映画「バイオハザード:デスアイランド」監督・羽住英一郎&脚本・深見真&スーパーバイザー・川田将央インタビュー、主人公格5人勢ぞろい作品はどのように作られていったのか?

GIGAZINE



「バイオハザード」シリーズの長編CG映画「バイオハザード:デスアイランド」が本日・2023年7月7日(金)から公開となりました。本作にはクレア・レッドフィールドとレベッカ・チェンバースも登場。クリスやレオン、ジルと合わせて、ゲームの主人公格キャラクターが集結して戦う作品となっています。この大作はどのように作られたのか、監督の羽住英一郎さん、脚本の深見真さん、カプコンのゲームプロデューサーで映画のスーパーバイザーを務める川田将央さんに話をうかがいました。

映画『バイオハザード:デスアイランド』公式サイト
https://biohazard-deathisland.com/

GIGAZINE(以下、G):
羽住英一郎監督はNetflixで配信されたCGドラマ「バイオハザード:インフィニットダークネス」に引き続いての参加、脚本の深見さんはCG映画シリーズの前作「バイオハザード:ヴェンデッタ」からの参加ということですが、本作にはそれぞれ、どのように声がかかって参加することになったのでしょうか。

脚本・深見真さん(以下、深見):
自分はトムス・エンタテインメントの篠原宏康プロデューサーから声をかけられました。「もう1本、CGアニメをやりませんか?」と。それで呼ばれてこの企画に入りました。

G:
監督はいかがでしょうか?

羽住英一郎監督(以下、羽住):
「インフィニットダークネス」がちょうど完成したときですね。仕上げが終わったときに「ヴェンデッタの続編の映画をやっているんだけれど、やりませんか」という話をいただいきました。そのときには、もう深見さんが初稿を上げていて、いわゆるアルカトラズが舞台であるということはもう決まっていました。

本作の舞台となる監獄島・アルカトラズ。


G:
スーパーバイザーである川田さんはどうだったのでしょう?

カプコンゲームプロデューサー・川田将央さん(以下、川田):
僕はもともと、いろいろな素材提供や監修などで協力させてもらっていましたが、社内で役割の入れ替えがあって、「ちょっとやってみないか」とお鉢が回ってきました。羽住監督がおっしゃったように、すでに脚本ができていて方針も固まっていて、あとは仕上げに協力するという形でしたので、作業内容としてはそれまでと大きく変わらずに対応していったという感じです。

G:
なるほど。続いては羽住監督への質問です。監督は2021年に「インフィニットダークネス」についてORICON NEWSのインタビューを受けていて、「今回、心がけていたのは、実写でできないことはしないということ。フル3DCGなので、やろうと思ったら何でもできちゃうんですよね。実写でもここはVFXを使うな、というところ以外は、実写の撮影手法にこだわりました。そこに今回、僕が参加する意味もあるかと。キャメラが入れないところには入っていかない、といった実写の撮影に近いキャメラワークやライティングに極力寄せて、作り込んでいきました」と答えておられます。本作でも、たとえば「キャメラで撮影できないようなアングルはやらない」といった点は徹底されましたか?

羽住:
実写の映画でもフルCGカットなどがあった時に「これは撮影できないだろう」というアングルのカットなどがあるとすごく違和感があってあまり好きじゃないんです。前作ではその点で、CGスタッフの皆さんに「こういうレンズはこんな狭い場所では使えない」という話や、ライティングについても「この場所ではこんなライティングは不可能だ」ということも伝えたりしながら一緒に作っていたんですが、今回はその時とほぼ同じスタッフで作ることができたので、最初からそういった実写風なアプローチをしてくれて、すごくスムーズでした。

G:
なるほど、そういう感じだったんですね。同じインタビューでは「既存の『バイオハザード』作品との世界観、この頃何があったかという時系列的なものと整合性をとりつつ、世の中に知られていない前提であれば大きな事件が起きていたことにしてもOKなど、ルールが明確だったのでとてもやりやすかったです」いう話も出ていましたが、なにか他にも現場でルールのようなものはありましたか?

羽住:
うーん……?

深見:
ありましたかね?

羽住:
それこそ、バイオハザードにおいてはっきりと決まっている「やっちゃいけないこと」というのはありました。それ以外だと、「バッファーを残しておかないといけない」というところでしょうか。

G:
全部ガチガチにしてしまわないこと、と。そういう点については川田プロデューサーから伝えるのでしょうか?

川田:
カプコンとしてはそういうスタンスですね。あまり明確にしてしまうとゲーム制作や映像制作で食い違いが発生する恐れがあるので、バッファーは確保するようにしております。

G:
なるほど。続いて深見さんにうかがいます。執筆した脚本について「こういうのはダメです」と言われた点があるということを過去に受けたインタビューを読んでいて見かけましたが、本作ではそういった修正点というのはありましたか?

