韓国天主教「処理水の海洋放出」反対:IAEAは処理水に問題がないと評価

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東京電力福島第一原発事故で生じた処理水の海洋放出について、このコラム欄で数回報じてきたので読者の中には辟易された方がいるかもしれないが、やはり言わざるを得ないと思うので書き出した次第だ。今回は人工知能(AI)が登場しない代わりに、韓国のローマ・カトリック教会(天主教)関係者が登場し、韓国の野党・反日活動家と同じように、福島第一原発の処理水の海洋放出に反対を表明しているのだ。

福島第一原発の復旧作業を視察するIAEAのグロッシ事務局長(2020年2月26日、IAEA公式サイトから)

ローマ・カトリック教会の総本山バチカン教皇庁の対外広報を担うバチカンニュースは6月30日、韓国のカトリック教会グループが、福島第一原発事故で生じた処理水の海洋放出に強く反対している、というニュースを大きく報道した。

以下、韓国のカトリックグループの主張を紹介する。

韓国のカトリックグループは、日本政府が地震と津波で大きな被害を受けた福島原発から海に冷却水を排水する計画に反対し、再び強く抗議している。韓国の司教たちは2021年、日本の司教たちと共に声明を出し、生態系の広範な汚染への懸念を訴えたことがある。

4月に公表された報告書では、原子力災害に関連して食品、海産物、農産物、畜産物に放射能汚染が既に見つかったという。韓国のカトリック司教の環境委員会、正義と平和委員会、および全国の教区団体42団体も、放射能汚染水の海への放出に対して警告を発表した。これについてCatholic Peace Broadcasting Corporation(CPBC)が6月28日に報道している。

教会グループは、多くの環境保護活動家、科学者、漁業共同体、教会グループを含むさまざまな側面からの激しい反対にもかかわらず、日本政府は計画通りに処理水の海洋放出を実施しようとしていることに懸念を表明し、「人類史上最も深刻な放射能漏洩事故が進行中である」と警告している。同グループはまた、日本政府の「放射能漏洩による汚染が収束した」、「福島周辺が安全である」という主張を否定している。

福島第一原子力発電所は2011年の大津波と地震によって大きな被害を受けたため、施設を冷却するために何百万トンもの水を使用した。最初は核放出が懸念されたが、それは回避された。廃棄物の処理についての数年にわたる議論の後、日本政府は浄化された水を海に放出することを決定した。

なお、BBCによると、ほとんどの放射性同位体は複雑なろ過プロセスによって除去されたが、トリチウムという同位体は除去できないため、処理水は巨大なタンクにこれまで貯蔵されてきた。

韓国のカトリックグループはまた、福島原発を運営する東京電力(TEPCO)と日本政府が、災害以降の排出に関する詳細を適切に公開していないと述べている。同グループは市民放射線モニタリングセンターと韓国環境運動連合が今年4月に公表した「日本の農畜産物の放射能汚染の分析報告書」を引用している。具体的には、「食品の広範な放射能汚染が確認された。海産物の5.3%、農産物の21.1%、畜産物の2.6%などが放射能汚染されている」という内容だ。

それに対し、このコラム欄でも紹介したが、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は福島第一原発の処理水の状況を検証した報告書を公表したばかりだ。それによると、水の検査結果が完全な浄化を示しているとして評価している。

しかし、韓国の教会グループは汚染水の海への放出への懸念は依然として高まっているとして、福島からの放射能汚染水を大規模なタンクに貯蔵し、環境にやさしい再生可能エネルギーへの移行を検討することを提案している。同時に、韓国のカトリック司教の環境委員会は、日本政府に対して透明性を確保し、福島施設に関連するすべてのデータを開示するよう求めている、といった具合だ。

韓国の教会関係者は一応、IAEAの報告を紹介している。IAEAは、福島第一原発の処理水を海に放出する日本の計画の安全性に関して評価するために、独自のサンプリングと分析作業を実施してきた。その結果、日本側の対応は正確であり、精度も高いものであったと判断している。「しかし」、韓国野党・反日活動家は依然、不満なのだ。そして環境保護グループが作成した報告書の内容を検証することなく鵜呑みにして繰り返しているのだ。一方、IAEAは核エネルギーの平和利用を促進する国際機関だ。この分野では世界的に権威がある。そのIAEAの最新報告書は福島第一原発の処理水の海洋放出に問題がないと評価を下しているのだ。

ところで、韓国の古里原子力発電所は毎年、50兆ベクトルのトリチウムを海洋に放出しているが、韓国の教会グループは処理水の海洋放出による放射能汚染の懸念をこれまで公式に表明したことがあるのだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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