地球上には、まだ多くの発見されていない生物が存在しているとされる。その中には、人知れず絶滅しようとしているものも多く含まれているし、すでに絶滅しているものもいる。絶滅が危惧されている生物たちを守るためには、発見して名前をつけて発表するという研究過程が不可欠となる。こうした研究に従事する生物学者の多くは、分類学という分野を専門にしている。
東南アジアは未発見植物の宝庫
新種発見というと華やかに見えるが、その裏には過去にさかのぼって調べるといった研究者たちの地道な研究の積み重ねがある。
『新種発見物語: 足元から深海まで11人の研究者が行く!』(島野智之、脇司編著、岩波書店刊)では、新進気鋭の分類学者を中心とした11人の新種を発見する過程で味わう驚きや喜び、苦労や努力の物語を紹介する。
東南アジアではこれまでにたくさんの植物の新種が発見され、今も発見され続けている。鹿児島大学総合研究博物館特任助教の田金秀一郎氏が参加する研究チームは、2011年から東南アジアに調査に入り、2015年頃から毎年約20種のペースで、これまでに140種を超える新種を論文で公表してきた。なぜ、こんなにも多くの新種が東南アジアでは見つかるのか。
東南アジア地域の植物は圧倒的に多様である一方で、その種類を研究し記述する植物学者の数が少なく、十分な調査が行われていないからだという。東南アジアは世界でも最も植物の多様性が高い地域の一つであり、熱帯雨林や水に頻繁に浸かるために落ち葉などの有機物が分解せずに堆積している泥炭湿地林など、さまざまな環境がモザイク状に存在している。それに適したさまざまな植物が存在していることが、多様性の大きな要因だと、田金氏は考えている。
田金氏は毎月東南アジアの森で調査を行い、日本に戻っては標本を整理して種名を同定するという生活を8年間ずっと続けてきた。これまでに調査したカンボジア、ラオス、ベトナムの地域で生育している植物のおよそ3~5%、ベトナムのある地域では20~25%の種が、どうしても名前が付かず、未記載という状況だという。東南アジアには、新種として記載すべき植物がたくさん残されているということだ。
ただし、次々に新種が発表される一方で、東南アジアでは急速に多くの植物が生育する森林が劣化、消失しているので、時間との戦いでもある。植物分類学者は日本をもとより世界的に見ても減っているが、やるべきことは多く、世界は植物分類学者を必要としているのだという。
地球上のまだ名前の付いていない生き物たちを発見し、解明し、守っていくという研究を知りながら、分類学の基礎知識も身につく本書。新種発見の裏側を本書で読んでみてはどうだろう。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。