深見:
小ネタを入れることでバッファーがなくなってしまうことがあって、バッファーを残すために修正が入った点はありましたね。「原作ネタを入れすぎるのはよくない」ということで。

G:
深見さんは過去のインタビューでもTwitterでも、バイオハザードの大ファンであることを公言されています。

ありがとうございます! バイオハザード原作ゲームの大ファンなので本当にありがたいお仕事だと思っております。公開時にはよろしくお願いします!

— 深見 真 (@fukamimakoto)


G:
そもそもバイオハザードをプレイするようになったのはどういうきっかけだったのですか?

深見:
「ショットガンやハンドガンでゾンビの頭を吹っ飛ばす」以上に楽しいゲームって、この世にないんです。

G:
(笑)

深見:
そのジャンルを代表するのがバイオハザードですし、今はデッドアイランド2というゾンビゲーをやっています。常にゲームではゾンビをバラバラにしています。このジャンルは自分としては一生やっていられるゲームで、その開拓者であるバイオハザードには感謝しかありません。

本作にも銃器はばんばん登場します


G:
そういうことなんですね(笑) ゲームでゾンビを吹っ飛ばす以外に、海外の射撃場で実銃を撃ったこともあるというのを見かけました。アニメイトタイムズのインタビューでは「年イチで、主にグアムに撃ちに行ってます」「銃って実際に撃つと、『すごいもんなんだなぁ!』って思えますよ」という話が出ていました。この、射撃場に行くきっかけも何かあったのでしょうか?

深見:
これは、押井守監督ですね。自分の銃の師匠は押井監督でして、とある仕事でご一緒したときに「銃を撃ったことがない」というと「それはいかん」と、すごくいいシューティングレンジがあると誘ってくれたのがきっかけです。

G:
そういうところからのつながりが。本作の前に参加した「ヴェンデッタ」の時はTwitterでオファーがあったとのことなのですが、どのように来るものなのですか?

深見:
「ヴェンデッタ」の時はプロデューサーの篠原さんがフォローしてくれて、DMで依頼が来ました。「アニメーションプロデューサーの篠原と申します。今回こんなお仕事があるんですが」と。

G:
深見さんのお仕事は、直近で「PSYCHO-PASS サイコパス」の劇場版があって、テレビアニメの「天国大魔境」もあって、とすごく多忙に見えます。実際、Twitterでも何ヶ月かに1回ぐらい、締め切りが大変そうなツイートがありますけれど、お仕事は自分から企画書を出したりプレゼンしたりするものとオファーを受けるものと、どちらが多いですか?また、オファーの形態は何が多いですか?

深見:
メールでオファーをいただくことが多いですが、最近の事例だと、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」Blu-ray&DVD特典のスペシャルドラマCDの脚本の場合は、自分がガンダムエースに連載を持っていて、その編集者さんのところにオファーが来たという形でした。

G:
羽住監督は以前、「OVER DRIVE」を撮ったときのインタビューで、映画化は小学生時代からモータースポーツファンだった羽住監督にとって念願だったという話をしていました。本作でも冒頭からのチェイスシーンをはじめとして、バイクが活躍するシーンがありますが、何かこだわっていた部分はありますか?

羽住:
バイクのアクションは見るのも好きなんですが、やっぱり実際の撮影でやれるとうれしいものです。でも、実写でやろうとすると物理的に大変で。道の封鎖とかも必要になってきて、時間もかかるんです。そういった手間がCGだとかからないのがいいですね。

G:
本作のチェイスシーンで、実写でもやってみたいというものはありますか?

羽住:
いざ作ってみて、こういうシーンはやっぱり面白いなと思ったのはクライマックスのところです。……ただ、実写でやることはまず不可能ですね(笑)

G:
確かにそういうシーンですね(笑) 深見さんも、作品には自分の好きなシーンであるとか好みのものを入れるということを語っているインタビューを目にしました。本作だと徹頭徹尾「バイオハザード」感が満載でしたが、どういったところに好きな要素を盛り込みましたか?

深見:
本作の場合だと、悪役のセリフ回しですね。仕上がってみたら自分の中でもすごくしっくりとくるものになっていて、監督に感謝です。

G:
「ヴェンデッタ」のときに深見さんはカプコンの当時の担当と対談をしていて「悪役が強い点が最近のバイオの魅力だと思います」と語っていました。本作でも敵の強さはそのあたりを意識したのでしょうか。それとも、書き上がってみると結果的にあの強さになったというところなのでしょうか。

深見:
敵の強さに関しては正直なところ、監督とアクション班の方々にお任せという感じでした。そういう意味ではアクションよりも、この5人の人気キャラを動かすのが楽しかったですね。

人気キャラ集結は本作のポイントの1つ


G:
本作は主人公キャラが勢ぞろいのオールスター感があります。こういった作品の脚本を書くにあたって大変だったことはありますか?

