ウェッブ宇宙望遠鏡、木星のふたつの月で新たな発見

殺菌剤と、火山性ガスと。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(以下ウェッブ望遠鏡)の早期成果報告プログラムから、2本の論文が発表されました。どちらも木星の月の観測結果で、ひとつはガニメデ、もうひとつはイオに関するものです。

ガニメデの観測結果は米国コーネル大学の天文学者・サマンサ・トランボ氏らによるもので、Science Advancesに掲載されました。ガニメデの大気から、過酸化水素を初めて検知したことを報告しています。もうひとつ、JGR:Planetsに掲載された論文では、イオでの一酸化硫黄発生のメカニズムに迫る観測結果が報告されています。

どちらの研究も、2021年末に打ち上げられたウェッブ望遠鏡により実現されました。またどちらも、木星がその月に及ぼす強大な力と関連する内容となっています。

「今回の発表は(ウェッブ望遠鏡によって)太陽系の天体に対し素晴らしいサイエンスを実践できることを示しています。木星のように非常に明るい天体に対しても、木星の隣のかすかな星に対しても可能なのです」カリフォルニア大学バークレー校の天文学者、イムケ・デ・パテル氏はプレスリリースでコメントしています。

ガニメデの極地方に殺菌成分

ガニメデの観測では、研究チームはウェッブ望遠鏡のNIRSpec(近赤外線分光器)を使い、ガニメデの極地方で光が過酸化水素(H2O2)に吸収される様子を観測しました。過酸化水素は、地球上では殺菌や漂白に使われていますが、ガニメデ上にも存在するんですね。論文によれば、ガニメデ上の過酸化水素の由来は、木星とガニメデ周辺の荷電粒子と、ガニメデを覆う氷の間の相互作用なのです。

研究チームは、ガニメデの過酸化水素生成の背景には放射性分解(放射線が分子を分解するプロセス)があると言います。「太陽からの荷電粒子が、地球の磁場により高緯度へと誘導されてオーロラになるように、ガニメデの磁場も木星の磁気圏から来る粒子に対し同じことをしているのです。これらの粒子は、ガニメデではオーロラになるだけでなく、氷の表面にも影響を与えています」とトランボ氏は説明します。

過酸化水素はこれまで、木星のもうひとつの月であるエウロパにおいても、その表面の大部分で検知されています。これは、向かってくる高速の粒子から表面を保護する磁場が、エウロパにはないことも理由のひとつです。

イオを取り囲む火山性ガス

もうひとつの論文では、イオにおける複数の火山活動を詳細に報告しています。ロキ・パテラ(火口)での明るい光や、カネヒキリ・フルクトゥス(溶岩流)での非常に明るい噴火などが観測されました。イオには太陽系の衛星で唯一火山活動が存在し、その火山活動は、木星の強大な重力で起こる潮汐加熱という現象で引き起こされています。重要なのは、デ・パテル氏ら研究チームが、とくにカネヒキリ・フルクトゥスでの噴火を一酸化硫黄(SO)と関連付けたことです。

「こうした排出・放射が活火山の上で確認されたのはこれが初めてであり、このような排出は噴火口を出た直後の(一酸化硫黄)分子によるものであることを示唆している」と論文にはあります。この観測は2022年11月15日、イオが木星の影にいたときに行なわれたため、木星からの光でイオが発する光がかすまずに検知できたのです。

イオの大気の大部分は、二酸化硫黄の氷が溶けて気体化したものでできています。火山からは一酸化硫黄も噴出されていますが、一酸化硫黄の検知は通常だと困難です。でもイオが木星の影に入ると大気が凍り、一酸化硫黄と新たに噴出する火山の二酸化硫黄だけが大気中に残ります。このときの一酸化硫黄の輝きで、観測が可能になったのです。

デ・パテル氏は20年ほど前にイオを観測した際、全体に薄い一酸化硫黄を検知しましたが、それを火山活動とは結び付けられませんでした。彼女はこの一酸化硫黄の出どころを、塵は出さずガスだけ発する火山に求めています。当時彼女らは、一酸化硫黄を検知できるのは高温の噴火口のみで、かつ薄い大気の中では特定の波長の光を発しうる程度に長く存在しうるのではないかと示唆していました。

「一酸化硫黄と火山が結びついたことで、我々が2002年に立てた仮説とあわせて、一酸化硫黄発生を検知できる根拠の説明になります」とデ・パテル氏。「この(一酸化硫黄)発生に対して可能な唯一の説明は、一酸化硫黄が噴火口で1,500ケルビン(華氏2,240度=摂氏約1,200度)程度で励起され、励起状態で噴出して光子を数秒で失っていく、それが我々に見えているというものです。だから今回の観測では、我々に一酸化硫黄が見えるもっともらしい仕組みを、初めて実際に示せたのです。」

デ・パテル氏はまた、ロキ・パテラが光った現象は、500日に1回・2〜3カ月間という噴火周期と合致したとも言っています。

ウェッブ望遠鏡からは、1000万光年以上遠くの銀河についても、地球と同じ太陽系の天体についても、新たな報告が続いています。

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