「不正のデパート」関電の起死回生の一打

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不正のデパート・関電

6月28日、今年の関西電力の株主総会は、予想された通り大荒れ模様となった。

その理由は、電力商売の競争相手である新電力の顧客情報ののぞき見(不正閲覧)や、同業他社3社とのカルテルを結んでいたことにある。そのことによって企業価値が下がる、あるいはそれ以前に企業の事業姿勢やガバナンスに問題があるとする怒りがある。

関電は今年4月に経産省から業務改善命令を受けていた。不正閲覧は電気事業法に反する疑いが強く、そのことが指摘されたのである。これは2019年に明らかになった関電首脳への原発立地のキーマンからの賄賂問題につぐ2度目の業務改善命令である。

賄賂問題とは、原発立地地域である福井県高浜町の元助役であった故人の森山栄治氏が、1987年に助役を退任した後、原発ビジネス関係の民間企業に転身し、賄賂を手段として事業を拡大していった事件である。関電にとっては、原発事業は生命線であり、地元原発事業を牛耳る森山の機嫌を損ねることはできず、結果として3億2千万円の金品を関電首脳は受け取ったという構図である。このことで当時の社長は辞任を余儀無くされた。

カルテルについては、3度目の業務改善命令が出されることはほぼ確実で、これはもう異常という他ない。

株主総会では、株主から〝不正のデパートだ〟とする怒りを露わにする厳しい声が相次ぎ、経営陣の責任が厳しく問われた。株主は、森社長の解任や企業統治の改善を求める議案が提出された。

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関電の優等生〝大飯原発〟

株主総会に先立つ26日、私は福井県高浜町の隣のおおい町の関電大飯原子力発電所を視察する機会を得た。本来高浜原子力発電所を訪れるところだったが、今は何かと話題になっている高浜1、2号機の再稼働準備の真っ最中でとても対応できないとのことだった。

大飯原発に来たのは、かつて敷地内の破砕帯の活動性が原子力規制員会で取りざたされていた2013年以来なので約10年ぶりである。

1、2号機は廃炉が決まっているが、3、4号機は今や順調に稼働しており、高浜原発と並んで関電の発電の屋台骨を支えていると言って良い。

現在、関電の総発電量の約3割を原子力発電が担っている。そこへ今年7月にも再稼働が予想される高浜の1、2号機が立ち上がれば、総発電量の約4割を原子力が担う構図である。

森山問題をはじめ、首脳陣は法務違反含みのなんとも言いがたい体たらくだが、大飯原発はじめ若狭地域の原発は関西の電力大消費地を支える優等生というほかない。

大飯原子力発電所3号機(右)、4号機
日本経済新聞より

現場にみなぎる活力

大飯原発3、4号機といえば、2012年当時の野田佳彦総理の英断が思い起こされる。夏の電力不足、停電の危機を回避すべく、野田総理は〝国家的な危機を救うため〟として、これら2基の原発の再起動に踏み切ったのである。

その後、定期点検とともに原発は停止し、「世界一厳しい」とされる新規制基準をクリアするのに10年を要した。

2022年の末頃から順次起動し現在に至っている。

10年ぶりに足を踏み入れた現場では、作業員の往来に『ご安全に!』の掛け声が飛び交い、運転員の所作には自信と責任がみなぎる所作がそこかしこに見て取れた。

今年も酷暑が予想される関西の夏は、大規模停電などの大過なく過ぎ去って行くことだろう。

大飯原発の視察を終えて、この国のインフラをガッチリ支える原発の実力を改めて実感した。

新増設の未来:SRZ-1200

政府のエネルギー政策は、〝原子力の最大限の活用〟であり、再稼働の促進とともに新規原発の建設がGX実現における大きな目玉政策になっている。

若狭地域の地元の皆さんの原発新設に対する期待も大きく、聞けばそもそも大飯の敷地には大型原発が7、8基は建設できるというのが立地当時の触れ込みであり、実際そのようなスペースはあるとのことだった。新規制基準のもとでは、火災の延焼防止対策はじめ様々な追加的安全対策やテロ対策(いわゆる特重施設)の結果、利用できるスペースは減ったが、それでもまだ大型原発数基程度が収まる余地はあるという。

関西電力は加圧型軽水炉(PWR)のユーザーであり、三菱重工との繋がりには歴史がある。三菱重工は革新的軽水炉の決め打ち:SRZ−1200を打ち出している。発注さえあればいつでも動き出せるとのこと。しかもこの原子炉、合理化設計により安全性が格段に高まった上、いわゆるテロ対策の特重施設はもはや不要だというのである。

記事冒頭に挙げたような一連の不祥事や法令違反がなければ、今頃はすでに新規原発建設の具体的な動きが興っていたはずと私は推察する。

なぜなら、今年の5月関電は1兆円を超える規模のIT投資を表明している。大規模データセンター「関西電力サイラスワン株式会社」の設立である。資金調達能力は健在なのである。

1兆円を超える規模となれば、三菱重工の革新的軽水炉の決定打SRZ−1200(120万kW)が2基建造できる。なぜなら三菱重工の想定価格は6200億円なのである。

関西電力は、企業体質、ガバナンスの改善を急ぎ、本来の家業の主軸である原発新設に早急に乗り出し、国家課題であるGX(グリーントランスフォーメーション)実現へのブレイクスルーの役目を果たすべきではないか。

原発新設は、不正のデパートの汚名を一新するだけでなく、何となく曇りがちな日本の原子力の暗雲を振り払う起死回生の一打となるに違いない。

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