深見:
一番大きかったのはやっぱり「レオンとジルは初対面なのかそうじゃないのか問題」をはじめとした整合性の問題です。初対面だと一体どれぐらいの距離感なのかという点には気を遣いました。「そこはゲームでやりたい」という方もいると思いますし、そうなるとレオンとジルがあんまり親しく距離感を詰めてしまうと、ファンとしては違和感が出る。違和感は出ないぐらいで、でも初対面ではないというぐらいの空気感はどれぐらいだろうかと、そういった点は難しかったですね。

ジルはゲーム1作目、レオンは2作目から登場していますが、こうして並ぶのは実はレア。


G:
同じインタビューでは、「言葉や行動がそのキャラクターとぶれていないかチェックしていただき、すごく助かりました。」との話もありました。初期の脚本ではファンとしての思いが強く出た部分が修正されたというような話もありましたけれど、本作はそういった点はスムーズでしたか?

深見:
2回目なので、言葉遣いに関しては大丈夫でした。最初はレオンが敵に「ぶっ殺してやる!」と言ったりして「これは違います」と言われましたが(笑)

G:
川田さんの目線からはどうでしたか?

川田:
はい、大丈夫だったと思います。1回、英語のシナリオにして、それをボイス収録用に日本語に変換したものをチェックしました。何点か手は入れたものの、それほど大きな変更点はなく、さすがだなと思いました。

G:
羽住監督は「太陽は動かない」のときにWOWOWのインタビューで、エンターテインメントについて「ドキドキ感とワクワク感をいろんな人に味わってもらいたいという思い」という話をしていました。これまでいろいろな映画を撮ってきた羽住監督の経験から、本作のような特にエンタメが求められる作品において「こういう部分が大事だ」と考える部分はどういった点なのでしょうか。

羽住:
最近は映画を劇場で見る必要がなくなってきていますよね。サブスクですぐに見れちゃうし、家のモニターもどんどん大きくなっていると思うし、音もよくなっているし……なかなか、劇場に行く機会を作れないかもしれない。そういう意味では、本作は大勢で見に行って楽しめる映画だと思います。予備知識がいっぱいあればあるほど楽しめるので、ゲームをプレイしてきた人はそれだけ楽しみが多いはずです。一方で、見に来る人は全員ゲームをプレイしていないとダメかというとそういうことはないです。さすがに、ゲームも最初のシリーズから通して全部やっているという人ばかりではないと思うので、知らずに見ても、すべての時系列がしっかりとつながっていて楽しめると思います。

G:
同じインタビューでは、編集途中で「野面(のづら)プレビュー」をするという話が出ていました。映画を作っているとき、プレビューではまっさらな気持ちで作品を見ようと思うけれども難しいので、原作を知らず作品にスタッフィングされていない人と一緒に見ると。本作でもそういったことは行ったのでしょうか?

羽住:
いえ、やっていないです。野面プレビューは実写だからこそできることといえますね。素材が山ほどあって、そこから本を変えることもできるからこその手法です。フルCGだと決めたものしか作っていませんから、野面プレビューをしてゼロに戻ることはできないので。そこはちょっと、実写とはアプローチが異なる部分です。

G:
確かにそうですね。そうなると、やり直しというか編集部分の自由度が低い分、実写とは違って事前の段取りというか仕込みというか、そういう部分を細かくやっていくことになるのでしょうか。

羽住:
そうですね……実写の場合、経験を積んでいくと、自分としては「ここしか使わない」と思っていても、ちょっと長めに撮っておくようになるんです。自分の考えが変わる可能性もありますから。撮っておくことで、ある程度編集した後に「野面プレビュー」をやって「こう変えよう」と思ったとき、素材を引っ張り出して変えることができます。

G:
なるほど。

羽住:
CGの場合、編集のことはもっと早い段階で考えておかないと、作り込んでから変更となると大騒ぎになってしまいます。各段階ごとの締め切りがちょっと違う感じですね。その代わり、芝居を撮るとき、キャメラアングルを決めておかなくても後から決められたりするんですよね。これは実写ではあり得ないじゃないですか。実写だとキャメラの位置は撮ったその位置しかないですから。

G:
確かに。再び深見さんにうかがいます。noteの「物語のつくりかたRADIO」に作家のアサウラさんとともに出演した際、子どものころに読んでいた本の話が出ていました。小学生のころは司馬遼太郎さんの作品、中学生のときには「スレイヤーズ」や船戸与一さん、平井和正さん、秋津透さん、倉田英之さんなどの名前が挙がっていました。こういった本は、新刊を買って読んでいたのでしょうか?それとも、古本屋や図書館を利用していたのでしょうか?

