財務省、木をみて森を見ぬタワマン節税へのメス

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財務省は本当に不人気だし、日本経済全体をもっと俯瞰するチカラをつけないといつまでたっても悪代官の異名を払しょくすることはできないと思います。

今回、富裕者層の間でよく使われたタワマン節税にメスを入れることになりました。2億円ぐらいで買ったタワマンの高層階の物件でも相続上の課税評価は極端な話、5割、6割圧縮どころか、4000万円ぐらいまで圧縮できるケースもあり、相続税対策のテクニックとして使われてきました。今回、この「不公平さ」を是正するために圧縮率を「改悪」し、節税の魅力を低減させるようにします。実施時期は早ければ来年早々ともされます。ただ、圧縮率の変化ですので引き続き節税としての効果はあります。詳細は今後、判明してくるでしょう。

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財務省の姿勢は「決して相続税強化ではない」としています。言い分としては相続税は令和5年の歳入計画上、2兆7760億円で全体の2.4%しかないというわけです。とはいえ、消費税(20.4%)、所得税(18.4%)、法人税(12.8%)に次ぐ4番目の収入源です。岸田首相は増税に前のめりですのでフォローの風は吹いています。また、長期的な国家財政という点では世界共通ですが、税収不足は常態化、悪化の一途を辿ります。理由は社会サービスの維持とそのコストが膨大になっているからです。

よって健全な税収を得ることは重要なことである、と言う意義は分かります。が、このような目に見えた税収増にもならない小手先の施策で、重大な意味をなさない「税捕捉の修正、強化」は大魚を逃がすことになると思います。基本的に財務省を含めた役人は目先の公平の原則にのっとり過ぎていて肝心かなめなポイントを外してしまうのです。残念です。

私は不動産事業を37年ぐらいやっている中で単なる事業者というより都市計画における不動産事業という位置づけを考えてきました。例えば不動産価格上昇は悪か、といえば行き過ぎはダメですが、不動産が健全で安定した上昇を示すことは国内経済が大きく回転するようになり最終的には法人税や所得税の税収増につながるのです。

端的に言うと日本の住宅は木造2階建てが主流です。昭和40年代頃に建てられたものもまだ多く残っていますが、それは当時、国を挙げて住宅の所有率を世界水準である60%台半ば程度まで引き上げようとしていた為です。当時の住宅取得ブームはその背景であり、安普請な家でも「所有」することを大義としたわけです。ところがそもそも木造住宅の償却は22年、おまけに安普請の住宅でも居住者が高齢になると「だましだまし」住んでしまう訳です。

マンションブームはこれら古い住宅を持つ人が「駅近」「安全」「階段なし」「地震でも頑強」などを理由に転居促進が生まれました。当然、古い家は取り壊され、新たな息吹が生まれます。つまり不動産に回転力が生まれ、それが経済の活性化となるわけです。

タワマンも同様で一定の不動産の回転を生み、東京のみならず、地方にすら億ションを生みました。不動産は経済の中で最もパワフルな経済効果を生み出すツールです。6割の人が所有する不動産はウン千万円以上するわけで年間2%程度の値上がりだとすれば定期預金ですずめの涙程度の利息に比べたら圧倒的にパワフルであることは一目瞭然なのです。

ではタワマン投資は儲かるのか、といえば都心のごく限られた場所を除き、私はさほど強気になれません。2億円で買っても10年後に同額で売るのは一般的には苦労するはずです。理由は相続時の課税所得が小さいことが物語っています。マンションの場合、自分の土地は区分所有でその数%の所有であり、自分だけの特定の土地があるわけではありません。今は不動産が上がっているとされますが、その根源である土地の比率は小さいのです。つまり、不動産価値のほとんどは減価償却される建物部分にあり、かつその管理費、修繕積立金は高いのです。

よってタワマンは相続税対策では有効だけど実際の利益では場所によりけり、です。

海外の不動産を長年見ている限り、東京が向かうのは都心の不動産は投資家や外国人が所有し、一般的な勤労者層は郊外に押しやられるというシナリオです。NYでもロンドンでもトロントでもこれは同じで東京だけが2-30年遅れてしまっています。が、その流れは出来つつあるとみています。

国交省としては地震対策上、古い建物を新しくし、より安全で環境に適合した快適なまちづくりができます。官邸レベルでも海外からの投資を呼び込める上に土地の比率が少ないタワマンは安全保障上も都合がいいはずなのです。当然ながら財務省にも金は落ちます。国際金融都市東京を目指したいならこんな子供の小遣い稼ぎのような税の改変をしている場合ではなく、日本の富裕層を餌に海外マネーを釣り上げるぐらいの発想が欲しいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年6月29日の記事より転載させていただきました。

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