに遠くない未来に、月面の宇宙飛行士がそうした水の貯留層を採掘し、氷を溶かして飲料水として補給することになるでしょう。
その水は月面で酸素と水素に分解され、居住地や基地に呼吸可能な空気として供給されたり、ロケット燃料や推進剤の合成に使用されたり、といった可能性を持ちます。
民間宇宙開発企業であるIntutive Machinesの主任研究員のBen Bussey氏は、
ISRUとは、何かを採掘して、地球に持ち帰ることを意味しているのかもしてません。一方で、それは月での活動を容易にするインフラの構築などを意味する可能性もあります。
と、米Gizmodoの電話取材で述べました。
宇宙飛行士はISRUをさらに一歩進めて、月の土壌から金属を採取し、居住地や打ち上げ設備などのインフラの構築もできるかもしれません。
それについて、NASAジョンストン宇宙センターのISRUシステム責任者であるJerry Sanders氏は、月の土壌にはアルミニウムや鉄、チタン、シリコンなどが含まれていると述べています。
さらに、これらの金属はレゴリスから加工され、より純度の高い形に鍛造されることで設備建設に使用される可能性もあるといいます。
レゴリスは、土壌の珪酸塩鉱物内に元素が閉じ込められているため、酸素の供給源としても期待されるそうです。
Sanders氏は
すべてのレゴリスには、質量に対し約42~44%の酸素が含まれています。つまり、レゴリスの処理によって大量の酸素が得られるということです。
とも語りました。
NASAは宇宙資源採掘の基礎を構築中
2025年にアルテミス3号が打ち上げられるまで、宇宙飛行士が月面に降り立つことはありません。しかし、NASAはすでにISRU運用の初期計画を立てているそうです。
前述のSanders氏は、月の表面に存在する水を探索するミッションである「ルナー・トレイルブレイザー」についても説明しています。
ルナー・トレイルブレイザーの衛星は、軌道上から赤外線分光計を利用し、月の表面の水氷を探索するのだといいます。赤外線は水に吸収されるため、科学者は探査機からの測定値を用いて、氷の分布やその層の大きさなどを特定できるとのことです。
一方で、同様に月面の水の探索を目的としているNASAの探査機「VIPER」のミッションでは、月面を掘削して水氷を直接見つけて分析します。ルナー・トレイルブレイザーとVIPERは、それぞれ2024年初頭と後半に打ち上げ予定です。
この最初の探査ミッションが完了すれば、数十年後にはISRU運用はさらに大規模になっていくでしょう。
Abbud-Madrid氏は
将来的には大規模な運用が行なわれることになるでしょう。その頃には、掘削を繰り返して特定のプラントに資源を輸送する機械も開発されているはずです。
と語りました。
続けて
宇宙にいる人々すべてが電力や通信、輸送を必要とします。それはつまりそうしたインフラはすべて現地に存在していることを示します。
とも述べました。
政府機関と民間企業の連携
NASAはISRUの可能性を探るために独自のミッションを計画しているわけですが、同時に民間企業もいくつかの計画を示しています。NASAはこれまでも宇宙開発において民間企業などと協力や時に業務の委託もしてきました。
たとえば、SpaceXのロケットが政府機関のペイロードを軌道に届けたり、Axiom Spaceがアルテミス計画用の新しい宇宙服を設計しています。
そうした場合、NASAは宇宙開発企業が従うべき、ある種の開発フレームワークや出発点を設定してきました。
しかし、ISRUに関してはまったくの未知のもの。Sanders氏は、民間による宇宙産業はまず月での採掘が物流的に可能かどうか判断する必要がある、と述べています。
Sanders氏は、
(NASAの)目標を達成するためには、官民の連携と商業的な関与がますます重要になってきています。(ISRUを)完全に商業化する前に、NASAと産業が破産することなく十分に安心して仕事を引き受けられるように、全体の技術ポートフォリオを引き上げるような基礎的な支援が必要となります。
と述べました。
小惑星採掘の見通し
前述のように、月面は水や酸素、そしてアルミニウムや鉄などより一般的な金属の供給源となる可能性があります。一方で、小惑星は貴重な元素の供給源となるかもしれません。
たとえば、プラチナやニッケルは金属の小惑星の中心に集中しています。
Abbud-Madrid氏が説明によれば、小惑星が成長するにつれて重力が増加し、密度の高い元素は小惑星の中に引き込まれるといいます。
これらが採掘されると、こうした金属は地球に輸送され、さまざまな産業に売られることになるでしょう。それを念頭に置いて考えると、小惑星は資源採掘の格好の的のように思えますが、NASAは現時点で小惑星を視野に入れた計画はないとのこと。