深見:
親父が小説家志望だったけれど小説家にならなかったという人だったので、蔵書を読んでいました。

G:
おおー、家の本棚が結構充実していたという感じですか。

深見:
そうかもしれません。小学校6年生のころに三島由紀夫の全集を読んでいて、国語の試験では満点以外を取った覚えがないぐらいです。

G:
すごい……。実際、このころから学級新聞に連載小説を書いていたとのことで、もう執筆活動もスタートしていたと。

深見:
幕末もの、時代劇を書いていました。「燃えよ剣」がすごく好きで、書くのも読むのも大好きでした。

G:
いまはガンアクションが多いかなと思うのですが、銃に入っていったのはどのあたりからなのでしょうか?

深見:
中学生のころです。香港ノワールを見て、ジョン・ウーにハマったんです。その前に小学生のころ、「ダイ・ハード」を見てショックを受けたんです。ちょうど家庭用のビデオデッキが出てきた時期だったので、レンタルビデオショップに行ったら、一角に香港映画コーナーができていて、そこで「男たちの挽歌」に出会いました。そうやって、レンタルショップで昔公開された映画を見ていました。熊本生まれ、香港映画育ちという(笑)

G:
なるほど(笑) 並行して、ゲームもやっていた感じでしょうか。

深見:
そうですね、小さいころからファミコンはやっていましたし、「この子のところに遊びに行けばメガドライブがある」「こっちはPCエンジン」みたいに、友達の家で遊んだりもしていました。ゲームはずっと好きでしたね。

G:
羽住監督は、映画を見るようになったのはどんなタイミングでしたか?

羽住:
レンタルビデオ店ができたのは高校か大学ぐらいのことで、それまでいわゆるリバイバル上映かテレビで見るしかなかったですから、中学生のころは名画座みたいなところで見ていました。

G:
そういえば、過去のインタビューではあまり話に出ていなかったと思いますが、羽住監督はゲームはやる方なのでしょうか?

羽住:
これが、まったくやらないんです。

G:
そうなると、最初にバイオハザードについての話が来たときは驚いたのではないですか?

羽住:
周りで騒ぎになっているころ社会人でしたが、横目で見るような感じで、ゲーム自体はやらないから「何の話だろう?」と思っていました。オファーをいただいた時点では、作品についてはうっすらとわかるぐらいのところで、レオンなどの名前は知っていました。最初、トムスの篠原さんからお話をいただいたとき、僕が刑事ドラマの「MOZU」をやったあとで、その感じでバイオハザードを撮って欲しいということだったので、資料をいただいて勉強しました。事件の名前とかが魅力的だなと思いました。

G:
最後にお三方から、本作についてこういったところを見て欲しいというのがあれば教えていただきたいです。

深見:
とにかく、かっこよくて迫力があるので、あのシーンを作ってくださった監督とアクション監督には感謝しかありません。ぜひ大スクリーンで楽しんで欲しいです。

羽住:
メインキャラクター5人が集まった作品なので、アトラクションを体験しに行くような感覚で、友達や仲間を誘って見に行って盛り上がってもらいたいです。映画を見ている最中ももちろんですが、見終えた後もゲームや過去作と合わせて盛り上がってもらえるといいなと思っています。

川田:
予告編を見たとき、ゲームを好きな人がすごく食いついてくれて、反応は過去1番というぐらいだったと思いますし、僕自身もその熱を感じています。本作は、今までのバイオハザードの映画とはまた違うスタンスのものができたと思います。ジルがCG作品で初めて登場したり、5人のキャラクターが集結したりというのも特徴で、すごく密度の高い映像に仕上がっていると思いますので、ぜひとも期待していただきたいです。

G:
本日はありがとうございました。

映画「バイオハザード:デスアイランド」は2023年7月7日(金)から好評上映中です。主要キャラクターにスポットを当てたPVは以下。

映画『バイオハザード:デスアイランド』キャラクターPV:レベッカ – YouTube
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映画『バイオハザード:デスアイランド』キャラクターPV:クレア – YouTube
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映画『バイオハザード:デスアイランド』キャラクターPV:クリス – YouTube
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映画『バイオハザード:デスアイランド』キャラクターPV:レオン – YouTube
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映画『バイオハザード:デスアイランド』キャラクターPV:ジル – YouTube
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