今年の7月はマジで気になる映画が豊富だ。ジブリの『君たちはどう生きるか』はオフィシャルに “宣伝なし” でもメディアに宣伝されまくっており、トム・クルーズの『ミッション:インポッシブル / デッドレコニング PART ONE』は興行収入トップ争い待ったなしだろう。
恐らくその手のタイトルと競合することは、映倫的にもジャンル的にも無縁……だと思うが、クレイジーさでなら今年の夏の覇者になれそうな映画がある。『マッド・ハイジ』だ。
公式の予告編にも“『アルプスの少女ハイジ』が18禁で帰ってきた!”とある通り、あのスイスの国民的児童文学が原作である。いや、帰ってきたじゃねぇよ! スイス人に怒られて反省しろ!!
・ハイジ
と思ったが、監督もプロデューサーもスイス人だった。じ、自分らでやりやがった感じかぁ……。それなら仕方ない。
おおむね公式HPや予告編に登場する範囲で概要を説明すると、舞台は何やらナチス的な独裁政権に支配されたスイス。
大統領のマイリはチーズ会社の社長でもあり、自社製品を除くチーズを禁じ、乳糖不耐症の人々を迫害するという邪悪な恐怖政治を敷いている。彼が本作のラスボス的存在だ。
そんなスイスでも、恋人のペーターや おじいさん と共に、アルプスでそれなりな暮らしをしていたハイジ。しかしある日、ペーターが闇チーズの売買に手を染めていたことが発覚。
すぐに兵士たちに追われ、処刑されてしまうペーター。ハイジもペーターと近しいものとして追われてアルプスまで逃げ帰るのだが、なんやかんやで抵抗した おじいさん が小屋ごと爆死。
こうしてマッドになったハイジは色々あって戦う力を身につけ、国家への復讐を誓って立ち上がるのだ。
・極上のB級
映画の公開は2023年7月14日から(劇場による)で、13日には舞台挨拶付きの先行上映会も決定しているそう。監督も来日するらしく、日本での公開に気合が入っている。ズイヨー映像のアニメ版は、日本のアニメ史上レジェンド級の知名度だしな。
私は一足先にオンライン試写で視聴させて頂いたが、まあ酷い(いい意味で)映画だった……!
狂った常識と狂った人々で構成される狂ったスイス。とにかく力の入ったエロ・暴力・グロ。
全てが酷いが、特にチーズ(スイスの国民的食品)の扱いは全チーズ関係者からブチ切れられてもおかしくない芸術的な領域に至っている。
チーズだけでなく、隙あらばチョコレートやヨーデル、スイスの某アーミーナイフ、そして隣国のフランス人なども、だいたい怒られそうな感じで登場させるのも芸が細かい。
ビジュアル面だけでなく、展開の仕方にもほど良く香ばしいツッコミどころに満ちており、B級映画に欲しいフレーバーが全部盛り。
絶対に子供には見せられない、下品なセリフときったねぇ映像ばっかな18禁映画だが、B級としての仕上がりは極上だ! この美味さはチーズ界におけるスイス産チーズに匹敵しよう。
なお、ある程度は本当にブチ切れる人がいたらしく(うん、まあ、せやろね)、プロデューサーのヴァレンタイン・グルタート氏へのインタビューで苦労が語られていた。
具体的には、映画に反対する人々からスイス国内の衣装屋に対し、映画のために素材の販売をしないようメールが送られたり、プライベートでの本作への関与を上司に知られた脚本家が仕事をクビにされるなどしたもよう。
しかし彼らはクラファンで集まった約3億円にもなる世界中からの支援を手に困難を乗り越え、この1本を作り上げたそうだ。製作の裏話が微妙に感動的なのはずるいですね。
ということで、18歳未満には見せられないし、18歳以上でも色々と繊細な方には到底お勧めできない。
しかし、この手の映画を好んで食する人々にとっては、間違いなく今年の夏のマストな1本だ! ところで、見たらマジでスイスのチーズ食いたくなったんですけど、わりとスイス産チーズの販促効果はあるかもしれないっすね。
参考リンク:マッド・ハイジ、Twitter @madheidi_jp
執筆:江川資具
Photo:©SWISSPLOITATION FILMS/MADHEIDI.COM、配給:ハーク/S・D・P