Sanders氏は
NASAは現在、月に焦点を当てています。なぜなら、月は短期での投資収益率が高いと考えられるからです。
と語りました。
政府機関は月に注力していますが、一部の民間宇宙企業は月よりも小惑星を支持しています。
カリフォルニアの民間企業のAstroForgeは小惑星採掘を主な事業としていて、2022年に1300万ドル(約19億2000万円)の資金調達をしました。
報道によれば、同社は小惑星に着陸して直接掘削するのではなく、直径20~1,500mの小惑星を宇宙でバラバラにして採掘するという方法を計画しているそうです。
米GizmodoはAstroForgeの共同創業者のMatt Gialich氏にも取材しています。同氏は、
白金族元素はあらゆる面で使用されています。自動車の排気ガスを削減し、化学療法薬にも、一般的な家庭にある電子機器にも、これらが多数含まれています。私たちの本当の夢は、これらの資源を深宇宙で利用することです。
と述べました。
今年1月、AstroForgeは2023年に予定している2つの打ち上げ計画を発表しました。AstroForgeは4月に同社の軌道上抽出技術を検証するために、OrbAstroと協力して模擬小惑星となるサンプルを事前に装填したロケットを打ち上げる予定でした。
AstroForgeの広報担当者は米Gizmodoに対してメールにて、「Brokkr-1」と呼ばれるこのミッションは「打ち上げに成功して、無事です」と述べています。
現在、もう1つのミッションが2023年10月に予定されており、OrbAstro、Intuitive Machines、Dawn Aerospaceといった企業と提携し、深宇宙の小惑星を観測する予定だといいます。
月や小惑星の採掘にはそんなに価値があるの?
さて、結局のところ宇宙資源採掘には、必要な投資に見合う価値はあるのでしょうか? 答えはおそらく「YES」です。ただし、考慮すべき要素があります。
月には長期居住を可能にする資源があり、小惑星には地球上で広く必要とされる貴金属が豊富にあります。ですが、これらの“商品”の市場がなければ宇宙資源採掘産業は繁栄していきません。
たとえば、月面に定住するために月のレゴリスから加工された酸素を購入しようと目論む国があったとすれば、レゴリスを採掘する需要は促進するでしょう。
同時に、宇宙資源採掘に興味を持つ機関や企業は、関連する資源の基本的なコストと収益について分析することになります。資源の入手が難しかったり、あるいは顧客を捕まえるのに苦労したり、そうした場合はビジネスは成功しませんよね。
こうした観点に関してBussey氏は
資源の探査や検証などが地球上でどのように行なわれるかについては、スタンダードなプロセスが存在します。何かを見つけ、それを抽出して利用することが経済的に実行可能かどうかを判断する、ということです。
何かとてもいい源泉を見つけたとして、そこから何かを実際に手にするは難しい、といった場合もあります。それと同じことが月においても当てはまると考えます。
と語りました。
さて、宇宙採掘者がその資源を経済的にみても問題ないと判断し、顧客も喜んで支払う、と仮定してみましょう。そうなれば当然、宇宙資源採掘産業は確立し、さらには拡大していくことでしょう。この拡大はさらなる経済の拡大に波及していきます。
この産業において、電力、採掘設備、配送、人員などなど必要なものはありますが、それらはすべてほかの企業によって提供されることにもなるかもしれません。
Abbud-Madrid氏は、こうした事情についてカリフォルニア・ゴールドラッシュを例に出し次のように語りました。
1800年第に人々が金を求めて西部に採掘にやってきたとき、このようなことがありました。鉱山労働者に対してシャベルやピッケル、斧などを売り、彼らからお金を稼いだ人々がいたのです。
夢物語のまま終わらない
月の土壌からロケット燃料を作り出したり、小惑星から採取したプラチナを販売したり、こうした構想は夢物語に過ぎず、実現可能とは思えません。
しかしながら、極めて小規模だったとしても、私たちが生きているうちに宇宙資源採掘はほぼ確実に行なわれると考えていいでしょう。
宇宙には、強大な金銭的インセンティブをもった資源があることを示していますが、今のところその資源の採掘による経済は具体化していないといえます。
それでもなお、文明は人類の誕生以来、その土地に根ざして成長してきました。私たちが長期的な宇宙居住や宇宙探査が目指していくとすれば、月や小惑星を利用することもそこ根ざして生活するために目指すべきものになるでしょう。